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赤い毛
学生寮に慣れた頃、山下さんの部屋に集まって駄弁っていたら「俺は明日、アメムラノフリマへ行く」と宮内が言った。
アメムラノフリマとは何のことだかわからない。適当に「そうか」と言っておいたら、山下さんが「百君も一緒に行ってみたら?」と何だか面倒くさそうなことを言い出した。「多分、好きだと思うよ」
「全体、アメムラノフリマとは何です?」
「心斎橋のアメリカ村でフリーマーケットをやってるんだよ」
「アメリカ村という所があるんですか」
何だか、赤青白のしましまで「アメリカ村」と書かれた看板と、幼稚園の不用品バザーみたいなのが頭に浮かんだ。あんまり面白そうに思えないが、宮内はパンクスである。幼稚園の不用品バザーに好んで行くことはないだろう。それで「じゃぁ、行ってみよう」と言っておいた。
翌日、宮内は随分気合の入った格好で現れた。
ブラックジーンズと黒のロンTに安全ピンをずらずら並べて、人をくったような丸いサングラスを鼻に掛けている。靴は編上げの安全靴だ。
「俺はパンクスだからね。これが正装なんだよ」
自分はヘビメタだけれど、この時点ではまだ髪も長くないし、一向ヘビメタらしくない。もっと頑張らなければと決意を新たにした。
心斎橋駅から少し歩いて、若向けの小洒落た一角に着いた。そこがアメリカ村なんだそうだ。しましまの看板はないようだった。
「あそこでフリマやってるんだ」
屋外駐車場みたいなスペースにテントがたくさんあって、その中でロックTシャツ、アクセサリー、その他雑貨等をあれこれ売っている。なるほど、これは山下さんの見立て通りだと得心し、ツェッペリンのTシャツとチョーカーと指輪を買った。
フリマを出ると、赤毛のモヒカンが歩いていた。昨今のようなお洒落モヒカンではなく、北斗の拳に出てくるザコキャラみたいな、毛の幅が狭いタイプのモヒカンである。毛の長さが五十センチぐらいありそうなのを、立たせてひょこひょこ歩いている。
「モヒカンだ」と、宮内が感心したような声をする。自分もモヒカンをリアルで見たのはこれが初めてだったから、さすがはアメリカ村だと大いに感心した。
モヒカン氏はそのまま道路を渡って行った。通りかかった車が信号で止まり、ルーフの向こうから赤い毛先だけがひょこひょこ見えた。
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