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見切り発車で飛び乗るな。
大型連休を機に実家に顔出すつもりだったんですが、私事の都合で帰れそうにないなと思って家族に詫びを入れたところあっさり了承頂きました。家族経営の事業が繁忙期だから帰ってきたところで歓待も出来ないし問題ない、暮れには都合がつきそうだからその時帰ってくれば良いべって。
まあ事実は事実なんでしょうが、2年半も顔を見せていない不孝者にかくも寛容な態度をとられるとかえって申し訳ない気持ちになっちまいますね。父ちゃん母ちゃんすまんなあ、今年の暮れこそはせがれのツラ見せるでよおなんつって。お国の言葉こんなんじゃねえけど。
そういう訳で、実家に帰って過ごすはずだった3日間が丸々己一人の自由時間になりまして。
あらかじめ予定のある私事以外を抜きにすれば、いきなり72時間もの巨大な空白を与えられても何をしたものか咄嗟には思い浮かばんのですよ。そんな調子でさてどうすべえと思いながら近場の飯屋で昼餉をとってた12時過ぎ、唐突にあるアイデアが脳裏に浮かびまして。
よし、とりあえず電車乗ろう。
アイデア未満の思いつき。
何処其処に行って何をしよう、という考えじゃないんですよ。とりあえず家に篭っててもしょうがねえから外出ようというただそれだけの話。まあ、ここ一週間毎日更新してるnoteのネタが欲しいという割と切実な理由もありますが。
行き先は県内、選択肢は北か南。北が山で南が海、どっちかというと海が見たいから南だな。そこまで2秒で考えて電車の路線を調べてみると、次の南行きの便はわずか25分後。それを逃すと次の便は1時間後。田舎故致し方無し。
速攻でメシかっこんで退店後、即駅に向かいたいところですが一度家に帰って下拵え。私だけかも知れませんが列車の旅には文庫本と音楽プレーヤーが欠かせんのですよ。それとnote用の閃きとかを認めるためのペンとメモ帳も必須。そいつらをバッグに突っ込んだら風のようにすっ飛んで駅までGO。ホームに駆け込んだらその30秒後に一両列車がご到着。人生もこんくらいテンポ良く進んでくれれば良いのに。
一人旅経験者の方ならご理解いただけると思いますが、田舎の一両列車ってのは中々風情があって良いもんです。閑散とした車両内のボックス席に一人座って車窓に流れ飛ぶ景色を楽しんだり文庫本をめくったりするのは結構なリラクゼーション効果が見込める行為でして、それ自体が旅の一部というよりメインの一つですらあると思う次第です。行き先はさて置いても先ずは列車に乗りたい、先の思いつきはこういうところから始まっているわけでして。
で、いざ飛び乗ってみたら普通にパンッパンなの車両内。ボックス席は言うに及ばずロングシートも全埋まり、どうにか吊り革は空いているという推定乗車率130%の三密ぶり。大型連休をナメていたとしか言いようがありません。優雅にボックス席に座るなど夢のまた夢、どうにか吊り革に掴まって音楽プレーヤーを起動させるのが関の山。
そうしてスタート致しました片道1時間各駅停車のぶらり旅。行き先は以前にも訪れたことのある港町、そこを少し散策しようかと思う次第。
最初は呑気にそんな事考えていたんですが、列車に揺られはじめて5分もした頃早々に思いました。
あれ、これnote書く時間あんまり無くね?
って。
さっきも言ったとおり現在一週間限定でnote毎日更新の縛りプレイをしているんですが、今現在の私だとどう頑張っても執筆に4時間、下手したら5時間弱かそれ以上はかかるんですよ。
翻ってタイムテーブルを確認すると、行きの列車がスタートしたのが12時半を過ぎたくらい、そこから1時間強かかって港町に着くのが14時前。そこから乗車できる帰りの便は直近で15時過ぎ出発、帰り着くのは16時過ぎ。さらに駅から自分ちにスライディング帰宅してnote書き始めるのは16:40。4時間以上かかる執筆時間を加味すると、今日note上げられるのは最速でも21時前になりそう。滅茶苦茶カッツカツじゃねえかふざけてんのかこの野郎。
ふざけてんのはてめえの無計画ぶりだと気づく余裕もありません。ましてやぶらり各駅停車の旅を楽しむ心のゆとりなど論外です。こうなると脳内に浮かぶ考えはただの一つですよ。今日のnote何書こうって。せめて車両内で少しでも記事の方針なり構成なりをまとめて時短したいという悪足掻き。
車窓に流れる田園風景を見ても「今日のnote何書こう」。
渓谷の合間に見え隠れする古くからの集落を見ても「今日のnote何書こう」。
白波が打ち寄せる海岸とそれを見てはしゃぐ幼児を見ても「キョウノノートナニカコウ」。
そうして時短達成するどころかただの何書こうbotに成り果てたままで降り立ったのは、かつて一人旅の舞台に選んだ事もある昭和レトロな港町。
港あり商店街ありちょっと小洒落た店もあり、鄙びてこそいるけれど中々に魅力的な町なんです。日がな一日そこら辺をぶらつくだけでも十二分に楽しめるポテンシャルを持っている。
だけどこちとら楽しむ余裕なんて有りゃしないんですよ。noteのネタも構成も整ってない上に、よしんばその辺が固まっていたとしても滞在許容時間はたったの1時間。こんなんどうせいちゅうのかと。
せめて前回の一人旅のリプレイとして商店街と港だけでも目に焼き付けておこう。そう思いながら歩きはじめました。
朽ちかけたスナックの突出看板が林立する、在りし日の面影を偲ばせる繁華街跡地を抜けたら商店街。前回の一人旅でもお世話になったちょっとお高い居酒屋を横目に河口沿いの歩道を直進。
そうして行くうちに見えて来た港の入り口、コンクリートの岸壁には白に塗られた漁船がずらりと横一列に停泊中。
近くに誂えられた木製のベンチに腰掛けてしばしの休憩。
目に映るのは海の青と漁船の白。
耳に届くのははしゃぐ子どもの笑い声と、頭上に響く海猫の鳴き声。
そうして5分ほどぼんやりした後、思いました。
よし、帰ろう(列車出発まで後20分)。
わかっちゃいたけど何の着想も得られませんでした。在るのはただただ刻限のみ。
風情も情緒もかなぐり捨てて元来た道を引き返し、何を血迷ったか途中で昭和レトロ感満載のケーキ屋さんに入って生チョコのショートケーキとシュークリームを注文。しかも食べやすいシュークリームじゃなくてショートケーキの方をセロファン剥がしてそこら辺のベンチで食す有様。取捨選択が混迷の極み。
糖分補給を終えたら小走りして駅のロータリーに到着。Suicaどころか券売機すらない構内で駅長さんに行き先を告げて現金で切符を購入し、既に待機中の一両列車に飛び乗ったら息つく間もなく出発進行。行きも帰りもテンポだけは良いっていうね。
総じて、徹頭徹尾バッタバタで楽しむ余裕はありませんでした。スマホ買い替えを思い立って即失敗した記事でもそうでしたが、自分の場合はノープランで事を始めるとつくづくロクな結果にならないようです。同じ失敗を繰り返してる事にネタ抜きで嫌気が差して来た。
ただ、唯一の収穫が帰りの列車内にありまして。
行きではありつけなかったボックス席に最初から座る事ができて、そこで延々文庫本を読んでいました。読んでいたのは平山夢明の”ダイナー”、ある人から教えられた長編ノワール活劇です。
強烈なバイオレンス描写が飛び交う作品なので万人には勧められないのですが、とにかく破茶滅茶に面白い。どぎつい暴力描写だけが売りなら悪趣味な作品で終わるだろうけど、キャラクターのリアリティが抜群に素晴らしいもんだからページをめくる手が止まらない。これは久々に当たりを掴んだという気がしています。
その上で言いたいのは、その本自体の面白さのみならず、列車のボックス席だからこそ読書に没頭できたという事です。
冒頭でも話したとおり、一人旅の列車というのはこの上なく読書や思索に適した空間だと常々思っています。外の風景が絶えず変わり続ける適度な刺激、それに振動の少ない車両。外音を遮断さえすればそれこそ自宅や図書館以上に思索も読書も捗る空間です。
これまで何度も列車での一人旅を行う中で、列車内での読書は旅行それ自体にも劣らない娯楽なのではという考えを抱くようになりました。いつかはその仮説を実証してみたいと思っていましたが、今回衝動的に実験してみてやはり間違いなかったと思う次第です。
何の用事も無いけれど、列車に乗って本を読む。
機会があれば騙されたと思ってやってみて下さい。効きますよ。本当に。
まあ、そういう風に良い感じの言葉でシメようとしたところで。
文字通りの見切り発車でバカを見た事実は変わらないんですけどね。
何だよ「案ずるより産むが易し」だの「巧遅は拙速に如かず」だの諺って普通に嘘つくなァこの野郎!!!!!
あ、「急いては事を仕損じる」ってのもあったなそういや。
己の浅慮に呆れる余力も時間もありません。今日はここらで筆を擱きたいと思います。
嗚呼、どうせ行くならちゃんと一泊二日の予定組んどきゃよかった。しんどい(素)。