夏をのこしに
夏は、早くて速いものだ。
だからこそ、「残す」ことが大切だと思う。
「……よし、できた!」
「お、早いねぇ。僕はあと少しかかりそう」
追分での滞在も残り少しになった日曜日。
私と福永せんせは、追分での思い出を閉じ込めた手作りのアルバムを作っていた。
「え、ちょこっと見てもいいですか?」
「まだ駄目。君には完成品を見てほしいからね」
2人でスクラップブックを捲り、写真を貼ったり絵を描いたり。
思い出にまつわる文章を入れたり。
何を選んで、どう切り取るか。考えながらページを埋める時間が楽しく、愛おしい。
「それにしても難しいねぇ…あれもこれも、いい思い出だもの」
「確かにですねぇ…私も、けっこう厳選したけど、まだ入れたいもの多かったですもん」
出来たての、自分用のスクラップブックを改めて見返してみる。
追分に着いてすぐ撮った、玩草亭の外観。
仕事部屋にしていた2階からの景色。
「蝶々夫人」のレコードが回るところ。
夏の間、沢山食べたオクラの胡麻和え。
ありったけのトマトや茄子を突っ込んだ夏野菜カレー。
素麺とつゆの写真は、ガラスのつゆ入れが2人分並んでいるのが愛おしくて撮ったものだ。
カメラ片手に、2人で出かけた日の記録は一番多い。
空の色、日傘越しの道の風景。
小さな花に、通りの景色。
細い抜け道の向こうに見える時計。木漏れ日の緑。
福永せんせに私の視界を見せたくて、たくさんデジイチのシャッターを切ったんだっけ。
市民映画祭の「オペラ座の怪人」を見に行った日のチケットは、1枚手元に残しておいた。
見終えたあとは「あれは凄い」と2人で感想を語り尽くしたんだよね。
中村さんがチケットを渡しに来たときの小さな騒動も、今やすっかり愛おしい。
2人で作ったA4用紙の横幅くらいの直径の大きなプリンは、食べる前の記念写真と食べ終えたあとのお皿も撮った。
まさか福永せんせが、あんなに早く半分平らげるとは思わなくて驚いたんだったなぁ。
「帰ったらまた別の味も作ろう」って、せんせの言葉もとびきり嬉しくて。
どの写真を見ても、昨日のことみたいに思い出す。
優しく甘く、愛おしい、追分で過ごした日々のことを。
そして、
「………うん、よし!できたよ!」
「お、できました?じゃあ今度こそ!」
「勿論。ほら、見せてあげるからこっちにおいで?」
願わくば、せんせにとっても、そんな1冊が出来ていたらいいなって。
そんな柔らかな願いを胸に、福永せんせの隣へ向かった。