【fromラボ】「運動や芸術鑑賞」と「DHA、ARAの摂取」を組み合わせると認知機能維持に効果?
サントリーグループのサントリーウエルネス(株)健康科学研究所(京都府相楽郡)はこのほど国立長寿医療研究センターと京都大学大学院と連携し、「運動・芸術鑑賞」とドコサヘキサエン酸(DHA)やアラキドン酸(ARA)といった長鎖高度不飽和脂肪酸の摂取を組み合わせると認知機能が維持する可能性があることを確認した。サントリーウエルネス(株)健康科学研究所は長年、「脳の健康と脂質栄養」に関する研究を行っており、今回の研究もその一環。
高齢化社会が進む日本では、2025年に65歳以上の5人に1人が認知症になると予測されており、加齢に伴う認知機能低下への関心が高まっている。2019年に世界保健機関(WHO)が発表したガイドラインでは加齢に伴う認知機能低下リスクを低減するには適度な運動や認知トレーニング、社会活動などが推奨されている。また、脳の構成成分であるDHAやARAなどの長鎖高度不飽和脂肪酸の摂取が高齢者の認知機能維持によい影響をもたらすと報告されている。しかし、「運動や知的活動などの生活習慣」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」を組み合わせた際の認知機能への影響は明らかになっていなかった。そこでサントリーウエルネス(株)健康科学研究所らは今回の研究を開始することにした。
「運動」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」を組み合わせた研究の解析方法は、運動習慣がなく物忘れを訴える60~70歳の男女90人が対象。対象者を2つ以上のグループにランダムに分け、有効性などを評価する試験「ランダム化比較試験」を実施し、認知機能に対する「運動」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組み合わせの影響を検証した。対象者を「運動なし+長鎖高度不飽和脂肪酸を含まないプラセボ食品」」「運動あり+長鎖高度不飽和脂肪酸を含まないプラセボ食品」「運動あり+長鎖高度不飽和脂肪酸を含んだ食品」の3つのグループに分け、それぞれ運動および食品の摂取を24週間実施した。試験の前後には神経心理テストを行い、重要なものごとに素早く気づく力「注意機能」や一時的に必要な情報を覚える力の「作業記憶」といった認知機能を評価した。また、四肢骨格指数(筋肉量)により、認知機能低下リスクが高いとされるサルコペニア(加齢により筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態)の傾向がある集団を対象に解析を実施した。
その結果、サルコペニアの傾向がある集団で「運動あり+長鎖高度不飽和脂肪酸を含んだ食品」のグループの注意機能と作業記憶が「運動なし+(長鎖高度不飽和脂肪酸を含まない)プラセボ食品」のグループと比べて改善。一方、「運動あり+(長鎖高度不飽和脂肪酸を含まない)プラセボ食品」のグループでは改善が見られなかったという。
図)各グループの注意機能、作業記憶の変化量(試験前後)
また、映画や音楽を楽しむ「芸術鑑賞」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」を組み合わせた研究の解析方法は、国立長寿医療研究センターで行っている老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)の参加者のうち認知症の既往や傾向がなく、かつ解析に必要な項目がそろっている60歳以上の男女517人を対象に4年間の追跡調査を行い、組み合わせの影響を検証した。認知機能維持の判断には、認知機能検査の神経心理テストの一つである「MMSE」の質問票を活用した。芸術鑑賞は活動頻度により「高」「低」の2つのグループに、長鎖高度不飽和脂肪酸は3日間に摂取した食品名と摂取量などを記録した調査から算出した摂取量により「多」「少」の2グループに分けた。芸術鑑賞と長鎖高度不飽和脂肪酸の交互作用を確認し、摂取量が「少」、活動頻度が「低」のグループ組み合わせの認知機能低下リスクを「1」とし、組み合わせごとのリスクも評価したという。
その結果、芸術鑑賞の活動頻度とDHAやARAの摂取量の組み合わせが認知機能低下リスクを低減することが確認されたという。DHAとARAにおいて、芸術鑑賞の活動頻度「高」×摂取量「多」では、芸術鑑賞の活動頻度「低」×摂取量「少」のグループと比べて、4年後の認知機能低下リスクがそれぞれ約71%、約75%低減したことがわかった。
図)芸術鑑賞の活動頻度とDHA・ARAの摂取量の組み合わせと4年後の認知機能低下リスクとの関連
サントリーウエルネス(株)健康科学研究所は、サルコペニアの傾向がある高齢者は「運動」を単独でするよりも「運動」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」を組み合わせた方が認知機能の一部である注意機能、作業記憶の維持に有用である可能性を明らかにしたとしている。さらに、日本の一般的な高齢者を対象とする疫学データの解析により、「芸術鑑賞」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組み合わせによる認知機能低下予防の可能性を明らかにしたと指摘した。