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「朝陽が昇るまで待って」Vol.6

「もし今夜世界が終わるなら、私は、どうしたい?」

自分を「テルミン」と呼ぶ演劇プロデューサーの輝義と、ヘアメイクアップアーティストの千人(セント)。二人のオトナな純愛を小説とも脚本とも詩ともいえる自由なタッチで描いた作品をmosaique-Tokyoの俳優、吉木遼・松谷鷹也が”朗読アクト”として映像化。

読んで、見て、聞いて。一度で3度おいしいパッケージです。

テルミンが千人と結ばれようとしないのは、過去にある男を「殺した」から。その事実を知った千人。少しずつ分かっていく好きな人の”事情”を知って、知らない顔に出会って絶望して、それでもなお受け入れて好きでいられるのか。男×男ゆえに一層透明度が増す世界観をぜひ体感してください。

脚本)中井由梨子

出演)テルミン:吉木遼 / 千人:松谷鷹也 

   音野ことね:吉沢果子 / 有村夢乃:安楽楓

   葵:中井由梨子

撮影・編集)松浦正太郎


「朝陽が昇るまで待って」Vol.6

風がゆらりと舞い落ちて
春はまだ、遠い。

ことね「また来てたわ、あの子」
夢乃「あの子ですか」
ことね「今日は入り口の掃除してた」
夢乃「わあ…」
ことね「困るわ、断りもなく。先週は勝手にお客様ご案内しちゃうし」
夢乃「シアター浪漫シティはこちらです!って叫んでましたね」
ことね「まったく。無理なものは無理なのに」
夢乃「本当に、無理でしょうか」
ことね「無理でしょ。うちは代々、女性スタッフがお客様をお迎えするのが伝統なのよ。男の子は雇えないの」
夢乃「ん~、今の時代に合ってない気もしますが…」
ことね「え?」
夢乃「女性とか男性、っていう括り方が。女性じゃないといけない理由って、伝統だからっていうだけでしょ?」
ことね「それだけじゃないわよ、女性のほうが華やかだから、とか気遣いができるから、とかいった理由も…」
夢乃「男性にだってそういう人はたくさんいますよ」
ことね「…ん。まあ、ね」
夢乃「前例がないっていうだけで、可能性を潰してしまうのはどうかと思うんですよね…」
ことね「でも支配人は絶対ダメだって…」
テルミン「こんにちは」
夢乃「テルミンさん、おはようございます!」
テルミン「どうしたの、音ちゃん。そんなに眉間に皺寄せたらブスになるわよ」
ことね「ひどい顔してました?」
テルミン「してた。二人とも客席の花なんだから、もっとスマイル」
ことね「(笑顔で)失礼しました」
テルミン「ね、新しいバイト入れたの?さっき可愛い子に正面で挨拶されたわ」
ことね「押しかけなんですよ」
テルミン「押しかけ?」
ことね「ひと月くらい前から、この劇場で働きたいって言って毎日通ってくるんです。どうも演出家になりたいらしくて、人出は足りているから他を当たって、と言ってるんですけどここが良い、って言い張って。ああやって毎日通ってきて掃除やらゴミ捨てやらお客様案内やら、頼んでもいないのにやってるんですよ」
テルミン「あら、大助かりね」
ことね「笑いごとじゃないですよ。うちは女性スタッフじゃないとダメでしょう?支配人は雇えないの一点張りだし。どうしたものやら」
テルミン「男の子はダメなの?」
ことね「ダメなんです、伝統だから」
テルミン「じゃあ私なら雇ってもらえるのね」
ことね「え?」
テルミン「私、女だから」
ことね「もう、テルミンさんはすぐ冗談言う…」


冗談、じゃないけどね。

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