龍田姫

もうひとつの「２０歳のソウル」～斗真の物語～⑥

コン、コン。 変な音が、夢の中から聞こえてきた。 コン、コココン、コンコッコ。 リズムが変だ。夢の中だというのに、僕はイラっとした。眉をしかめて音に耳を澄ます。しかし音はそれっきりしなくなった。一体なんだったんだろ。 　目を開けた。 　ああ、やっぱり夢か。時計を見る。午後８時３３分。また寝てしまったのか。ベッドの上で天井を眺めながら意識を少しずつはっきりさせていく。えーっと…、今日は何曜日だ？木曜日？学校に行かなくなって、４日ってことか？４日も無断欠席をしてしまった。そん

もうひとつの「２０歳のソウル」斗真の物語⑤

 市船吹奏楽部のことを、僕は何も知らなかった。 　そもそも、高校の吹奏楽部など興味すらなかった。同じ年の奴らとただ楽器を吹いて曲を演奏するだけの活動など、何が面白いのだろうとすら思っていた。それに高校では顧問は普通の教員だ。同じ時間を使って教わるならプロに教わりたいし、何より作曲を学びたい。既製の曲を演奏するだけなんて退屈だ。それに、同級生たちと一緒に群れることがどうしても苦手だ。部活となると音楽だけやっていればいいわけではなく、集団行動が必要になる。合宿があったり、季節に

もうひとつの「２０歳のソウル」斗真の物語④

「とりあえず、付き合ってみませんか」 　授業が始まって一日目。昼休みにクラスの女子から中庭に呼び出された。まだろくに喋ったこともない子だ。中学も違うから全く情報がない。というか、名前すら分からない。鬱蒼と木々や花壇の草木が茂る中庭には、ちらほらと生徒が通るだけで他には誰もいなかった。 「えっと、とりあえずって、何」 「だから、お互い良く知らないと思うけど、付き合ってから知り合うってことで」 　この女子はクラスでもよく喋るほうだなと思っていた。同じ中学の女子がクラスに多

もうひとつの「２０歳のソウル」斗真の物語③

「部活は入ったの？」 　珍しく母親が話しかけてきた。 「なんで？」 　聞き返した僕に彼女はぎこちない笑顔で言う。 「市船の吹奏楽って、強いんでしょ。全国レベルで」 　なんだよ、気持ち悪いな。急に母親ぶったことを言われても何も響かない。彼女の心の奥にある魂胆にしか興味が湧かない。おそらく、僕が家にいないほうが助かる事情でもあるのだろう。心配しなくたって、僕こそあんたら両親にはまったく興味がない。どこで何をしようと関係ないから、勝手に生きて勝手に死んでくれ。 「強いみたいだね。明

もうひとつの「20歳のソウル」斗真の物語②

  浮いている。 その感覚は登校初日、教室に入ってからずっと感じていた。いや、教室に入る前から、校門に入るずっと前、駅を降りて歩くうちに、いや、もっと前だ、家を出たとたんに…いや、違う、この制服に袖を通した時から、ずっと感じていた。 明らかに、僕は周りから浮いている。 ここは、僕の居場所じゃない。 この制服は、僕の着るべき服じゃない。この、どうしようもない違和感。 高校受験の失敗がこれほど自分を苦しめることになるとは思っていなかった。  　作曲家の父親の影響で僕は子供の頃か

もうひとつの「20歳のソウル」斗真の物語①

プロローグ   　あの日も桜が咲いていた。 「タカケンの後を継ぐのは、この俺です！」 　そう言われたタカケンは、あの時のあいつの言葉を、からかうような、けれど嬉しそうな目をして聞いていた。僕はあの時、何を感じていたのだろう。よく憶えていない。 　はっきりと憶えているのは、桜。 　一面の、真っ白な桜の中で、僕らは未来を見ていた。 　一年先の、三年先の、五年先の、十年先の。 　人生は長い。うんざりするほど長くて退屈なくらいだ。人生はずっとずっとずっと、続く。浅はかな僕らは、長い時

今日が誕生日の君へ✦5月29日生まれ✦

5月29日生まれの君へ 誕生日おめでとう 人は生まれる時も一人で 死ぬときも一人きり だから君は自分の足で立って 一人で歩いていくんだ 大勢でいようとも、誰を頼ろうとも すべては君の責任であり それは最大の特権でもある 君を縛る重たい鎖から 解き放たれて自由になろう そのために必要なのは、許すこと 過去に起こった嫌な出来事や 恨みを持っている相手のこと それを認めることとは少し違う 自分のために許すんだ 君が君を自由にするために 君が長い間頭を抱えていた問題は 光に溶け

今日が誕生日の君へ✦5月28日生まれ✦

５月28日生まれの君へ 誕生日おめでとう 言霊を信じるかい？ 言葉には魂があって 口にすると一人歩きを始めて 現実を伴って返ってくる 不思議な力を持っている だから僕たちは言葉を選ぶ 言葉を選ぶためには 思考を選ぶ必要がある だから僕たちはどんな風に考えるか 気を付けなければならない 思考を決めるのは 心が大きく関係している だからどんな気分でいるかが とっても大事だ でも僕らは人間だから 毎日いい気分ではいられなかったりする 苦しい時、悔しい時、辛い時、悲しい時 そん

今日が誕生日の君へ✦5月27日生まれ✦

５月２７日生まれの君へ 誕生日おめでとう 君は始まりの時を迎えている 今は不安かもしれない けれど恐る恐るでも 小さな一歩を勇気出して踏み出せ 自分を信じ切れ この宇宙が生んだ美しい音楽の一部 それが君だ 君にしか出せない音がある その音を嫌うな 信じきれ、愛しきれ 君の音には光が宿るだろう そして隣の誰かが奏でる全く違う音と 見事なハーモニーを生み出す そして宇宙の音楽は 人の心を、世界を、上昇させていく 目に見える結果で一喜一憂するな すべては完璧な音楽だ 不安を

今日が誕生日の君へ✦5月26日生まれ✦

５月２６日生まれの君へ 誕生日おめでとう 後ろを振り返るな 君の行く手が闇でも 背後の光に進んではいけない 君の後ろで光っているものは 本当の光じゃない 過去はただそこにあるだけで 君を包み込んではくれない 名残惜しそうに過去の光を 見つめないで たとえ君が過去の光に向かって走っても 絶対にその光の中には入れない 近づいたぶん遠ざかり 距離は縮まらず 君は走り続けて疲れ果ててしまう 過去は幻なんだ だからね たとえ真っ暗でも少し怖くても 前を向くんだ 一歩一歩、未来へと

今日が誕生日の君へ✦5月25日生まれ✦

５月２５日生まれの君へ 誕生日おめでとう 自由に駆けて行こう この大きな空を 君が考えているよりずっと 世界は遠くて広くて果てしない 生きている間に見える景色は ほんのわずかだ だからいつも心を謙虚に 想像の翼は大きくはためかせよう 自由とは 自分を律することから始まる 誘惑や怠惰や自分ではない負の感情を 君がコントロールできない時こそ 君は不自由となる ルールの中にこそ 自由があることを忘れるな 自分をコントロールし 体と心を自由に保つことができた君は 分かれ道で迷う