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ぢつと手を見る

 なんとなく秋の訪れを感じ始めつつあるこの頃、わたしはひたすら本を読んでいる
読書の秋に相応しく、図書館で新たに本を借りたり、おとなしく部屋の片隅に積まれた本だったりを、ひたすら
読書のことはずうっと好きで、それは幼いころから本が身近にあったからだと思う
図書館に連れられて行くことや、本屋さんを訪れることはとにかくワクワクするし、本のにおいが好きで、部屋に本を置くのはどことない安心感がある

 本を読むことは、わたしが今自分にしてあげられる安寧の求め方のひとつだった
今は何よりも心をとにかく無事で、やすらかなところに置いてあげなければならない


 九月の初めに、とても悲しい出来事が起きた
それは、わたしの魂の根幹を揺るがすような、ひとつひとつ、確かに積み上げられてきたものが、跡形もなく崩れ落ちてしまうような
まさに天変地異だった
わたしはひどく混乱したし、果てしなく絶望し、狼狽え、限りなく、深く深く傷ついた

 けれど、一体それが何だというのだろう?
わたしがそうなったとして、何が変わるわけでも、ないのに
起きてしまったことは起きてしまったことのままで、冷たく、無慈悲に、ただそこに佇んでいた

 どうすることもできなかった



 しばらくの間は一日中泣きつづけ、疲れたら眠る生活だった
ベッドに仰向けになったままいろんなことを考えながら、絶えず流れる涙を拭くこともせず、だんだんと部屋の暗さが心にしみこんでくるようで、枕元には湖が生まれた  ぢつと手を見る
食欲が湧かないから食事もとらず、体重は3kg落ちた
これまでは風邪をひいても、ワクチンを打っても、失恋をしても、誰かが亡くなっても、変わらず食欲だけはあって、それを誇りにしていたから、余計に惨めだった



 今はやっと落ち着いてきて、まあ、ときどきは暗澹たる気持ちになるものの、食欲もあってきちんとご飯も食べれているし、旅行の計画を立てたりおでかけしたり、自分のために時間を使って、よく眠り、前向きな日々を過ごせている


 大きな喪失はわたしからなにもかもを奪ったわけではなかった
ある人は、涙にくれ淋しさの中にいるわたしをドライブに連れ出し、ある人は話を聞き、一緒になって怒ってくれた
ある人は、わたしの悲しみに寄り添い、慰めてくれた
ある人は、わたしにおいしいご飯を御馳走し、励ましてくれた
たくさんの人がずっとわたしのそばにいて、様子を気にかけてくれた
今も昔も私は周りの人に恵まれている

 それにどれだけ救われたことか!たぶんあなたは知らないな
私には十分すぎる愛を受けた日々とこれからのこと



 本の話に戻ろう
わたしのそばにいてくれたのは、なにも人だけではない
芥川賞受賞作とか、大好きな村上春樹や江國香織さんの本を読んだり、積読から漁ってヘルマン・ヘッセの『知と愛』をちらっと読んだりしたのだが、わたしの悲しみに最も寄り添ってくれた小説は、よしもとばななさんの『うたかた/サンクチュアリ』だった

 元々よしもとばななさんには並々ならぬ親しみを抱いてきた
というのも、わたしの本名は、父が彼女の小説のタイトルから取って名付けてくれたものだから
そんな女の子が本を好きにならないわけがないものね!

 『うたかた/サンクチュアリ』は、別々の物語だ

 『うたかた』は、複雑な家庭環境で育った鳥海人魚という女の子が主人公にして語り手で、嵐という少年と出会い恋をする
脆いようで強かな家族のつながりと不器用な愛が繊細に描かれていた

 淋しさというのは、いつの間にか、気づかないうちに人の心にしみてくる。ふと目覚めてしまった夜明けに、窓いちめん映るあの青のようなものだ。そういう日は真昼、いくら晴れても、星がどんなにたくさん出ても、心のどこかにあのしんと澄んだ青が残っている。ずっと二人で暮らした母が急に生活からいなくなって、わたしはまっ青に染まっていたのだと思う。彼のくっきりした輪郭は、彼の孤独だったであろう半生からくっきりと浮かび上がり、私のささいな淋しさを取り去る力を持っていた。

よしもとばなな『うたかた』p24-25

 わたしはこの、よしもとばななさんが、一人称視点で、少女を語り手にして描くのが、すごく好きだな、と思う
生きることの淋しさ、美しさ、喪失と再生、そういったものを普遍的に描く、よしもとばななさんをこの先も愛さずにはいられないだろうなあ

 よしもとばなな作品で淋しさの色といえばもっぱら青だけれど、
わたしも今、青い色に染まっているのだろうか

 人を好きになることは本当にかなしい。かなしさのあまり、その他のいろんなかなしいことまで知ってしまう。果てがない。嵐がいても淋しい、いなくてももっと淋しい。いつか別の恋をするかもしれないことも、ご飯を食べるのも、散歩するのもみんなかなしい。これを全部"嬉しい"に置き換えることができることも、ものすごい。

よしもとばなな『うたかた』p67

 まさにわたしの心境そのまますぎて、心を読まれたのかと思った
人を愛することは素晴らしく甘美で、絶望的に苦しい

Loving you was young, and wild, and free
Loving you was cool, and hot, and sweet
Loving you was sunshine, safe and sound
A steady place to let down my defenses

Camila Cabello / Consequences


 一方『サンクチュアリ』は、最愛の夫と子供を失ってしまった馨という女性と、高校の同級生であり、恋人だった人を失った智明という青年が、その地獄の底ともいえる場所で出会い、寄り添いあいながら、癒えることのない悲しみに向き合っていく物語

なんでこんなに普通の人の上に、そんなことが起こるはずがあるのか。この人が、急にひとりきりになってしまうなんてことが。しかし、世の中とか運命は情け容赦なく、人生はなんてバカなものなんだ。結局、なにがあってもこの人のように自分でやっていくしかないんだ、誰もほめてくれなくても、こんなふうに笑って。

よしもとばなな『サンクチュアリ』p153

「最近やっと、あれはもう終わったことなんだと思えるようになりました。忘れることは不可能ですが、人は自分をやる他ないです。友子のことがどんなに自分の人生をすり減らしても、後はなんとかやっていく他、ないですからね。」

よしもとばなな『サンクチュアリ』p165-166

 そう、人は自分を、人生をやっていく他ないんだ
どれだけ大切な人でも、どれだけ苦しくても、辛くても、かなしくても、、
わたしが揺るぎないわたしでいることが、わたしがわたしのまま、喜びも悲しみも抱えて生きていくことが、今のわたしを支えてくれた人たちや、ものに対する恩返しだと思う
生まれた日からわたしでいたんだ  知らなかっただろ
これからもわたしはいろんな出来事をnoteで昇華していくぞ!


 人生において最大級に悲しい出来事ではあったが、結果的に、変わらずそばにいてくれるかけがえのない存在たちに改めて気づくことができたし、人として大きく成長する機会でもあり、新しい景色を見るきっかけにもなった
これまでの思い出も全部含めて、感謝しています

100年先のあなたに会いたい
消え失せるなよ  さよーならまたいつか!





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