春よまだ、終わらないで

出会いも別れも、何も始まってすらいない。
私の中の春は、まだずっとここにいる。

流れゆく季節の中で、いつまでも歌を聴いていたいよ。
ちゃんと変化した空気の匂いを感じて歩きたいよ。

人々のうわついた心も、真新しい洋服を着て乗る満員電車も、全部まだ味わえていないから。

時間は、待ってと言っても待ってくれないね。

ずっと待っていてと願っても、どんどん遠くに行ってしまうのかな。
あと何度春を過ごせば、私はそこまで行けるんだろう。
時間だけが過ぎても意味はなくて、私も追いつかなくちゃ。

また、歳だけとってしまったよ。
無意味のなかに意味を見出すことが生き甲斐だったんだ。

もう、みんなの顔なんて忘れてしまったね。
一年以上もこのままじゃ、何が本当かわからないや。
目だけを見て、表情で会話なんて当分できないのかもしれない。
それでも懸命に生きてきた私たちを、置いていかないでよ。

春よまだ、終わらないで。

おわり

あとがき

春、気がつけば終わっていましたね。
私たちがこうしている間にも、夏は近づいてくる。時間は待ってくれません。人々が平等に欲しいのは、もしかしたら時間なのかもしれませんね。
花粉症から解放されるのは嬉しいけれど、さくらを見ることすらできていないのは悲しく思います。サムネイル画像は、昔行った京都で撮った一枚です。画質が落ちてしまいましたが、お気に入りの写真なので使いました。また、何も気にせずに遠くへ出掛けたいです。