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jinen. 2025.01


はじめに

渋谷南平台にあるフレンチ「jinen.」に参りました。
「石かわグループ」の1つ、店主加藤さんはモリエールやINUA(かつて飯田橋にあった、nomaの姉妹店)の後に、石かわグループで日本料理のご経験も積まれています。
(↓前回の訪問はこちらから)

実際に食べたもの

ランチコースを、追加料金で2人前へ増量+リクエストにご対応いただきました。(ありがとうございます!!)

雉と蜆のスープ

ワイングラスのような形の器に顔を近付けると、心地良い磯の香りがふわっと鼻腔に広がる。
そして口に含むと、雉による透明でまっすぐな旨味に蜆のミネラルによって膨らみが加わった、柔らかな球体を感じる。

雉と蛤の組み合わせは初めてであったため、その理由をお聞きしたところ、蛤のオルニチンの旨味を加えることによる相乗効果と、年末年始で食べ疲れした胃を休める意図をもってご提供されているとか。

10月に頂いた雉のスープに比べて、味わいの彩りが一層増した印象を持ちつつも、さらりと爽やかにお腹と心を温めてくれる。

鮟肝と柚子のタルト

クリスピーで軽やかな香ばしさが詰まったタルト生地。
合わせるのは、鮟肝による磯の香りと抑揚ある旨味、柚子のコンフィチュールによる果実味ある甘みと柔らかな酸、炊いた九条ネギのとろける甘み。
最後に、柚子の皮による余韻がふわりと爽やかな空気を運んでくれる。

鮮やかさと豊かさが詰まった、でも自然で心地良い味わい。

七草粥リゾット 白神山地産生ハム

穏やかな緑の清涼感と土の香りが鼻へ届くと、思わずぱっと晴れやかな気持ちとなります。そして、その風味をお米の自然な甘みが包み込むことで、柔らかさを持った爽やかさが創出される。
生ハムを合わせて頂くことで、リゾットの温度に生ハムの熟した旨味と塩、脂が溶け出し、味わいに厚みが持たされる。

雪解けと春の兆しを彷彿とさせる一品。

牡蠣フライ

ブリオッシュを粗挽きにした、ザグザグとクランチーでジューシーな衣。そして、その存在感に負けない、ミネラルに詰まった牡蠣。物の良さと鮮やかな衣と相まって、臭みやしつこさは感じません。

合わせるタルタルソースには、燻製な香りを持たせることで、奥行きとアクセントが加わる。そして、サラダは瑞々しい林檎と縦に広がる爽やかなハーブによって、軽やかさも。

素材の香りや味わいを口いっぱいに頬張れる幸せに浸ります。

カリフラワーのムニエル

スペシャリテのカリフラワーのムニエル。
生の状態から30分付きっきりで仕上げてくださる、頭が下がる一品。

冬のカリフラワーは身が柔らかで、甘みが強いのが特徴。
口に含んだときの存在感は残す一方、スプーンのみで簡単に解れてしまうほどに、まるで積もった小米雪を崩すかのように、繊細な口当たりに仕上げています。
そして、バターの香ばしさが開かれると共に、カリフラワーが内に秘めた甘みが溶け、染み込んでくる。

合わせるソースは、エシャロットとマッシュルームをベースに、鶏のブイヨン、マディラ酒を合わせたもの。
煮詰めたマディラ酒による果実味と濃縮感ある甘みは、どことなく生搾りしたオレンジを思わせる。
そして、野菜の穏やかな甘みと鶏のブイヨンによるまっすぐな旨味が主体となって、厚みはしっかり感じられつつも、飲み物のごとく頂けるほどに爽やか。ちなみに、味わいに輪郭を持たせるためか、塩味はシャープな印象。

お聞きしたところ、ベースのお野菜を通常の3倍以上使用することで、ワインの量や煮詰める時間帯を少なくし、素材が持つ豊かな旨味と香りを立てて、口残りのないように仕上げていらっしゃるとのだとか。

スペシャリテというのは、お店の看板料理、シェフの得意料理という意味ですが、個人的にはシェフの人となりを移す鏡だと考えています。
シェフの朗らかさが心に染みる一品でした。


途中でリゾットを投入してくださります。
ソースと合わせて頂きます。
お米の粒感と甘みを、野菜の旨味が柔らかくコーデイング。
終始スプーンを置く暇を与えてくれません(笑)

みかんシャーベット

お口直しのシャーベット。
仕上げに、レモンチェッロをお掛けいただきます。
心地良いチャープさを持った清涼感が、お口をリセットしてくれる。

メインディッシュのお出まし。
仕上げとして、松の香りを纏わせております。

蝦夷鹿、ハンバーグ、エビフライ

メインは蝦夷鮑と、事前にリクエストしたハンバーグ&エビフライ。
食いしん坊の筆者でも身に余ると背徳感を感じてしまうほどに、夢がてんこ盛りに詰まったメインディッシュ。一噛み一噛み、幸せを噛み締めて頂きます。

あか牛をメインに、蝦夷鹿を合わせたハンバーグは、活き活きとした弾力がありつつ、気付いたら何処へと消えてしまっているほどに柔らかく繊細。
そして、優しくじんわりと広がる肉汁と旨味に、いい意味で拍子抜けというか、戸惑いを隠せませんでした。(もっと鮮烈な旨味が来ると予想していたため)この透き通ったエキスは、確かな豊かさを孕みつつ、牛由来と思えないほどに瑞々しい。

エビフライは鮮やかな衣の中に、むっちりで海老らしいミルキーな甘みが閉じこもっている。まさに絶妙な火入れです。

合わせるソースはすき焼きから着想を得たもの。
ベースの野菜、煮詰めたポートワインに、鹿の出汁とたまり醬油を加えたソースは、旨味と深みが浸透しつつも、すっと余韻が引いていく。
こちらに関しても、赤ワインを使わない他、ワイン自体の総量を少なくする代わりに、醤油や野菜による優しい旨味を引き立てていらっしゃるそう。

食べた傍から、またリクエストしたいと思うほどに虜になりました。

ハヤシライス

締めのお食事。この日はハヤシライスとスープカレーのご提供。
量を選択させていただけるため、わんぱく盛りでお願いしました。
(有難いことに、カキフライもセットで…!)

どれほどの野菜が使用されているのでしょうか、ぽってりと満足感ある一方、口に残る感じやしつこさがない。ベクトルの異なる旨味が溶け込んだ、優しい旨味がふわぁと広がり消えていきます。
そして、衣にハヤシが染み込んだ牡蠣フライは、ミネラルと野菜の旨味と深みが溶け込み…言わずもがなご馳走です。

鹿のスープカレー

鹿由来の脂でしょうか。和牛のごとく甘いですが、味わいの粘性が低く驚くほどにさらさらとしています。
鹿と野菜による豊かな海に、スパイスが凛と味わいを引き締めていく。

先程あの量のハヤシライスを食べたにも関わらず、思わず貪ってしまうほどに食欲を誘発させる。

苺のミルフィーユ

キャラメリゼされたことで、熟した甘みとほろ苦さを孕んだ苺。ザックザックで香ばしく、でも一枚一枚が繊細に解けるミルフィーユ。

合わせるクリームは、黒豆を加えたディプロマットクリーム。
黒豆は、神楽坂石かわグループのおせちを作る際に、煮崩れしてしまったり、色が悪くなってしまったりして売り物とできなかったものを使用されているとか。
卵とミルク感に、黒豆の柔らかな甘みがまろやかに包み込む。
心満たされつつも、食べ疲れがない。

オペラ、小菓子

お祝い用にお願いしたケーキ(プレートでご用意いただいた後に、一口大に切り分けてくださいました)と、小菓子のアーモンドの入ったメレンゲ。
ちなみに、メレンゲに関しては、お土産にも持たせてくださいます。

デザートコース並みにスイーツまで頂けて、心とお腹がしっかり満たされました。

総論

日本の豊かな四季を愛で、移ろう恵みが持つ魅力を引き出すべく、従来の調理方法を見直す。
それによって生まれる味わいは、心満たす感覚がありつつも、胃にどっしり乗っかかる重量感はまるでなく、さらりと爽やかで朗らか。
「フレンチを食べに行こう」というより、「この季節の味覚を食べに行こう」と思わせてくれる品々です。

サービス

以前の訪問で感銘を受けたホスピタリティの高さ。
今回に関しては高い期待を持って伺ったにも関わらず、驚きと感動をいただきました。
以下、印象的だった点をまとめます。

  1. 何気ない言動も汲み取ってくださるきめ細かさ。
    お食事中こぼした何気ない一言に、シェフが気付いてくださり、調理方法や何故この料理を出そうと思ったのかなど、自分がまさにお聞きしたかったお話をしてくださりました。

  2. 身勝手な我儘にも寄り添ってくださるお心配り。
    予約人数の変更や追加オプションなど、イレギュラーなお願いを沢山してしまったのですが…嫌な顔一つせず、むしろ「具体的にご教示いただき、ありがとうございます!」と笑顔で仰ってくださりました。(勿論、ご対応も完璧でした)ゲストが少しでも幸せな気持ちとなれるようにと、一つ一つのお言葉遣いに徹底的にご配慮されていらっしゃることが身に染みて感じられました。

今回2度目の訪問でしたが、まるで何年も通ってきたかのように思えてしまうほどパーソナライズされた、温かなおもてなし。
当店のサービスを一度受けてしまうと、他店では物足りなくなってしまいそうです…(笑)

お値段

ランチコースを2人前(うち、メインディッシュはコース内のものを1人前、お子様用のハンバーグ&エビフライを1人前)、アニバーサリーケーキ×1、ノンアルコールティー×1、赤ワインハーフグラス×1で、計32,650円/1名でした。

まとめ

常連さんになりたいと思わずにはいられないほど、格別な時間を過ごさせていただきました。
写真を見返すだけで、あの時間が恋しくて堪らない…
お店のホームページ記載の一文目「鮎の季節だから、Jinen.のフランス料理を食べに行こう。」というフレーズ、そして加藤シェフとのお話から、稚鮎の時期に再訪したいと思っております。


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