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SENSE 2024.12


はじめに

東京日本橋にある、マンダリンオリエンタル東京の広東料理レストラン「SENSE」に参りました。

実際に食べたもの

よだれ鰤

北海道産の鰤は、神経抜きした後、1日寝かせて。
厚みがしっかりあって食べ応えがありつつ、死後硬直が抜けたことでふわりと蕩ける口当たりに仕上がっている。
そして、鰤ならではのふくよかな脂のりと旨味はありつつ、臭みは勿論、脂のくどさが露ほどにも感じられない。最後には、心地良い余韻だけがふっと広がる。

合わせるのは、胡麻ペースト、カシューナッツ。ソースは醤油をベースに、丁香、八角、桂皮、ラー油を合わせた物。
胡麻やカシューナッツの厚みとまろやかさに、ひりっと辛味が入ることで味わいに抑揚が生まれる。(豊かな海より押し寄せる波が、岸に当たりしぶくイメージ、でしょうか)
そして、仕上げにあしらわれた、マイクロコリアンダーによるほんのり青み掛かった爽やかさと、揚げワンタンのパリッと香ばしい食感と風味。

全てが一体となることで、豊かで華やかな味わいに。

真牡蠣の春巻き

ぎっしり詰まった牡蠣からは、柔らかく、でもしっかりと広がるミネラルとミルキー感。
勿論牡蠣自身のポテンシャルもありますが、大葉で包むことで、より臭みを感じず、より爽やかな印象を持たせます。

何より、春巻きの巻き方と火入れが繊細。
香ばしい風味を持たせつつ、余計な油分を含むことなく、牡蠣と大葉の味わいを目一杯に閉じ込めています。

合わせるのは、油淋鶏のソース。
甘みによってほんのり丸みを帯びつつ、まっすぐに感じる酸と清涼感が、全体をすっと引き締める。

プラチナポークの叉焼と山百合ポークの豆鼓焼き

叉焼は柔らかく押し返す弾力。
そして、さらさらと流れる豚肉のエキスからは、優しい甘みを孕んでいる。タレの華やかさと甘みと絡み合い、口の中で豊かにしなやかに広がる。
有り難いことに、これまでも何度か頂けているのですが、コースに入っている度に嬉しくなります。

首肉は、叉焼とは異なり、ショキショキと歯を押し返す心地良い弾力が新鮮。
そして、豆鼓に負けないほどに豚が甘く活き活きとしている。
一方で、余計な脂は抜いているためか、味わいの増幅と引きが滑らかで、余韻が美しかったです。

和牛の上湯湯引き

特記したいのは、やっぱりソース。とろみをつけた上湯に、春菊のペーストを合わせます。
上湯による滋味深さに春菊のほろ苦さが絡むことで、味わいをすっと引き締める。そして、最後に響く大人な余韻。

上湯と春菊がこんなに相性が良いとは、知りませんでした!
サーロインとの組み合わせも良かったけれど、鶏や豚、椎茸など他の旨味と合わせても、このソースが活かされそう。

京丹波町産 山城農園 京鴨と芽葱のダックロール

ダックロールの食べ比べ。

左はシグネチャーの組み合わせ。
芽葱やきゅうりによる瑞々しさと清涼感がぱっと開いた後に、カシューナッツやタレのコク、そして鴨肉のジューシーで甘い脂と香ばしさが続く。そして、身も合わせて頂くことで、エキスから来る旨味も味わえる。

右は変わり種ということで、鴨の皮にフォアグラを合わせていただきます。
フォアグラの濃厚な甘みに合わせて、皮の香ばしさを含んだ甘みとタレの甘塩っぱさが活き活きと光る。厚みがあって、でも中華らしい鮮やかな広がりです。

北海道産鱈の白子の甘辛炒め

口に入れた瞬間に分かる、白子の質の良さ。
混じりっ気のないミルキーな甘み。味わいは濃いのに、とろんと無くなってしまう。
カリッと厚手の衣、甘みによる柔らかさを孕んだ酸とスパイスが色付いたタレとのコントラストは、中華ならではのアプローチ。
正直、もっと頂きたかった。(笑)

燕の酢の頂湯蒸しスープ

鶏や豚肉のピュアな旨味に、金華ハムによる熟成された旨味が複雑に絡む。
燕の巣が入ることで咀嚼の機会が生まれ、より味わいの広がりと余韻が口に響いていく感覚。

活鮑と吉浜干し鮑

左奥はゆっくりと戻した干し鮑と、その戻し汁で作ったソース。干し鮑と水のみを使用した、今では滅多にお目にかかれない伝統的技法です。

干し鮑はぎゅっぎゅっと噛み締めることで、奥から旨味がじわりじわりと浸透してくる。(まるでジャーキーのような感覚です)
そして、ソースは「本当に干し鮑と水だけ?」と思うほどに味わい豊か。一方で、余計な物を一切感じないほどに透き通っております。
鮑のポテンシャルと水の純度、そして火入れの繊細さがあるからこそ成立する一品です。

右手前は、加熱したフレッシュ鮑に、鶏のエキスとオイスターソースを合わせたソース。
プリッとむっちりした鮑に、鶏の旨味とオイスターソースらしいフルーティな甘みと厚みが、味わいに深みと彩りを加える。

文化そのものを味わっているような高揚感と、身体の内からじわじわとみなぎる活力を感じる一品でした。

羅定式 骨付きスペアリブの香港産八珍ブラックビーンズ煮込み ココナッツの香りのタロ芋

スペアリブはぷるりと、豚の甘い脂を感じますが、十分に落とされているため全くしつこくない。
脂の濃度に合わせるためか、身の口当たりと旨味が若干弱まってしまう印象ですが、豆鼓の発酵による深みとふくよかさを持った甘みが重厚感を加えます。

合わせるのは、ココナッツの華やかな甘みを纏ったタロ芋ペースト。甘×甘の組み合わせですが、甘みのベクトルが異なるためか、寧ろアクセントとなって互いを引き立てています。

上海蟹と豆腐 きのこの土鍋煮込み

とぅるんとした滑らかな豆腐に合わせるのは、雄の上海蟹の味噌、生姜と葱をベースに少しオイスターソースを加えたソース。

蟹味噌は甘みと旨味が深く、茸の豊かな香りが加わることで、味わいが全面的に開きます。
濃厚ですが、素材の味わいがベースであるためか、変な後残り感や食べ疲れすることが全くなかったです。

春雨炒め

野菜物として、桜海老と小松菜の春雨炒めも頂きました。
心地良い青さと瑞々しい食感のある小松菜に、桜海老の華やかさと海老味噌を彷彿とさせる濃厚さが穏やかに絡みます。

京鴨の香港麺

北京ダックでは使用しない腿肉を活かした一品。
上湯が作り出す柔らかな球体に、鴨の脂が溶け込むことで、より鮮明な立体感と厚みが生まれたスープ。
そして、九条ネギが爽やかに、鮮やかに味を引き締める。
勿論、汁ごと完食です。

林檎とクリームチーズのアイスクリーム

アイスクリームにはクリームチーズの甘みのみならず、林檎のフレッシュな果肉感もある。
下の林檎のコンポートは、林檎の蜜のような甘みの後の赤ワインによる渋味。
仕上げに振りかけられたシナモンと相まって、ほんのり大人な余韻に浸ります。

お茶菓子

伺う度のお楽しみであるお茶菓子。
ふわんふわんの生地と黒糖のような甘みに、胡桃の香ばしさがアクセントとなったマーラーカオ。
ココナッツの華やかな甘みと共に、しゅわんと消えてしまうココナッツケーキ。
シナモンの香りの効いたほろりと柔らかく崩れるサブレに、ラ・フランスの熟した甘みが加わったケーキ。

総論

シェフの実直さとユーモアを感じる品々でした。
栄養摂取としての意味合いは言わずもがな、感覚的に頂くだけでは物足りず。この料理が根付いた土地の文化だったり、風土だったり、それに手を加えてお出しされるシェフの意図だったり…色々考えを巡らせたくなります。

サービス

土曜夜という忙しい日時の中、スタッフ、ソムリエ、そしてシェフによる、パーソナライズされたおもてなしをいただきました。
特に、私が以前頂いて好きだったワインをお覚えいただき、最後にお出しいただいた時は本当に驚きました(笑)
近頃人手不足の激しいホテル業界ですが…(偉そうですが、私はそのように鑑みております)
変わらずホテルの強みである、総合力とパーソナライゼーションを活かしたおもてなしをいただけるのは、本当に貴重だと思います。

お値段

コースとワインを3、4杯ほど頂き、約50,000円/1名でした。

まとめ

訪問の度に、新たな発見に出会う。
そして食べ手として、視野の狭さと考えの浅さを痛感してしまう…
次伺う際は、もっと感性と知識を高めて伺いたいです。(と言いつつ、すぐに予約してしまうことでしょう)


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