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蒼菓 2024.10


はじめに

デザートコースをご提供する「蒼菓」へ伺いました。
七ひろ」の店舗にて、月5回のみのご営業。
運良くキャンセルを拾うことができ、念願の訪問です!

勝手に評価!

  • 総合評価:4.6 凄く良い!

  • 料理・味:4.8

  • サービス:3.9

  • 雰囲気:4.4

  • コスパ:4.6

実際に食べたもの

アシェットデザートコースとティーペアリングのついた、おまかせコース(税込16,500円)一本のご提供です。

お席にはメニューとは別に、本日使用する食材の説明とティーペアリングの説明が書かれた資料をご用意されていました。

コースの始めに説明を交えながら、本日お出しいただく食材をお見せいただきます。

コロポックル村 赤木さんより
とうもろこし"雪の妖精"のムース
トマトのクリアシート

低温で蒸したとうもろこしで作られたピューレを、とうもろこしの芯で引いた出汁と合わせてできたムース。何と砂糖未使用で、少量の塩のみで甘みを引き出しています。
滑らかなテクスチャーからは、エネルギーをたんまり吸い込み蓄えたであろう、清らかな生命力ある甘みと柔らかなミルキー感を滋味深く感じます。

上には、トマトのコンソメのジュレがベールのようにかかり、トマトで作ったシートが添えられています。
地中のミネラルを吸った天然水をそれこそピューレにしたような、瑞々しい果実味。

とうもろこしとトマト。「夏野菜」以上の、何か特別な共通点があるとしか思えないほどに、調和のとれた一品に仕上がっていました。

北海道 尾藤農産2年熟成 北あかりのブランマンジェ
トリュフのアイスクリーム

ブランマンジェは北あたりを低温でローストし、ピューレ状にしたもので作っています。
紅はるかや安納芋の焼き芋のように、口当たりや甘みの密度が高い。
一方で、余計な甘みが添加されていないためか、調理の加減や手数に過不足がないためか、べたぁ…と後に残る感覚が皆無です。

トリュフのアイスクリームは、刻んだトリュフをバターでソテーし、アングレーズソースを合わせて仕上げています。
トリュフの香りはしつこ過ぎず、かといって弱くなることなく。豊潤でありつつ、粒子のごとく細やかで繊細な香り。それをアングレーズが優しく包み込み、丸みを帯びた味わいに。
そして、トリュフとアングレーズの間に隔たりというか、境を感じないことに驚きました。トリュフをバターソテーしたことによって、互いの乳分がシームレスな繋がりを形成しているのかな。

ブランマンジェとアイスクリーム、勿論単体として完成されていますが、合わせて頂くと、まるで互いが互いを求めていたかのごとく、それぞれの甘みと香りが自然に溶け合います。

和梨“あきづき”のクリュと仁淀川山椒風味の瞬間コンポート
すだちのクリームとジュレ

和梨は生のものと、仁淀川山椒と合わせて瞬間コンポートしたもの。
生の和梨は、繊維の細やかさが分かるシャキシャキ食感と、瑞々しさと濃度のバランスが取れた甘み。コンポートには、ほんのりと華やかな香りを持たせています。刺々しさや痺れは勿論なくて、このアクセントは山椒であると思えないほど。

クリームは酢橘とクリーム、ホワイトチョコレートをあわせたもの。もったり、ふんわり、まろやか、この3要素が共存した口当たり。まるで夢に浸っているような不思議な感覚となります。
ホワイトチョコレートの深みやクリームの広がりに、フレッシュな酸が輪郭を生みます。強すぎない、でも味わいがぼやけることのない、絶妙な匙加減です。

下には酢橘のジュレを添えることで、和梨とクリームを繋ぎ、後味もすっきりとさせる。縁の下の力持ち的存在。

山形県産 つきほし果樹 シャインマスカット
フロマージュブランのムース

シャインマスカットはフレッシュのものと、皮を剥きソーテルヌでマリネしたものと2種類合わせて。
生は外皮の中から弾けるような瑞々しい甘み、マリネはやんわりと溶け込み、熟した甘みとほんのりとスパイスや樽を彷彿とさせるような香ばしい香り。

フロマージュブランのムースは滑らかでありつつ、エスプーマのような軽やかな口当たり。
最初は牛乳を濾したような、芯はきゅっとしつつも縁はほんわかと柔らかなミルクの旨味や甘み。その後に、包み込むような、優しく赤ちゃんを抱えるような、柔らかな酸の余韻を感じます。

シャインマスカットのシロップ

こちらのシロップを途中でかけることで、味わいの変化を楽しみます。(使用しかけで大変恐縮です…)
こちらは、何と、6名分でシャインマスカット1房分を使用しています。
目を見張るほどに濃縮されたシロップ、まるでデザートワインのような、熟した蜂蜜のような、豊潤な香りと濃密な甘み。
一方で、デザートワインと異なる点として、余韻の中に混じりっ気ない瑞々しさもある。このシャインマスカットがいかに特別であるかが窺えます。

北海道 みよい農園 “MIYOI premium" 焼きたてパンプキンパイ
かぼちゃの種とジャージー牛乳のアイスクリーム

ホールをお見せいただきました。
こちらを切り分けてご提供いただきます。

北海道 みよい農園 “MIYOI premium" 焼きたてパンプキンパイ
かぼちゃの種とジャージー牛乳のアイスクリーム

南瓜は、厚い果肉と、高い糖度、栗のようなホクホクとした口当たりが特徴的な「くりりん」という品種です。海のミネラルをたっぷり含んだ堆肥で育った南瓜を、これまたミネラル感をもったきび砂糖と共にローストして。
中は焼き芋のような密度と、外はほんわかと空気との境目が曖昧になりそうな柔らかさ。
満足感ある広がりと、後にミネラルでしょうか、塩味や酸味とはまた異なるアクセントをほのかに感じる。

合わせるのは、ザックザック、ミッシミッシなパイ。
薄くて繊細な一枚一枚に、焼かれた小麦やバターの香ばしさが詰まっている。この重みというか、存在が何とも心地良い。

横には、ジャージー牛乳にメープルシュガーを加えたアイスクリームに、ローストした南瓜の種の香りを添えたもの。
ミルクの香りや甘みがピュアすぎる。まるで空気や想定されるあらゆる外的環境に晒らされたことがないような、それほどまでに優しくて純粋な味わい。メープルの熟した甘み、南瓜の香ばしさを丸く包んでいます。

沖縄カカオ果肉から抽出したジュレ
白神山地の軟水とカカオのガナッシュ

お品を出された途端、目がカッと見開きました。
顔を近付けなくとも分かる、カカオの濃密な香り。

まずはゼリーから。
ぷるぅんとした喉越しの良い口当たりと果肉感。そして、純度が著しく高い味わい。ピュアな瑞々しさに包まった酸が柔らかな爽快感を残します。

そして、ガナッシュ。こちらがとんでもなかった…
スプーンを入れる時点で分かる、もったりと粘性の高いテクスチャー。
チョコレートにカカオハスク(カカオ豆の外皮)のロースト、白神山地の軟水を使用した、生クリームを一切使用しない濃厚なガナッシュです。

ロに入れた瞬間、カカオの酸や苦み、コクがボリューム感と一体感をもって一気に四方へと伸びていく。カカオハストを2種類の手法でロースト、調合することで、風味のボリューム感と一体感を生み出します。
しかし、すぐにすぅ…と心地良い余韻を残しながら引いていく。何というか、静かな波が浜辺を撫でるような感覚です。

香り、味わい、口当たり。カカオの潜在力の高さを五感で味わえました。

浜松 影山さん "天使音マスクメロン”のショートケーキ

元々はお土産用にご考案されていたそうですが、状態が環境によって大きく左右してしまうことから、アシェットデセールとしてご提供されることとのこと。
カット前の物をお見せいただきました。

浜松 影山さん "天使音マスクメロン”のショートケーキ

結論、度肝を抜かれました。
メロン、生クリーム、スポンジ、各食材の溶け込みが非常に滑らか。口当たりから香りまで、全てにおいて味わいを阻害する要素が露ほどに見受けられない。

まずは、スポンジ。じゅんわりとシロップが染み込まれている。口に含むと、スポンジが溶け込むと共に、ほのかなメロンの瑞々しい甘みがシルキーに広がり、キルシュの華やかな香りと消えていく。
お聞きしたところ、アンビバージュには、メロンの種周りの果汁をベースに、シロップとキルシュを使用しているのだとか。これが橋渡し役として機能しているのかなと思いました。

次にに生クリーム。
口の中でふんわりと柔らかな輪郭を描くような、まるで雲を口に含んでいるような感覚。ミルクのピュアな甘みや香りが柔らかく広がります。
このケーキは2時間寝かせる工程を踏んでからご提供されています。このことで、スポンジは勿論、生クリームとメロンの親和性が極限にまで高められています。境界線のような違和感がなくて、とっても自然。

最後に天使音メロン。
6人前(一営業)につき、何と1/2玉を使用しているとか。
口へ運ぶ際に感じ取った香りから、このメロンがどれだけ格別であるかがすぐに分かりました。
瓜ならではの瑞々しく、でも蜂蜜やシロップのような濃縮された甘み。この水分や甘みの密度が丁度よく、しつこ過ぎない、でも水っぽくなり過ぎない。

このメロンだからこそ成立する、このメロンのためだけのショートケーキ。
失礼ながらショートケーキは苺に勝るものはないと思っておりましたが、見事に覆されました。

焼きたてフィナンシェ
エィジアンレモンのバタークリームサンド

フィナンシェは時間と共に変化する味わいを楽しんでいただきたいと、出来立てほやほやをご提供いただけます。
少しばかり手で持ち続けていると、火傷するのでは?と錯覚してしまうほどに出来立てなのです。(安全に頂きました)
出来立てはしっとりもっちりとした、粘性ある口当たり。じぃんわり…とビターが少しずつ染み渡るのを感じます。
少し時間を置くと、外側がカリッとした食感、口に含むとバターの香ばしい香りが開かれます。

最後には今回頂いたお茶のラベルをお見せいただきました。
私のお食事に対する感想以上に在り来りな表現となるため、ティーペアリングの感想は割愛いたします。
しかし、茶葉のグラム単位、お湯の温度や水出し時間のミリ単位にまで、拘りに拘ったラインナップでした。
他にも、フレンチにおけるワインペアリングをオマージュしたり、デセールとの繋がりをご考慮されたり、逆に箸休め的な立ち位置としたお茶をお出しされたり。並々ならぬ創意工夫を感じられました。

香り、口当たり、味わい、余韻。
それぞれの食材が持つ内なる魅力を引き出そうと、足し算・引き算の駆け引きを極限にまで突き詰めた調理とペアリング。
感性や技術力の高さは勿論なのですが、食材やそれを愛情込めて作る生産者さんへの敬意がなければ、絶対に生まれない。
五感が幸せ満腹になる品々でした。

サービス

実直さと深い敬意を感じました。
印象的だった点は大きく2点。

  • この時間に集中してほしいという思いがこもったサポート。鮮度の良いうちに召し上がっていただきたいと、ご提供時の説明は簡潔ですが、要望に合わせてさらに詳細なご説明もいただけました。前述しましたが、お席にはメニューに加えて食材やペアリングに関する資料もご用意。資料や質問を交えながら、答え合わせや品に対する理解を深められたのが嬉しかったです。

  • 最初から最後までの手厚いお出迎えとお見送り。コースの最初と最後にはゲスト毎、シェフとソムリエさんが顔と目を合わせてご挨拶いただき(一組毎ではなく、ゲスト毎)、店舗を構えるビルの玄関までシェフ自らがお出迎え・お見送りくださいました。凄く真面目な方なのだと、この方々のコースを頂けることがより有り難く感じました。

お値段

デザートコースとティーペアリングで16,500円/1名でした。

まとめ

デセールコースという分類なしに、ここまで完成されたコースは中々ないです。
蒼菓への再訪は勿論ですが、母体でもある蒼にも訪問したい気持ちが膨れ上がっております。
本当に、幸せでした。


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