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読書記録「護られなかった者たちへ」

〜今日の1冊〜

今日は中山七里さんの作品を紹介します。

誰もが口を揃えて「人格者」だと言う、仙台市の福祉保険事務所課長・三雲忠勝が、身体を拘束された餓死死体で発見された。
怨恨が理由とは考えにくく、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。
しかし事件の数日前に、一人の模範囚が出所しており、男は過去に起きたある出来事の関係者を追っているらしい。そして第二の被害者が発見され――。
社会福祉と人々の正義が交差したときに、あなたの脳裏に浮かぶ人物は誰か。

〜Amazonより〜

〜読後の感想〜

※ネタバレを含みますので読む時はご注意ください
この作品のテーマは「東日本大震災と生活保護」。
生活保護の厳しい現状、そこに震災の不幸が重なり、生活保護受給者の数は更に増加していきます。
そんな中、福祉事務所で働く職員が「餓死」という形で連続で死亡。
職員の評判は会社内や家族間では悪くなく、殺害された理由がわかりません。
犯人を探す中で、福祉事務所で働く人達の苦悩が見えてきました。
生活保護の申請を望んでいる生活困窮者に対して、非常に厳しい審査を迫られていることが分かったのです。
申請者に対して、働けるものに対しては働いてもらい、周りから援助を受けられるのなら、援助を受けてもらう、その一方で、不正に書類を作成し生活保護を受給している人がいることも事実としてありました。
申請者全員を生活保護対象者にすることは日本財政的には不可能で、日々の生活に苦しむ人々に対してどこで線引をするのか、生活困窮者の中にも順位をつけなければならないという現実に、日本財政の過酷な現状を目の当たりにしました。

死亡した職員の周りを調べていると、生活保護の申請却下した書類を破棄した事実が判明し、そのうちの一人の申請者の知人の男性が受付窓口でトラブルを起こした後、建物に火を放ち逮捕されたことが分かります。その申請者の老女と知人男性の関係が、事件解決のヒントに繋がっていきます。
知人男性は、「利根勝久」。
彼は、逮捕後収監され8年後に仮釈放された後、事件で殺害された職員から犯人に目星をつけており、次に狙われる人物を探していました。

老女は生活保護を申請していたが却下され続け、餓死。
最終的には、電気もガスも止められ、銀行の残高は5桁を割っていました。
食べるものもなく、彼女の胃の中からは大量のティッシュが見つかります。ここまでになっても、生活保護を受けることができなかった現実を目の当たりにしたときは、福祉事務所の仕事のあり方ってなんだろう?と…そこまでにならないと国は救済を出してはくれないのかと悔しく思いました。

犯人は、老女の家の近くに住んでいた「円山菅生」。
福祉事務所に勤めており、子供のころ老女に面倒を見てもらっており、後に利根とも一緒に生活しています。
老女は、円山にとっても、利根にとっても父親であり母親でもある大切な「家族」でした。

不正に生活保護を受給している人がいる一方で本当に護られないければならない人たちが切り捨てられていく現実。今回の事件は、震災をきっかけに残酷な選択を迫られた人たちが、大切な人を守ろうと必死にあがいた結果だったのだろうと思いました。
この作品を読み終わった今、一人でも多くの人達が幸せになって欲しいと強く思いました。





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