わからない 見えないだけで 本当は もうある気持ち、知らせてくれた
なんだろう、この映画は。
青茶の香りが鼻を抜けるような気持ちよさと、まだ名前のつけられていない感情が、観た後に訪れた。
『アフター・ヤン』を観た。
冬らしい暗い雨のなか、東京駅から有楽町方面へ歩き、日比谷のTOHOシネマ シャンテへ。
足の裏から伝ってきた寒さですっかり冷えた身体を、売店のココアで温める。
そして、私の映画前のお約束。トイレへ向かう。ついでに、廊下に貼られたコラムやポスターもちらっとチェック。
へ〜、音楽は坂本龍一なのか。楽しみな一方、気を取られすぎないようにしないと……などと要らぬ心配をしているところで、ブザーが鳴る。
映画は、一貫して美しかった。
強いこだわりを感じる数々の演出が、ひとつの静謐なトーンにまとめられている。多くの人の琴線にそっと触れて、いつまでもそれを揺らす美しさ。
坂本龍一の音楽も心地よかった。風にながれる雲間から、時折射す陽の光のよう。あたたかくて、眩しすぎることがなかった。
なかでも一番印象に残ったのは「未来」の描かれ方。新しくもなつかしい、桃源郷のような世界。
そんな、少し遠い未来を生きる主人公たち。その一人ひとりの感情は、けして理解できないものではなくて、ちゃんと今の私たちの延長線上にある。
そこに、今は(まだ)ない「テクノ」という存在。
その未知の存在が、怖いような愛おしいような……まだ知らない不思議な感情を、私の心にそっと残してくれた。
それは、気づいていないだけで、本当はずっと感じているものなのかもしれない。
少し遠い未来にいる私は、その感情を言葉にのせられるのだろうか ── そんなことを考える。
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