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小説【お立ち寄り時間1分】藤二藍の涙
「ばーちゃん、クリスマスプレゼント何がいい?」
縁側、改めヌックで、気持ちよさそうに日向ぼっこしているばーちゃんに声をかける。手には、ポップな黄色の湯呑、改めマグカップが握られている。フィンランド語で『日曜日』という意味の…何とかタイだ。
「あら、帰ってたの」
「うん、早く終わった」
「何か飲む?」
そう言って、ばーちゃんは、何とかタイをちゃぶ台、改め大きめのサイドテーブルに置くと、いそいそと台所、改めキッチンへ消えていった。
「今日ね、教えて頂いたのよ、どうぞ」
「ミルクティー?」
「チャイ、って言うんですって」
「ふーん、ありがと」
最近、ばーちゃんは、横文字にハマっている。
縁側、湯呑、ちゃぶ台、台所は、ヌック、マグカップ、サイドテーブル、キッチンに、あっという間に変身した。
じーちゃんが死んで、もうすぐ1年。
もしかしたら、年下の彼氏でも出来たのかと、ついこの間まで、複雑な思いを抱えていたが、とんだ勘違いだった。蓋を開けてみたら、向かいに越してきたエリカさんから、英語を教えてもらっているらしかった。
「エリカさんに、今日も英語教えてもらったの?」
「ええ、今日は、サンデーとパフェの違いについて」
「サンデー?」
「あら、よくデパートに食べに行ったじゃない」
「え、それ英語じゃなくない?」
「細かいことはいいのよ、楽しければ」
そう言って、ばーちゃんは、ヌックにひいた座布団、改めクッションに腰かけた。季節外れに太陽が煌々と綺麗で、日向の匂いが部屋中に広がっていて、まるで、じーちゃんが死んだ日みたいだな、と思った。
「あ、ばーちゃん、クリスマス」
「あら、そうねえ…」
ばーちゃんも、同じことを思ったのか、じーちゃんが眠る仏間に目をやった。じーちゃんが死んでから、ばーちゃんはよく縁側に座るようになった。多分、縁側がこの部屋の中で、一番仏間に近いからだろう。
「おじいちゃん、かな」
「そう言うと思ったよ」
「ふふふ」
ばーちゃんは、細く笑ってウインクをして、指ハートを作った。
昔から、ばつが悪い時は、ウインクをするのだが、下手くそだから、両目をつぶってしまう。
じーちゃんも、ばーちゃんのウインクを真似して、両目をつぶり、指ハートをポケットからよく出していた。ちなみに、じーちゃんは、普通にウインクができた。
「昔ね、あなたにも言われたわ」
「ん?」
「プレゼントは、パパとママがいい、って」
幼い頃に、両親を亡くしてから、ばーちゃんとじーちゃんが親代わりだった。春のピクニックも、夏の水遊びも、秋の紅葉も、冬のクリスマスも。全部、全部、ばーちゃんとじーちゃんが、ママとパパだった。
ずーっと続いていくんだと思っていたのに。
じーちゃん、どこ行ったんだよ。
じーちゃん居ないと、誰がサンタするんだよ。
俺、まだサンタ似合わないよ。
「ばーちゃん」
「うん?」
「俺もじーちゃんがいい」
俺は、ウインクをして、ポケットから、もう流行っていない指ハートを出す。どうでもいいかもしれないが、俺は、ウインクができない。
視界が滲んで、グッと上を向く。
男の涙はここぞ、って時にだけ見せんだぞ、とじーちゃんからきつく言われてるから。
「そう言うと思ったわ」
もうすぐ、じーちゃんが居ない、二人きりのクリスマスがやってくる。
じーちゃんは、仏教徒なのに、クリスマスが大好きだったから、もしかしたらフィンランドにでも、遊びに行ってるのかもしれない。
なあ、じーちゃん。
ばーちゃんとツリーの飾りつけして、ケンタッキーとケーキを買って待ってるから。
ちゃんと、サンタのコスプレして化けて来てよ。
約束だよ、じーちゃん。