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家族みんなが惚れた場所

今年は記録的な暖冬で、12月になっても半袖でも過ごせる日があったくらいだった。
そんな季節外れの暖かさが続いていた11月頭の連休で今年最後のキャンプに行った。

今回利用したキャンプ場は千葉県の館山市の漁村にある冨崎館という場所だ。キャンプ場にしては変わった名前だと思うかもしれないが、それは自然な反応かもしれない。実はこのキャンプ場は以前は旅館業を営んでいたそうだ。それが数年前の台風の被害で建物が半壊してしまい、クラウドファンディングで現在の姿になっているという。新鮮な海鮮をメインとした食堂と5つのキャンプサイトがつながっている施設だ。

https://www.tomisakikan.net/


僕は友人とのドライブの中でこの食堂を見つけて、味と雰囲気に魅了されてキャンプ場を利用したいと思うに至ったのだった。

この食堂の食事がとても気に入っていたので、キャンプをしなくても良いくらいの満足度なのだが、今回はサイトを借りて一泊することにした。
到着してチェックインを済ませる。店員さんが案内してくれたサイトは見晴らしが抜群に良い場所で、季節外れの暖かさも相まって気持ちがぐんと高揚した。

荷下ろしをして設営をしていく。年々子ども達も少しずつ手伝ってくれることが多くなってきた。家族で協力して自分たちの寝泊まりする場所を作っていく作業は結構楽しい。

大体の作業が落ち着いてきたタイミングで、普段ならキャンプ飯を作り始める。野外で料理をすることもキャンプの楽しみの一つだが、ここの食堂の料理は絶品だ。素直にその欲求に従うことに決めていた。
そのおかげで少し時間ができたので、ゆったりと海の夕暮れを楽しんだ。
暖かいので忘れていたが、だいぶ日が落ちるのが早くなっていたので、料理を作っていたら結構ギリギリだったかもしれない。

食堂の夕方の部が始まるタイミングで店内に入った。このキャンプは一ヶ月遅れの僕の誕生日会も兼ねていたので、少し贅沢に舟盛りを頼んだ。子ども達はあまり刺身は食べないので、完全に大人用だ。久しぶりにたっぷりと刺身が食べられる…


と思っていたが
「お刺身に挑戦してみようかな」
と長男が言い出した。そして一つ口に入れると
「…美味しい!もっと食べたい!」

こうして大人達の目論見は見事に崩されてしまった。新鮮な刺身の味を堪能してしまった長男の今後が少し怖い。

食後はゆっくり焚き火をしながら普段にはないゆったりとした時間が流れた。家族と話したり、好きな音楽を聴いたりして過ごした。海は見えなくなっていたが、空にはたくさんの星が煌めいていた。


翌朝、まだ少し薄暗い中、長男に起こされた。彼は普段から朝がとてつもなく早い。次男もつられて起きてきたので、眠っている妻を残して3人で散歩に出ることにした。自宅での休日の朝もこんな感じだ。
キャンプ場は坂の途中にあり、その坂を下っていくと漁村がある。船の出入りがあったり、漁師さんが作業をしたり、釣り人がせっせと釣り糸を海に垂らしていたり…
漁村の朝は長男の早起き以上に早くて賑やかだった。

そんな様子を見ながら子ども達と散歩をしていく。海の幸が豊富だからか肥えた野良猫が多くいたので、何匹見つけられるかを競ったり、次に通る車のボディの色予想をしたり、子ども達といると遊びに困ることはない。

しばらくして一旦キャンプ場に戻った。実は朝から一つ約束をしていることがあったのだ。
それはキャンプ場の看板犬との散歩だった。

息子達は以前、長野と群馬の境あたりにあるペンションに泊まった際に、そこの看板犬の散歩をさせてもらった。それがきっかけで犬との散歩が好きになっていたのだった。今回のキャンプ場にも看板犬がいたので、
「お散歩、一緒に行きたいです!」
と頼んだのだった。
この願いを店員さんが快諾してくれたのだった。

状況を整理すると、朝一でもうすでに散歩をしているので、2回目の散歩ということになる。どれだけ朝から活動的なのか…

こうして2回目の散歩が始まった。店員さんがこの地域のことを説明してくれながら歩いていく。海が荒れると車のナンバーが1173(いい波)だらけになること、おばあちゃん達の井戸端会議は軽く1時間を超えること、漁師さんの数が少なくなってきていること…

散歩を終えてキャンプ場に戻ると、留守番をしてくれていた妻が朝ごはんの準備をしてくれていた。

食べ終わる頃には食堂の前に干物が干され始めていた。
初めて見る光景に息子達は興味津々だった。

「毎回何枚かは野良猫達のご馳走になっちゃうんですよね…リアルサザエさん状態です…」
と店員さんが苦笑いしていた。やはりこの辺りの猫達は食べ物には困らない状況のようだった。
この話を聞いた息子達が
「じゃあ猫達からお魚を守ってあげよう!」
と門番のように干物の前に立ち塞がった。

その様子を見ながらテントの撤収作業を済ませた。

無事に終わるとお昼ご飯にちょうど良い時間になっていた。昼ごはんももちろん食堂を利用した。
本当かはわからないが
「息子君達のおかげで今日はあまり盗られずに済みました」
と店員さんが言ってくれて彼らは誇らしげな表情をしていた。

帰り際に食べたご飯も最高だった。



妻は料理をしなくて良いこと、洗い物や準備するものが少ないこと、トイレやシャワーが清潔なことがとても気に入っていた。長男は新鮮な魚の美味しさと犬との海散歩の楽しさを知ったようだ。次男は今回のキャンプの感想は店員さんの話ばかりしていたので、もしかしたら元気で素敵な店員さんに初めての恋をしたのかもしれない。
そんな感想を帰りの車内で聞きながら、僕は田舎の親戚の大きな庭でキャンプをして、海の幸をたっぷりご馳走様してもらったような温かい気持ちになっていた。

要するに、家族全員でこの富崎館という場所に惚れてしまったのだ。応援したいとか、少しでも力になりたいとか以上に、この場所に今後も通い続けたいと心の底から思った。

是非、千葉の館山に行ったらこの食堂に寄って欲しい。最高に美味しい食事と素敵な空間がそこにはあります。そして、キャンプをしたら絶景が待っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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池田翔太
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