妄想と封印 知識の都、本棚#1
作品…「太陽と乙女」森見登美彦
今回から始まるこのシリーズでは、僕の本棚に鎮座している本たちを紹介する。
記念すべき第一回の作品は、森見登美彦さんの「太陽と乙女」。
〈プロフィール〉
今月入ってきた新入りのエッセイ集。
骨折をし整形外科に行った帰りに、思わず立ち寄った本屋で入手。
僕の本棚の中央を占拠している「熱帯」や文庫本で手に入れた「夜は短し歩けよ乙女」の森見登美彦さんということで、即座に購入された。
現在は訳あって電車内で読むのではなく、学校の朝読書の本に選出されている。
〈解説〉
僕はこれほどまでに時間を忘れるエッセイ集を読んだことがない。
中学生になり、通学の電車でよく本を読むようになった。
電車内でどんな本を読むかというのは考えものだ。
中1の時、そのポジションは「都会のトムソーヤ」だったり、はたまた地理の先生に薦められた「銃・病原菌・鉄」(前巻で力尽きた)だったりしたわけだが、中2になり、そのポジションは「太陽と乙女」へと替わった。
本書はエッセイ集で、電車内で読むにはちょうどいい長さだ。
僕もそう思い、この本を買った。
しかし、そこには意外な罠があった。
まず、一つのエッセイを読み始めると最後まで読まずにはいられない。
さらにまずいのが、通勤ラッシュや帰宅ラッシュの時間帯ではない時にガラガラの座席に座った時だ。
周りが静かで、本の世界についつい入り込んでしまう。
そんな条件が奇しくも揃った先日、ついに失態を犯した。
電車に乗る前までに読んでいたのは、『子供の頃の私は、「日曜日の昼は、将棋とルパン三世によって成立する」と思い込んでいた』というこの時点で既に面白いエッセイだった。
そのエッセイを通して、この本の文体の虜になった僕は、惹きつけられるように次のエッセイへとページを捲っていた。
その後、『磨り減らない『砂の器』』と『最強の団子、吉備団子』を読み、『カレーの魔物』という妄想エッセイを読んでいる時、僕は一瞬外を見た。
そこには見慣れない風景があった。
追い討ちをかけるように「次は〜◯◯◯」というアナウンスが流れた。
何を隠そう、僕は電車を乗り過ごしていた。
「なんだ、そんなことか」と思われたかもしれないが、そんなことでも僕にとっては衝撃だ。
今まで一度も「電車を乗り過ごす」という事態に遭遇しなかった僕は、乗り過ごした時の不思議な感覚に驚いた。
なぜか、一人だけの空間に残されたような、なんとも言えない感覚に陥る。
何回か乗り過ごせば、不思議な列車が反対からやってきて僕を未知の世界に連れてってくれそう、とも思った。
そんな体験をくれた本に感謝しつつ、戻りの電車でその本を静かに鞄の中に封印した。
こんな体験をしてみたかったら、あなたもこの本を買うべきです。
心躍るようなエッセイが、あなたを妄想の世界へと誘います。