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読書日記81 【人生に疲れたらスペイン巡礼 ~飲み、食べ、歩く800キロの旅~】

 小野美由紀さんの作品。Twitterで小野不由美さんのツイートがきました。となっていると勘違いしてアプリを開くと小野美由紀さんだった(-_-;)。エッセイやライターの仕事をしているらしく、noteに文章を書いているので覗いてみると、面白かったので読んでみようと思った。今風というかポップな感じかと思ったら、沢木耕太郎の「深夜特急」みたいな感じのする「人生探し」の旅に似ている。

 「深夜特急」は読んだ時に、まるで旅をしたような爽快感があって、読んでバックパッカーを、世界でする人が増えたとも言われている名著なんだけど、それに近い感覚がある新書になっている。カミーノ・デ・サンティアゴ。スペインの北西部に向かって伸びる、キリスト教の巡礼の道のことらしく、フランス南部からスペインにあるカトリック三代聖地の1つ「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」に向かって歩く、800キロの道のりをいうらしい。

 新書なのでオススメはちゃんと載っているし、宿の料金や行く道、必要な道具など詳しく書かれているのだけど、まるで物語のようなところが満載で、小説を読み終えた感まである。就職して3年目に精神に無理がたたって、通勤途中にパニック障害を引き起こす。絶望に打ちひしがれる。懸命に仕事探しをして、やっと務めた会社でなんで?生理まで止まり何もできなくなる。その時に学生時代に放浪の旅をしていて、イスラエルの安宿であった宗教学者の金良枝さんの言葉を思い出したらしい。

 ソウル大学の教授である金さんは世界の聖地を旅していて、1番心を打たれた場所が「カミーノ・デ・サンティアゴ」だったらしい。著者の「その道で何を得たのですか?」の質問に「得たのでなく、捨てたんです」と答える。後は引用なんだけど、金さんが続けて語る。

「人生と旅の荷造りは同じ。いらない荷物をどんどん捨てて、最後の最後に残ったものだけが、その人自身なんですね。歩くこと、旅することはその「いらないもの」と「どうしても捨てられないもの」を識別するための作業なんですよ。聖地というのは、すべて、そのための装置なんです。私の人生は残りは長くて20年くらいだけど、その間にどれくらい、いらないものを捨てられるかが、『自分は何者だったか』を決めるんです」

 著者の「自分を捨てる巡礼の旅」が始まる。寝台列車に乗ってフランスの南部、サン・ジャン・ビエ・ド・ボーから歩き始める。勾配の険しい山道や、お城のある風情ある、石畳の小道などを歩きながら南へと向かう。35日目に聖地に到着するまえに、あった人々がまた個性的でおもしろく書かれている。韓国人からはじまり、フランス・アメリカ・メキシコ・ブラジル等々、色々な国の人と出会い自分を見つめていく。ここら辺の旅の記録がすごく「深夜特急」のようで心に刺さる。

 巡礼15日目の難関、オカの山を越えて山道をひたすら歩いている。自問自答をしながら、疲れもたまるのか、ネガティブに考え始める。そのためか道にも迷ってしまう。その時に声をかけられた、スーパーマリオのような体格のミゲルという、メキシコ人も道に迷っていた。二人でメインルートに戻ることになる。そこでの道中の会話で、会社を辞めて旅をする著者は、自分の戒めなのかミゲルにこう言う。

「仕事を途中で放り出すのは、逃げだよ。いろんな人に迷惑をかけるし、私は逃げない自分になりたい」

 その問いにミゲルが少し声を大きくして言う。

「逃げることの何が悪い⁉」
「僕だって、ライオンに会ったら逃げるよ!でもネコなら逃げない。君にとって、仕事はライオンだったんでしょ。だったら逃げていいんだよ!」

 強い言葉に胸がふるえる著者。涙があふれて止まらなくなる。泣き出す著者の背中をミゲルがさすってくれる。少しづつ旅(巡礼)の重みが体に届いてくる。こういう出会いに、満ち溢れた文章は、読んでいて、まるで旅をしているような錯覚をおこす。旅行記はたくさん読んでいるけど、すごく自分をさらけ出している所が共感を呼ぶ。

 昔に「深夜特急」を読んで、自分も旅に出かけたかのような、気になったことがある。単行本で3巻の、香港からユーラシア大陸を渡り、ロンドンまでの旅のなかで、すごく自分が浄化された感じがあった。中古本を「国分寺書店」で買った記憶がある。ルームシェアをしている時で、朝にトイレで読むので怒られていた記憶があるw

 ネットで(確かAbema.TV)で佐渡島庸平さんが「出版社の依頼で、エッセイを頼まれると「1万5千円」ぐらいが,僕の相場だけど、それをネットであげるとnoteのようなところなら、もう少し稼げるし、それによって自分の拡がりにもなる」という意味合いのことを言っていた。著者もこの旅の後に作家を目指すところとなるらしい。違うエッセイに、書かれているらしいので、また読んでみたいと思った。

 

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