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はじめての「西国三十三所参り」①・紀三井寺【和歌山】
今年の春、幼馴染のEちゃんと「西国三十三所参り」を始めようと計画していました。
「西国三十三所参り」とは和歌山、京都、滋賀、大阪、兵庫など、観音様をお祀りしている関西の寺院を三十三か所、御朱印をいただきつつ巡る参拝です。
それぞれの寺院には「札所」として番号が振られているのですが、巡る順番は決まっておらず、行ける時に行ける場所だけ、何年かけて回っても大丈夫な巡礼となっています。
ずっとコロナ禍でスタートできずにいた私たちですが、そろそろ和歌山は状況が落ち着いてきたこともあり、6月25日、和歌山市にある二番札所、「紀三井寺(きみいでら)」から参拝を始めることにしました。
この日、紀三井寺では秘仏のご本尊「十一面観世音菩薩像」と「千手観世音菩薩像」ご開帳の期間となっていました。どちらの秘仏もご開帳は50年に一度とのこと、
「めっちゃ幸運。西国三十三所参りのスタートが秘仏からとは!」
「50年に一度だから…すごいよね!」
Eちゃんも私もちょっとテンション高めで、見上げるような231段の「結縁坂」を登り、たどり着いた境内の授与所で三十三所参りに必要なグッズをそろえました。
*三十三所参り用の御朱印帳
一番から三十三番までの寺院名が入っている御朱印帳です。
イラスト入りのものや寺院の歴史を綴っているもの、コンパクトなものから大判のものまで、さまざまな種類がありました。
*「西国三十三所勤行次第」
巡拝のしおり。参拝をする手順や唱えるお経、寺院ごとの御詠歌が書かれています。
*御念誦
こちらは家にあったものを持参。長女を亡くした時に購入した翡翠の数珠。
「西国三十三所参り」は普通に無言で手を合わせて参拝をすれば良いものだと私は思っていたのですが、この「三十三所勤行次第」を開くと、般若心経などかなりの量の経文を順番に唱えてゆくよう書かれています。
「これって…全部唱えないとダメなのかな…」
不安にかられた私たちは授与所に坐っていた僧侶に尋ねることにしました。
「あの、すみません。これから西国三十三所参りを始めようと考えているのですが、私たちは初心者で、般若心経すらうろ覚えです。なので、この勤行次第の中で必要最低限、これだけは欠かせない、という作法をピックアップして教えていただけませんか?」
「そうですね…」
若い僧侶は表情も変えずに「三十三所勤行次第」を開いて、
「慣れない方がこれをすべて唱えるのは難しいでしょう。まずは〈開経偈(かいきょうげ)〉〈般若心経〉〈御本尊真言〉〈御詠歌〉〈回向文(えこうもん)〉、それくらいから始めてみてください」
「そうなのですね!わかりました、ありがとうございます!」
とりあえず唱えるものは三分の一程度に減ってホッ…。
Eちゃんと私はそれぞれに御朱印帳と「三十三所勤行次第」を購入、本堂へと向かいました。
紀三井寺では仏教になじみのない人でも興味を持てるように、本堂のところどころに見やすい解説が表示されています。
薬師如来の手にしている薬壺のこと、観音様が時と場合によって三十三の姿に変化し衆生を救ってくださること、天井の梁には神鳥の迦楼羅(かるら)がスポットライトに照らされて浮かび上がっています。
それらを見つつ、秘仏が納められている「大光明殿」へ。
本堂の奥、短い渡り廊下を渡ったところにある「大光明殿」はかなり薄暗く、梵天立像や帝釈天立像などに囲まれて、中央に秘仏のご本尊「十一面観世音菩薩像」と「千手観世音菩薩像」が並んで立っていました。
人の背丈ほどの、木の気がまだ立ち上るような、どっしりとした仏様。頭は大きめ、目鼻立ちも太く大きく力強く、お近くにいるとほっと安堵する感じです。
パンフレットによると、秘仏は樟の一木彫り、紀三井寺を開山した為光上人(いこうしょうにん)の手彫りで、10世紀から11世紀にかけての作風とのこと。
御本尊の「十一観世音菩薩像」は「荒仏(あらぼとけ)」であると伝えられ、本人が耐えられるだけの試練を敢えて科し、心を磨くことを教えてくださる、と書かれていました。
私にはおおらかな温かさのある仏様のように見えたのですが…真剣に仏道へと進む人には厳しい面を向けられるのかもしれません。
(撮影禁止の上、パンフレットでもお姿は隠されています。)
ところで、Eちゃんも私も「西国三十三所参り」として今日は紀三井寺にやってきました。なのでこの仏様の前で、先ほどの「三十三所勤行次第」を開いてお経を唱えなくてはなりません。
「お経、唱えるよね?」
「と、唱える…かな?」
幸い他に参拝者はいなかったのですが、お堂の奥深くの秘仏の前、いざ唱えるとなると大きなプレッシャーがかかります。そもそも馴染みのないお経を声に出して読み上げるなど…ハードルは恐ろしい高さ…。
「で、でも、わけわからないけど、とりあえず読まねば!」
せっかくの秘仏スタートの「西国三十三所参り」、この機会を逃すわけにはゆかない、と意を決して読み始めようとしたところ…堂内が暗すぎて…老眼の目には書いているお経のルビが読めず…。
「光を、もっと光を…」
結局、大光明殿の出入口と渡り廊下の境、中途半端な明るいところで
「むじょうじんじんみみょうほう ひゃくせんまんごうなんそうぐう…」
と唱え始めることとなってしまったのでした。
お経は棒読み、順番を間違えたりもしたのですが、心だけは込めて、初めての「西国三十三所参り」最初の参拝は無事終了です。
本堂を出ると曇り空に日が差してきて、境内の紫陽花がやわらかく明るみました。紀三井寺は有名な桜の名所ですが、思いがけなく紫陽花も多く、さまざまな色や品種の花を楽しむことができます。
つがいのミスジチョウ、クロアゲハ、それからトンビも間近に飛んできて自然の豊かさにほっこり。
紀三井寺は「紀の国の三つの井(湧き水)のある寺」。
こちらの清浄水(しょうじょうすい)、木々の緑に映えて美しい流れでした。
お不動さまに注ぐ水、実は「謝りたいときに飲む水」の由。
「悪いことをしてしまって謝りたい…。でも…」そんな時に飲む水だそうです。仏様の力で素直な気持ちになれるのかもしれません。
こちらは「文塚」。迷子になった郵便物を供養しています。
石の封筒にも料金改正が反映されて84円切手が貼られています。
いただいた「西国三十三所参り」の御朱印と、秘仏の特別御朱印。
秘仏公開は2020年9月20日から12月20日にも再び行われる予定だそうです。
半年後、どんな気持ちで秘仏と向き合えるのか、もう一度訪ねてみたいと考えています。
今回の「西国三十三所参り」は自分自身の願掛けではなく、ここまで命をつないでくださったご先祖様へのお礼と、これからの時代を生きる息子たちへのご加護をお願いするつもりで始めました。
高齢の家族がいるため、「早めに回っておきたい」という気持ちと、なかなか自由に動くことができない現状との板挟みでのスタートです。
焦らず、何年間かをかけても、満願できればありがたいと思います。
ただ…心を込めたとはいえ棒読みのお経はあんまりな出来だったので…今度は「読む」のではなく「唱えられる」よう、YouTubeで検索しつつ練習しておくつもりです!
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