見出し画像

Thank You & Farewell, Ubie Inc.

さて、初めて退職エントリーを書きますがどこから始めましょうか。初期臨床研修医に就職してからもしばらく仕事を続けていてたので、どこかのタイミングで3年働いたUbie株式会社とは区切りをつける必要がありました。今がその時のようです。

つらつらと書くだけではつまらないので尊敬してやまないPeter Thielの名言とともにお届けしてみようと思います:

会社との出会い

“Recruiting should never be outsourced. Everyone at your company should be different in the same way.” 

3年前にUbie株式会社と出会った時は妙にセンスの良い人材要件を掲げる社員8名創業1年の会社でした。つい先日、退社を決めた時点ではUbieは累計30億円を調達、複数国で複数事業を展開し、妙にセンスの良い100人の社員が集っています。掲げる人材要件だけ見て「この会社には間違いなく面白い人が集まる」と確信して門を叩いたのは大正解でした。

会社とともに成長した3年間

少しばかり、入社から現在までの仕事を振り返ってみようと思います。初めての仕事はまさに”セールス”でした。

“Whatever the career, sales ability distinguishes superstars from also-rans.” 

“Everybody has a product to sell—no matter whether you’re an employee, a founder, or an investor. It’s true even if your company consists of just you and your computer. Look around. If you don’t see any salespeople, you’re the salesperson.”

Ubieでの業務はインターンとして代表の記事やプレゼン代筆、マーケットリサーチ業務から始まり、徐々に事業開発にも手を広げていきました。社員20名ほどの当時、半数以上がプロダクトチームに所属しており、実質的にB2Bのビジネスタレントは代表医師の阿部以外に2名しかいませんでした。そこに僕も駆り出されました。大学の授業が終わったその足で商談先企業の本社オフィスに向かってプレゼンの連続。ある時期は英語を流暢に話せる社員が自分しかおらず、外資系大企業とのディールも1人でこなすことになりました。学生が多国籍企業のエグゼキュティブに1人でプレゼンして、商談するなんて今思えばCrazyですね笑。でも当時は客観的に僕がその商談を行うに最良の人材だったのでお客さんに対して後悔はありません。またその商談先から紹介されたパーティに参加したところ、ある大企業の次期社長に声をかけることができ名刺交換から代表同士の協業ミーティングを実現するに至ったこともありました。信頼のない所に信頼を作り、実績の無いところに圧倒的な課題を見つけ解決する。レバレッジできるアセットが全くない新規事業開発のZero to Oneをやり切ったのは良い経験でした。

僕が事業開発として1年で3,4件の数千万円規模ディールをクローズしたところでUbieは次の資金調達を迎えました。一人で商談資料を作り続けているうちにストーリーテリングの能力を買われ、今度は20億円の調達を目指すSeries Bの調達ストーリーの組み立てをゼロから行うことになりました。企業としての成り立ち、目指す世界観、現事業の各メトリクスの意味と到達見込み、持ち合わせているアセットの総洗い出し。会社のありとあらゆる情報にアクセスし咀嚼しました。投資家に対して”会社を売る”には会社の現状を正確に把握した上で、事業の成長ドライバーを明確にし、成長ドライバーに幾ら投資すれば会社が幾らの将来キャッシュフローを生み出せるかを計算して伝える必要があります。資料を世に出せないのは残念ですが、Ubieはその後30億円の資金調達を完了しました。

ファイナンスの一件で結局はプロダクトの成長が会社の成長に不可欠であることを思い知った僕の興味はプロダクト開発の方に向かいます。コンシューマ向けサービス、海外向けサービス、医療機関向けサービスそれぞれの開発スクラムを転々とし、プロダクトとの関わり方を模索しました。医療を扱う以上、プロダクト開発には本当に深いドメイン知識が求められます。

"It’s true that every great entrepreneur is first and foremost a designer."

医療の常識は世間の非常識。どうやってプロダクトチームに医療の常識をインプットするか、2年頭を悩ませました。たどり着いたのは、文字や言葉で伝えるよりもビジュアルとして理想を描き示すこと。デザインツールを学びプロトタイプを出して、プロのUI/UXデザイナーと二人三脚で改善改善改善。デザイナー的活動をできたのはほんの半年ほどでしたが数百の医療機関で数千人の医師に使われるプロダクトでいくつかの機能実装まで至ることができました。(DesignShipに登壇した資料はコチラ

気がつけば3年で社長秘書、トップセールス、新規事業開発、海外事業担当、エクイティ・ファイナンス、投資家回り、プロダクト開発、UI/UXデザインとソフトウェアスタートアップに必要なタレントをほぼ網羅してしまいました。一見すると好き勝手に仕事をしてきたように見えますが、その時々で行っていた仕事は自分の時間と能力を投下した時に会社が最も大きなリターンを得られるものでした。成長し続けるスタートアップで働くには役割よりも会社のBest interestへのコミットが求められます。自分の時間と能力を投資した時に会社の最大利益になる対象は何か?この問いを軸に役割を七変化させてきました。

また、最初はインターンとして就職したものの、途中からはStock Optionも付与された契約社員としてあらゆる情報にアクセスして視座高く仕事を行えたのは他の会社では出来ない経験でした。こうした組織設計を西海岸のベストプラクティスから学ぼうとする姿勢は会社の尊敬できる点です。理想と現実は常に乖離するものですが、両者を近づける努力をする限りは成長し続けることでしょう。

慣れ親しんだ会社を離れるのに一片の寂しさはありますが次のステップに進むには致し方ないことです。

最後に、Pre-Series AからSeries C前までのスタートアップ企業で伴走した経験から得たいくつかの学びだけ紹介させてください:

スタートアップで得た教訓

1. “What important truth do very few people agree with you on?” 
- Zero to One

スタートアップは未だ証明されていない事業仮説、いわば”隠された真実”を証明する行いです。人々はオンラインで本を買いたがる、観客は自宅で映画を楽しむようになる、スマートフォンにキーボードはいらない、ハーバード大生はネットでもクラスメイトと繋がりたがっている。あらゆるCreative businessは”隠された真実”を見事に突いています。そして隠された真実は最初はほんの少数の人しか気がついていないものです。タブレット問診は医療現場を変えるのでしょうか?世界に広がるでしょうか?Ubie社の証明はまだまだ道半ばです。

2. "High talent density + Selfless candor = Extremely high performance" - No Rules Rules: Netflix and the Culture of Reinvention

Ubie社の人材要件には「率直なコミュニケーション」「ゼロベース思考」「論理性」が盛り込まれています。常識を疑い、本質を見極め、論理的に説明し、それを互いに率直に議論しあう、そんな意味合いがこめられています。能力とモチベーションが高い人々が集い、互いを磨き合うことで"隠された真実”に辿り着く速度は何倍にもなります。Ubieでも最も機能しているチームは定量と定性分析を適切に使い分け、データを元に闊達に議論し、高速で施策検証を行っているチームでした。素晴らしい人材を集め、アイデアの自由な流通を可能にすれば少人数でも偉大な成果が生み出せることでしょう。逆にどんなに素晴らしい仲間を集めても、互いに思っていることを言えなければ相互作用を得られません。互いに思っていることを言うのは決して簡単な事ではありませんし特別な環境と大きな勇気が必要です。「あなたの考えは間違っている」と面と向かって言える相手が自分の周りにいるでしょうか?多くの人は家族にさえも思っていることを言えないものです。偉大なチームには”タレント密度”と”自己犠牲的(selfless)なほどの率直性”の両方が必要な所以です。

3. "Sharpen the contradictions"
- Marc Andressen / Karl Marx

4. “All truths that are kept silent become poisonous.
― Friedrich Nietzsche, Thus Spoke Zarathustra

"The Hard Thing About Hard Things"の著者Ben Horowitzは伝説的なVCファームAndressen Horowitzを共に立ち上げたMarc Andressenの言葉で一番心に残っているのが上記の3文字だと言います。元は”資本家と労働者の違いを鮮明にせよ”と言うマルクスの言葉ですがAndressenは「対立を避けずに対立の論点を鮮明にし、解決せよ」との意味で使っています。真実は常に争いの中にあり、争いを避けることは真実を避けることを意味する。そしてニーチェ曰く、避けられた真実はやがて毒と化す。しかし問題を目の前にした大半の管理者の直感的な行動は対立をなだめ、関係者を落ち着かせ、物事を”滑らか”にすること。即ち対立の中にある真実を診断することなく対症療法をやってしまうのです。医師として働いてみると対症療法と治療介入の違いは嫌と言うほど意識させられます。例え患者が痛み止めを飲んで帰ろうとしても、なんとかその場に留めて手術して病巣を取り除かなくてはならない事態は頻繁に起こります。根本的な原因を診断して対処しなければ症状はすぐに再発悪化し、患者は命を落としかねない。これは組織や企業でも同じことが言えます。何も失うものがない(得るものもない)楽しいサークルであれば対立を避けてお互い仲良くすることが求められますが、莫大な金額と大勢の人生がかかった偉大な事業に取り組む組織の運営に求められるのは対症療法ではなく治療介入です。逆に言えば対立を鮮明化できず、争いの中の真実を見ることを避ける組織は長続きはしないことでしょう

5. ”A definite person determines the best thing to do and then does it. Instead of working tirelessly to make herself indistinguishable, she strives to be great at something substantive- a monopoly of one
- Zero to One

スタートアップは不確実性やリスク許容度が高い人に向いていると言われます。これはある意味ではそうです、なぜならスタートアップでは予想外のことが毎日起こります。しかし素晴らしいスタートアップの本質は大きなリスクを取る事ではありません。素晴らしい起業の本質は”誰も知らない真実”を見定め、それを近未来に実現するための確からしい道筋を描くことにあります。そこにリスクは伴ってもリスクの大小は本質ではありません。スタートアップに向いている人は危険な遊びや賭け事に興じる人ではなく、自分の頭で物事を考え、光の当たっていない真実・本質を見定め、それを実現する確固たる意志を持つ人ではないでしょうか。例え一人芝居になろうとも自分が最も価値があると思ったことをやり通し”一人のモノポリー”となれ。スタートアップで働いた3年はそんな”ひとりモノポリー”を目指すための土台を僕に与えてくれました。

おわりに

どんなに成長している企業も内情は完璧からはほど遠く、常に問題に次ぐ問題に苛まれます。成長し続けるスタートアップと、消えていく会社の違いは初期には僅差なものです。しかししばらくすると違いが明白になります。前者は会社を揺るがす大きな問題にも果敢に取り組み、想像もつかない方法で解決して前進するのに対して、後者は痛みを伴う問題を先送りにし、自らを変革する術を持ち合わせず、ズルズルと時間ばかり浪費します。問題を先送りする企業は逆複利的に負債に埋もれるのに対して、問題を解決し続ける企業は資産を積み上げていきます。成長するスタートアップで居続けるには終わらない問題提議・問題解決の繰り返しに耐え続けるしかありません。Ubieは現時点では素晴らしい企業ですがそう居続けられるかは残してきた仲間にかかっています。絶対に成功する会社などありません。でも自らの信じるゴールに向かって自ら問題提起し自ら解決する、この繰り返しこそがスタートアップをやる妙味ではないでしょうか。

最後に、1つの企業、2つのプロダクト、3つの国、2人のCEO、100人以上の社員と関われたことは僕の人生の中でどんな大きな会社で働くよりも学びがある時間となりました。

取り分け、何者でもなかった自分を取り立ててくれた共同代表取締役の阿部さん・久保さんには感謝してもし足りません。

Ubie社の皆さんには健闘と幸運を心から願っています。

これからも医療テクノロジー・ヘルスケアの世界で活動し続けるつもりです。何かお力になれることがありましたらお気軽にお声がけください。

Twitter Bio → Here


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?