職人見習い一年生。
今日は雨模様の秋分の日。
お休みなのでゆっくり寝ていようと思ったら隣のアパートの新築工事の音で目が覚めた。
朝の八時過ぎからチュイーン、ドカンドカンと賑やかなことこの上ない。
ううん、祝日も工事をするなんて納期が近いのかなと思って二度寝をあきらめて起きた。
ここ数日妻の体調が悪くて看病していたのだが、朝に具合を聞いてみたらもう大分良いとのことだった。
妻は身体があまり丈夫ではないので定期的に寝込むことがある。
病院に行っても原因がはっきりせず風邪薬やビタミン剤をもらって帰ってくる。
こういう事はお互いさまで私は献身的に看護に精を出す。
もう一日くらいゆっくりしていればいいかなという感じである。
掃除も今日はほどほどにしてゆっくり過ごすことにした。
しかし、それにしても工事の音が賑やかでなかなか耳に障る。
ずっと聞いてるうちに懐かしい記憶を思い出した。
それは高校時代に父のお店で手掛けていた美容院の内装工事の手伝いである。
その頃慢性的な金欠だった私は父の提示するバイト料に魅力を感じ一も二もなく飛びついた。
父の運転する軽ワゴンに乗り込んで現場まで行く。
お店のオーナーに挨拶するとまぁ、宜しくねと概ね好評だった。
仕事の内容は床のタイルを剥がしたり壁紙を張り替えたり鏡を設置したり水回りの工事の補助をしたりと多岐にわたった。
それぞれの仕事をするために職人さんが来ており段取り良く作業できるように人員を調整するのが父の仕事だった。
もちろん手が空いている時は作業を手伝っていた。
私は補助の補助のようなポジションで素人でも簡単にできるタイル剥ぎや壁紙を剥がしたりの作業を主にやっていた。
休憩時間になると近所の自販機かコンビニにジュースを買いに行くパシリもやらされていた。
職人さんというのはやはり気難しい人が多くて何かのトラブルで作業が滞るとあからさまに機嫌が悪くなる人が多かった。
どの現場に行っても不思議とトラブルが起きてしまいその度に父が職人さんをなだめすかしている姿をよく覚えている。
作業が順調に終わった日は父もほっとしたようで帰り道にどうやって気分よく職人さんに働いてもらうかという事を熱く語っていた。
大体一日から三日で改装工事を行うのだが私も門前の小僧で壁紙を張れるようになって電動工具もそれなりに扱えるようになった。
この技術はそれ以降の仕事でもずいぶんと役に立った。
何より今はもうリタイアしてのんびりと畑仕事に精を出す父にもギラギラと仕事に燃えていた頃があったと思うと一緒に働けたのはいい機会だったなと思う。
働いて得たバイト代は殆どカラオケ代で瞬時に消えていたがそれもまた懐かしい。
ああ、懐かしいと振り返りながら昨日の晩御飯を思い出してみる。
昨日はお休みの前日だったのでスーパーはまぁまぁ混んでいた。
鶏の胸肉が三割引きだったのでこれを購入。
後は野菜を少々とお酒も追加。
最近は節約モードなのでお菓子は買わない。
帰宅して手洗いとうがいを念入りに。
早速調理に取り掛かる。
鶏肉に砂糖と塩をまぶしてしばし放置。
その間に野菜の支度。
キャベツをざく切り、人参をいちょう切り、玉ねぎをくし切り。
砂糖に漬けた鶏肉を取り出してよく洗って水けをきって一口大に切る。
台所のシンク下に眠っていたタジン鍋をよく洗ってニンニクを摺り入れる。
そこに鶏肉、キャベツ、人参、玉ねぎを綺麗に並べて白ワインをドブドブ注いでコンソメと塩コショウで味を付ける。
後はフタをしてレンジで15分チンしたら鶏のタジン蒸しの出来上がり。
その間に副菜づくり。
春菊を水で洗って軸の所をほんの少し切り落として熱湯にくぐらせる。
冷水にとってキュッと引き締めたら水気を切って五等分。
ボウルにあけて醤油、みりん、手捻りしたゴマと酢を少々加えたら春菊のお浸しの完成。
汁物はワカメとキャベツのみそ汁。
ようし出来た出来たと妻を呼ぶ。
何か食べられる?と聞いたらお腹空いたというのでじゃあ食べようかとなった。
お酒は妻の体調を考慮して休肝日。
いただきますをしてまずは春菊から。
ショリッとした歯ごたえで微かな苦みがあって大人の味である。
酢醤油にゴマを和えただけだが良いアクセントになっている。
ううん、これには日本酒だなぁと思ったがお茶で我慢我慢。
タジン鍋のふたを開けるとホワッと湯気が出た。
アツアツのうちに鶏肉をパクッ。
下ごしらえもしてあるので柔らかくてジューシーで旨味も十分。
妻もゆっくりとしたペースでパクパクと食べていた。
一緒に温めた野菜も柔らかくなっておりトロトロで優しい味である。
うんうん、今日は全体的に体にいいメニューだなと思いながら腹八分目でご馳走様。
お酒を飲まない日は思考がクリアでたまにはいいなと思った。
さぁて、今日は何を食べようかな。
まずはお買い物、お買い物♪。
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