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ヨダレの海でおぼれそう。

 私は自分の歯に全く自信がない。

 歯並びは悪くて八重歯もあるし、なんと言っても虫歯の多さには辟易してしまう。

 子どもの頃は小学校で半年に一度行われる虫歯検査では必ず引っかかっていた。

 その結果を家に持ち帰ると母がすぐに歯医者に行きなさいと言って予約の電話を掛けたものである。

 我が家の行きつけの歯医者はおじいちゃん先生がやっていて治療法はいたって荒っぽかった。
 
 痛かったら手をあげなさいというのでその通りにしたら、坊や我慢じゃと言って全く治療の手を緩めてくれなかった。
 
 歯科助手のお姉さんは暴れる私を押さえつけるのが仕事で決して味方ではなかった。

 田舎町だったので歯医者の選択肢もそれほどなく虫歯がひどくなってくると本当に憂鬱だった。

 唯一の楽しみは待合室にグルメ漫画が充実していたことでそこで初めて包丁人味平や美味しんぼ、クッキングパパ、味いちもんめなど料理をテーマにした漫画を浴びるほど読んだのはいい思い出である。

 そんな歯に悩みを抱えている私が一番嫌だったのは小学校で行われるフッ素塗布だ。

 歯をコーティングして虫歯を予防するフッ素をマウスピースに塗ってそれを咥えて上の歯と下の歯に薬液を浸透させるイベントでこれを好きな子は一人もいなかったと思う。

 フッ素液は歯にキシキシと染みるし酸味のきつい味で口にマウスピースを含んでいるとヨダレがだらだらと流れた。

 それをタオルで受け止めるのだがあっという間にタオルはヨダレまみれになった。

 塗布中は手に電極のついた棒を握ってそれが機械と繋がっていて一定の時間が来るとピピピッと電子音が鳴る仕組みになっていた。

 その音を合図にマウスピースをひっくり返すのだがこの瞬間の歯に伝わる違和感は最大の難所だった。

 どうにかこうにかフッ素塗布が終わって解放されると何と一時間はうがいも水を飲むことも禁止されていた。

 なるべくつばも飲まないようにと念入りに指導されていたのをよく覚えている。

 この辛い辛いフッ素塗布、皆さんはご存じだろうか?

 他県の人に話すと知らないと言われる幻のイベントである。

 塗布後も虫歯はガンガン出来ていたので効果のほどは不明ですが。

 そんな事を思いだしながら昨日の晩御飯のお話を。

 昨日は少し趣向を凝らした鍋。

 地元の周防大島町で食べられるミカン鍋にチャレンジしてみた。

 正式なミカン鍋を名乗るにはきちんとしたレギュレーションがあるのだが完全再現を試みるとコストがかかりすぎるので換骨奪胎の精神で挑む。

 具材は魚介なのでさばふぐの切り身とエビを用意した。

 あらかじめ塩を振ってしばらく放置して臭みを取る。

 その間に野菜の仕込み。
 
 白菜をざく切り、大根を皮を剥いて輪切り。

 ネギを斜め切り。

 次に豆腐一丁を十等分に。

 後は昆布で出汁を取る。
 
 ミカンをトースターで表面が軽く焦げるまで焼く。

 ふぐとエビを洗ってキッチンペーパーでよく拭いたら下ごしらえ完了。

 副菜は芋ガラの筋を取って砂糖醤油で軽く煮た。

 ようしでは食べようと妻を呼ぶ。

 まずは乾杯。

 昨日のお酒はレモンサワー。

 氷をきっちり詰めたグラスにサワーの素と炭酸水をコピコピ注ぐ。
 
 ではと言いながらグラスを傾ける。

 甘さ控えめの酸っぱい味で元気が出る。

 んんん、んまいと言いながら鍋作りに取り掛かる。

 まずは出汁を鍋に張る。

 大根を入れて火を点けて沸騰させる。

 沸いたらふぐとエビを入れて野菜も丁寧に並べる。

 そして真ん中に焼きミカンを乗せてフタをする。

 フツフツと沸騰してきたらフタを取っていただく。

 ミカンがゴロンと入っているビジュアルはインパクトが絶大で思わずジュルリとなった。

 ポン酢にふぐをくぐらせてハクリと食べると白身のあっさりとした旨味が口の中に広がる。
 
 とらふぐはなかなか手が届かないが安価なさばふぐならば気楽に料理に使うことが出来る。
 
 身離れも良くて食べやすい。

 次にエビをつまむ。

 アチチと言いながら皮を剥いて齧るとプリンプリンでパツンとした歯ごたえでこれもなかなかいい。

 野菜も白菜が煮えてきたので食べてみると魚介鍋の味わいがしっかりして食が進む。

 合い間に芋ガラを食べるとこれが丁度いい箸休めになって口の中がリセットされた。

 二杯目のレモンサワーを飲みながら豆腐をつつく。

 アフアフと食べるとゴージャス湯豆腐と言った感じで富豪気分になった。

 ミカンが丸ごと入っていても味に大きな影響がないんだなという事が分かったのは発見だった。

 一通り食べて具をさらったら煮込んで柔らかくなったミカンを食べる。

 ノンワックスの地元ミカンなので皮ごと食べられて甘みが増している。

 締めは水で洗ったご飯を入れて卵で閉じてネギをたっぷり散らした雑炊にした。
 
 ふぐとエビの出汁がたっぷりでた雑炊なのでこれは今季ナンバーワンの味だった。

 妻と二人でフッハフッハと食べて大満腹でご馳走様。

 いやぁ美味しかったと妻が言うのでまたやろうねと話した。

 地元の名産品となると普段は意外に作らないので改めて料理するととても楽しかった。

 さて、今日も何か楽しい仕掛けをしようかな。

 皆様寝る前にはしっかり歯を磨きましょう。

 大人の虫歯は進行が早いですからね。

 

 

 

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