煙の中に歯が四本。
つい先日、近所の焼鳥屋が閉店した。
私が今の家に引っ越してから良く通っていた馴染みのお店だった。
特に栄えている町ではないので歩いて行ける距離にある飲食店の数は決して多くはない。
そんな中で気軽にいつでも立ち寄れたこのお店が無くなったのはとても残念である。
あまり広くない店内の大部分を焼き場が占めておりいつも煙がもうもうと立ち込めていた。
換気扇はフル稼働なのだがいかんせん型が古いのと鶏の脂でビトビトなのであまり能力を発揮できていないようだった。
このお店に行くとまずは生ビールだ。
お通しは鶏皮ポン酢や肝の生姜煮だったりと少し気の利いたものが出てきた。
一人でふらりと行く事が多く、ここだけの知り合いも何人かいた。
最初の生ビールをウビビーッと飲み干すとすかさず二杯目を頼む。
それからメニューを眺めてさぁて今日は何にしようかなと思案する。
この時間がとても豊かで楽しい。
焼き鳥で必ず頼むのはぼんじりとヤゲン軟骨。
ぼんじりは鶏のお尻の肉で脂が多めで噛むとジュワッと口の周りが脂で濡れる。
それでいて肉の味が濃くて癖になる。
脂が強いので頼むのは一本か二本くらいだった。
お次はヤゲン軟骨。
これは鶏の胸骨の先端の柔らかい部分である。
コリコリとした歯ごたえが楽しくてついつい頼んでしまう。
ぼんじりもヤゲン軟骨もどちらも塩で食べる。
私は焼き鳥はどちらかといえば塩派でタレで頼むのはレバーやつくねのようなこってりしたものが多い。
焼き鳥を食べている最中にもサイドメニューも頼む。
名物の鶏のたたきや冷やしトマトなどをあてにお酒をビールから芋焼酎にチェンジする。
焼き鳥を一通り食べてお酒はビール二杯芋焼酎お湯割り三杯でお会計。
いつも思っていた以上にお安くて少しうれしくなる。
帰る時に大将にご馳走さん、また来ますと言うと大きな声ですぐに来てよーと言われるのがいつものパターンだった。
そんな幸せな関係だったのだがコロナ禍で経営が一気に大変になったと聞いていた。
私もめっきり足を運ばなくなってしまっていた。
お店を閉めるという噂を聞いてえっ!とびっくりした次第である。
閉店までに足を運ぼうと思っていたが長年の不義理が気になってどうしても行くことが出来なかった。
心残りは沢山あるが大将が落ち着いたらまたどこかでお店をやるという話を耳にしたので新規開店したら必ず足を運ぼうと思っている。
それにしてもこれでまた私の手持ちの飲食店の駒が減ってしまった。
これからは駅前の焼き肉屋と居酒屋と中華料理屋の三軒で外食欲を満たさなければならなくなった。
気軽に利用できるお店が無くなるのは素直に寂しい。
かといってお店自体が近くにないのともう面倒なので新規開拓をする意欲もあまりない。
この三軒のお店には末永く営業を続けてもらいたい。
そのためにせめて月に一度くらいは足を運ぼうと思う。
それがお店の経営を少しでも下支えすることになるのを願って。
そんな事を考えつつも昨日もお家ごはん。
夜は冷えたのでメインは鍋。
まずは副菜づくりから。
長芋を角切りにしてキムチの素と和える。
三十分くらい漬け込んだら仕上げに韓国のりを散らして即席長芋キムチの出来上がり。
もう一品はカブの皮を使う。
カブを厚めに剝いて皮を細切りに。
それをゴマ油で炒めて醤油、砂糖、酒、日本酒で味付け。
仕上げに七味唐辛子を振ったらカブの皮のきんぴらの出来上がり。
鍋のメインはラム肉。
野菜はカブと水菜。
後は豆腐。
よし、こんなもんでしょうと思って妻を呼ぶ。
昨日は休肝日。
いただきますをしてお茶で乾杯。
まずは鍋の仕込みをする。
水を張って底に昆布を沈めて日本酒をドブリドブ。
火を点けて沸騰するまでの間に副菜をつまむ。
カブのきんぴらはショリショリしてほのかに甘くてなかなかいい。
鮮度のいい野菜の皮は捨てるのがもったいないので調理することにしている。
根っこ以外は食べられる事が多いので活用する。
鍋が沸いてきたら昆布を取り出して野菜を入れる。
水菜はすぐに火が通るのでサッと煮たら頂く。
ゆず果汁を絞ったポン酢につけてハムリ。
シャキシャキした食感が素晴らしく瑞々しい青い味がする。
いかにも葉物野菜を食べているという感じで楽しい。
次にラムをいれてしゃぶしゃぶ。
ほんのりピンク色が残っているうちに引き揚げてパクッ。
薄切りなのでやや癖のあるラム肉の味が控えめで丁度いい塩梅だった。
妻にねぇ知ってるラム肉にはダイエット効果があるカルニチンが多く含まれているんだよと言うと目の色が変わってバクバクと食べだしたのがおかしかった。
一緒に煮込んでいたカブも柔らかく煮えており滋味に富んでいた。
豆腐も鍋の旨味を吸ってとても美味しい湯豆腐になっていた。
箸休めに長芋キムチをショリショリと食べて締めの雑炊まで完食。
お腹いっぱい食べたのでダイエット効果は微妙だが、妻がこれで痩せるねと嬉しそうに言っていたのでうん、そうだね!と答えた。
後片付けをサクサクとやってから早めに就寝。
それにしても行きつけのお店が無くなるの寂しいですね。
昔飲み歩いた隣町のネオン街は今は遠くに見えるなり。
飲み屋の綺麗なお姉ちゃんがもう娘に見えてくるお年頃ですものね。