安息日
コンドームに穴を開けられる。
おそらくピンで一突き、密封した袋ごと刺したのだろう。
気づいたのは、女が神妙に、それでいてどこか勝ち誇ったように、ほくそ笑んだからだ。例によってコトが終わり、一服しようとKが火を点けたときのこと。なぜか女はシャワーに向かわず、仰向けに寝ているKの下腹部を覗き込んだ。にんまり「おめでとう」と言った。
げんなりした局部の先っぽには、はちきれそうなゴムの膨らみが白濁色に充満している。そこから上に数センチ、ちょうど臍あたりに三滴・四滴、たしかに漏れ出た精液がある。とっさに女はそしらぬ風を装う。手際よく、もうケータイをいじっている。
その奥深い素振りに、Kはとまどう。試されているのではないか、という意識が、いっそう彼の目を見張らせる。
と、下腹部の物的証拠が、猛スピードで固まっていく。乾燥し、炭化し、真っ黒い小さな粒になる。徐々に動きだす。蟻だ。蟻が這いまわるのだ。はじめは数匹 (数滴) だったのが、すぐにどこからか集まってきて、見る見るKの身体じゅうに広がっていく。メロンに皺が刻まれる、その過程を早送りビデオで再生するときのように、おそろしい速さで黒い隊列が延びていく。体毛にまとわりついて、痒いかぶれも、切り傷のかさぶたも、ありとあらゆる器官へ委細かまわず。Kはベッドから跳ね起きる。慌てて、脇に腰かけていた神父に助けを乞う。
「な、なんとかしてください」
「どうなされた?」
「早く、この蟻を」
「蟻? 蟻をどうされたいのか?」
神父は、聖書がわりにポルノ・マガジンを携えている。ずっと、Kたちのまぐわいを見ていたにちがいない。腹の底では舌打ちしながらも、Kは懸命に懇願するしかない。しかし、何を。両手で蟻の群れを振り払う。少しでも手を休めれば、すぐに黒い絨毯でくるまれてしまう。Kの狼狽ぶりを、女はつぶさに窺っている。あからさまにうろたえるKの一部始終は、すでに彼女を充分に傷つけているのではないか。
人の親になるかもしれない、とは口が裂けても言えないのだ。
いや、それ以前に、Kは本来、神父に求めるべきものを知らないのだ。
救いなのか、裁きなのか。
神父の司祭服から、くぐもったケータイの着信音が聞こえる。