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□□□とボードゲーム(3.0)〜エッジ効果と即興

前回の記事はこちら。

去年の言葉遊びAdventカレンダーの話題の回収でした。

さて、今回からしばらくの間は、4ヶ月ほどほっといていた「□□□とボードゲーム」に戻ります。
前回は、数学詩について書きました。

今回から、話題を変えてしまいます。
音楽、特に即興(インプロヴィゼーション)であれこれどうなることやら書いてみます。


ボードゲームにおける即興

即興を用いたボードゲームはたくさんあります。
近年だと真っ先に代表格としてあがるのが「たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ」でしょう。

ほかにも「ワードスナイパー」や

「ワードバスケット」もあります。

とまあ、3つほどあげてみたのですが「たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ」は、「ワードスナイパー」「ワードバスケット」と比較すると即興性が弱い、と感じる方も少なくないと思います。
後者2つは、ゲーム性としてさらに素早さを競う点があるからでしょう。

とはいえ、「たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ」も、長くはない制限時間で、数枚の言葉が書かれたカードを用いてセンスいいセンテンスを作ることを考えると、全くの即興ではないとは言えません。


エッジ効果と即興

年末年始にわたり3回を費やして、『ゲームメカニクス大全』に書かれ
ている概念「エッジ効果」を取り上げました。

「エッジ効果」とは何か。
ざっくり言ってしまうと、プレイヤー本人の状況を踏まえてのボードゲームのルールやメカニクスに則した勝ち目の見積もりです。

なので「たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ」で、センスいいセンテンスを考えるのは、つまるところ「エッジ効果」です。
あまりにも長考してしまうと「悪いエッジ効果」と呼ばれます(ここらへんは、上にあげた記事の前半・中盤を参照)。

音楽における即興(インプロヴィゼーション)は、思考にかける時間がわずかで次々と演奏(プレイ)に興じるので、ボードゲームと比べてみるとアクションゲームに近いでしょう。
しかし、思考時間について多少目をつむれば、エッジ効果は即興の一種、と言っていいと思います。

参考書籍ですよ

で、珍ぬが即興(インプロヴィゼーション)について参考にした書籍を紹介。
工作舎が1981年に出版した『インプロヴィゼーション』(著者:デレク・ベイリー)です。

ざっくりとした本の内容・要点は、こちらを読むとよろしい。
というか、これだけ読めばこの後の文章は読まなくても大丈夫です(おい)。


Derek Bailey(デレク・ベイリー)さんは、イギリスのギタリストで即興演奏者です。

1950年代にプロのギタリストとして活動しています。
1963年に、ベースのギャヴィン・ブライアーズ(Gavin Bryars)さんとドラムのトニー・オクスレイ(Tony Oxley)さんとジャズバンド「ジョセフ・ホルブルック(Joseph Holbrooke)」を結成します。
この時期はフリー・ジャズが隆盛して、バンドも1960年代後半にフリー・ジャズの即興からさらに推し進めた自由な即興演奏(フリー・インプロヴィゼーション)を探求していきます。

ジョセフ・ホルブルックの後も、ベイリーさんは即興演奏者としてフリー・インプロヴィゼーションを探求していきました。


フリー・インプロヴィゼーションと対する概念

フリー・インプロヴィゼーションってなんなのか。
先のリンクにあげたWikipediaの「フリー・インプロヴィゼーション」から、ベイリーさんの引用をあげます。

【Wikipediaからの引用】
イングランドのギタリストであるデレク・ベイリーは、フリー・インプロヴィゼーションを「記憶なしに演奏する」ことと説明した。彼の著書『Improvisation』の中で、ベイリーはフリー・インプロヴィゼーションは「文体的または慣用的なコミットメントがなく、それは規定の慣用的な音を持たない。自由にインプロヴァイズされた音楽の特徴は、それを演奏する人の音楽的アイデンティティによってのみ確立される」と書いている。

ベイリーは、「人類最初の音楽によるパフォーマンスはフリー・インプロヴィゼーション以外のものではなかった」ため、フリー・インプロヴィゼーションは最も初期の音楽スタイルであったに違いないと主張している。

……わかるようなわからないような。
ちょいと気になるのが「文体的または慣用的なコミットメントがなく、それは規定の慣用的な音を持たない」。
これ、規定の慣用的な音を持った即興(インプロヴィゼーション)ってあるの?って話です。
言い換えると、フリー・インプロヴィゼーションに対する即興、ですね。

ベイリーは、フリー・インプロヴィゼーションとは何かを語るために、それに対するものを、イディオマティック・インプロヴィゼーション(Idiomatic Improvisation)と呼んでいます。

【引用】
私はインプロヴィゼーションの二つの主要な形態を説明するのに、”イディオマティック(イディオムに根ざした)”と”非イディオマティック(イディオムに根ざさない)”という言葉を用いた。イディオマティック・インプロヴィゼーションは、もっとも広くおこなわれているものだが、これは主にあるイディオム――ジャズとかフラメンコとかバロック――の表現方法に結びつき、そのイディオムからアイデンティティーや動機づけを与えている。

引用:『インプロヴィゼーション』P13


エッジ効果とイディオマティック・インプロヴィゼーション

ボードゲームにおける即興は、ほぼイディオマティック・インプロヴィゼーションです、と言い切っていいかも知れません。

ひとつ実例をあげようと考えまして、こちらにします。

麻雀

得点を取るためには、プレイヤーが持つ14枚の牌を、刻子(同じ種類の牌を3枚)または順子(3種類の数字牌から、1種類のみ連続した数字(例:2・3・4)牌を3枚)を4組と対子(同じ種類の牌を2枚)を1組にする必要があります。
この3枚4組+2枚1組が、イディオムになります。
さらにいえば、より細かい条件とかより点数が得られる役とかありますが、それを考えるのがエッジ効果にあたります。

ただ、麻雀のイディオムはこれ以外に、対子を7組揃える「七対子」があります。
そして、么九牌(数字牌の端っこと字牌)13種類あつめて、1種類は対子にする「国士無双」があります。

この「国士無双」ですが、逆に揃えないことを目指すイディオムでして、かつて「十三不塔」という役がありました。

これは14枚の牌が、1)刻子・順子はない、2)対子は1組だけ、3)搭子(1種類のみ連続した数字(例:2・3)、あるいは1つ飛ばした数字(例:3・5)牌を2枚)はない、の3つを満たすと成立します。

しかもさらに対子もない場合は「十三不靠」という役になりますが、日本ででは全くといっていいほど(ローカルですら)採用されていません。

実は、中国麻雀では「七星不靠」という、さらに数字牌の揃わなさを揃えるという、何言ってるんでしょうか私な条件の役もあります。
つまり、中国麻雀は日本の麻雀よりも多くのイディオムを用いたエッジ効果で遊ばなくてはならない、ともいえます。


とりあえずの中締め

ということで、今回はここらへんで。
正直、音楽の即興について考えるなら『インプロヴィゼーション』を読めばOKです。

珍ぬの書くことは世迷言で陳腐な寄り道(笑)でございます。

次回は、イディオマティック・インプロヴィゼーションと名付けている「イディオム(Idiom)」についてあれこれ考える予定。

……あくまでも予定。

では。

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