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ここが私のANOTHER SKY 【後編】
穏やかな朝の日差しが、新しい1日へと僕を誘う。
身支度を整え宿をチェックアウトして、朝食を求めて町に出る。
見つけて入った定食屋では、特大ボリュームの餃子定食がたったの600円。
お腹がはち切れそうになりながらもなんとか食べ切る。
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満足気に働き出した胃袋をよそに、昨晩居酒屋で決めた集合場所へ向かう。
集合場所には、昨晩居酒屋にいた日本人と外国人のカップル、同じ宿に泊まっていた一人旅の女性、今日案内してくれる地元のお兄さんと彼の愛車の四駆がすでにそこにいた。
挨拶もそこそこに車に乗り込むと、一行はまず三原山に向かった。
どこから来たとかどこへ行ったとか、車内で他愛もない話をしていると三原山駐車場に到着。
……したのは良いのだが、僕の座っていた場所のドアが何故か開かなくなった。
リアル脱出ゲームの始まりである。
とはいえ反対側のドアから出たので難なくクリアしたのだが、後ほど車屋に行くことになった。
さて、三原山は伊豆大島の火山であり、【前編】で訪れた伊豆大島火山博物館で展示されていた1986年の噴火はこの山によるものである。
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外輪山展望台から写真を撮り、みんなで記念撮影もして次のスポットへ。
先ほど述べた車屋でドアの不調を治し、地層大切断面、次いで南の港へ向かった。
南の港の近くでは美味しいと評判のたい焼きを食し、『伊豆の踊り子』と縁のある古民家を訪れた。
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小腹も満たし、ついに待望の裏砂漠へ。
昨日あれだけ苦労した登り坂も、文明の利器により難なく登って行く。
少し複雑な気持ちを抱える僕を乗せ、あっという間に四駆は裏砂漠入口に到着した。
探索に向けて気持ちを切り替え、車を降りるためにシートベルトを外したのも束の間。
四駆はそのまま砂漠へ侵入していった。
車で入っていいの!?と、きっと全員が思ったであろう。
徒歩で裏砂漠を歩いていた10人ほどのツアー客も驚いていた。
が、そんなことはお構いなしに車は悪路を進んでいく。
そしてそれはまるで、座ったままトランポリンで跳ねているようなものだった。
外したシートベルトを急いで締め直し、取っ手を掴んで体を極力固定する。
助手席にいた背の高い外国人男性は、何度か天井に頭をぶつけていた。
思いもよらぬアトラクションをしばらく体験し、車は斜度のある小高い丘を登り始めた。
驚いたことに四駆というのは想像以上にタフなものらしい。
小高い丘の頂上付近、展望台に着くと僕たちはホッと一息ついて車を降りた。
途端にものすごい突風が吹き付ける。
どうやら外もアトラクションのようだ。
その風はあまりに凄まじく、進むことも目を開けることも大変なくらいだった。
試しにジャンプしてみたら、明らかに風に流されていた。
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ちなみに、砂漠という名前が付いてはいるが、写真の通り一般的に想起される砂漠とはやや異なる。
伊豆大島が火山の島であることから、堆積物は火山性の礫や軽石がほとんどであり色も黒っぽい。
黒々と広がる裏砂漠を撮ったり、茫洋たる太平洋を撮ったり、車を風除けにして集合写真を撮ったりして裏砂漠を去り、北の港へ向かった。
北の港ではお土産屋や定食屋に入り、伊豆大島での最後の食事を皆で楽しんだ。
そしてあっという間に時は過ぎ、帰りのジェット船に乗り込んで僕の初めての一人旅は幕を閉じたのだった。
今思い返してみても、当時の記憶は褪せることなく甦ってくる。
たった一泊二日、それだけの時間だったのに、なんと濃い旅行だったのだろうか。
それまでにも海外を含め何度も旅行はしてきた。
それでも、あんなにも充実して、鮮やかで、かけがえのない旅の記憶は他にないと思う。
あの旅を超えることはないかもしれないが、それでもそれと同じくらいの充実を、僕は今でも旅に求めているのかもしれない。
当時は意識していなかったが、伊豆大島で泊まった宿こそ人生初のゲストハウスだったし、ヒッチハイクも温泉で声をかけたのも、1人旅だったからこそだろう。
旅の恥はかき捨て、と言うが、一人旅では誰かに話しかけやすくなるのかもしれない。
普段生きていて、通りすがりの人と思い出ができることなどほとんどないからだ。
それに、なんの因果か、一年近くもゲストハウスを転々としてしまったのは、やはりどこかに一期一会への憧れというか、人間の無常さのようなものを感じているからかもしれない。
何はともあれ、この伊豆大島への一人旅によって、さらに旅の虜となってしまったことは間違いない。
だからきっと、これからも僕は旅を続けていくだろう。
終わりがあるのかは分からないけど、その時その時に感じたことを楽しみながら、心ゆくまで旅を続けていく。