傷にはケアが必要なのだ-能力主義に物申す3冊-
このポストが勅使川原真衣さんとの出会いだった。
傷つき、傾聴、ケア。。。靴のたとえから、ブレイディみかこさんの『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』が思い浮かぶ。
そっか、他人の靴を履いてみるどころか、靴擦れしたまま同じ靴をはき続けている人のほうが多いのかもしれない。。。
傷には手当てが必要。靴擦れで痛む足のまま他人の靴を履くなんて無理だ。
その後、検索して、勅使川原さんの初めての著作と2冊目の新書の存在を知り、まずは、『「能力」の生きづらさをほぐす』を読むことにした。
ほどなくして本が到着。見慣れたアマゾンの茶封筒を開封し本を取り出すと「執筆伴走 磯野真穂」という文字が目に飛び込んでくる。んん???すぐに本棚に目が行く。
『急に具合が悪くなる(哲学者宮野真生子 人類学者磯野真穂)』
たくさん並ぶ本たちの中でも、特に大切にしている本である。驚きでもあり、勝手にご縁みたいなものを感じた。
さて、再び『「能力」の生きづらさをほぐす』に戻る。
帯に「4刷出来!」の文字が躍ることからも反響の大きさがわかる。
ここで、私のつたないまとめを入れるよりも、この本を紹介するWEB記事がたくさんあるので、そちらをシェアさせていただく。
詳細はWEB記事に譲るとして、どうしても「おわりに」から引用したい。
どうだろう。とても強い、愛とパワーを感じるのは私だけだろうか。
大学生息子と高校生娘の2児の母ということもあり、どうしても母目線で読んでしまう。まあ、そこはしかたない。
「成人した我が子たちが生きる時代に、個人に無限の努力を強いるような社会は残したくない」
共感しかない。
そして、エピローグのマルちゃんが高2の娘と重なる。。。
あまりに自分の関心と通じるところがあったので、続けて新刊の『職場で傷つく』、新書の『働くということ「能力主義」を超えて』を矢継ぎ早に読んだ。「伝えたいこと」のコアな部分は3冊とも通底していると感じた。
あくまでも個人的な見解だが、2冊目の『働くということ』は、「選び・選ばれる」という視点からの考察が肝である。ケーススタディが豊富で、各メンバーの「能力」ではなく、発揮しやすい各個人の「機能」の見極めとその組み合わせ方の勘所を探究できるような感じなので、組織でのチーム作りやどんな人を採用したらいいのか、まさに今困っている方が読むとヒントがたくさんあるのではと思った。ただ、理想論だよねって感じる人もいるかもなとは思った。能力主義が強力に染みついているから。そこから逃れられる気がしない、そんな人もいるだろう。だって傷ついても、弱さを見せられない社会だから。気づかないふりをした方が楽だから。
「働くということ」の内情を、掘り起こして文字にすることは、いわばちょっとしたタブー、パンドラの箱。職場の機微を描くのは、むしろ文学作品の本領。。。『世界文学をケアで読み解く』という小川公代さんの本があるが、大きな声に社会が支配されているその裏側で、リアルな声、小さな声は、文学作品の中にひっそりと息づいているのかもしれない。
続いて、『職場で傷つく』。能力主義信奉からくる生きづらさをほぐすデビュー作の次に、能力主義を超えて働くにはどうしたらいいかというところを紐解く2冊目がきて、いやいや実践の前に、誰もが当事者である自分の「傷つき」に自覚的になること、そして傷つきをなかったものにせず、手当て(ケア)が必要であるよ、ということに気づかせてくれる3冊目。気づきとともに、各自が能力主義の壁を越えて、それぞれの場所で変革者になる道筋を照らしてくれる本でもあると思った。
いずれの本も最初に全体の構成が明示されていて、ロジカルな構成になっていて、文体がカジュアルなので、読みやすく、するする読める。そして、どの本にも、独特のユーモアと少し暑苦しいくらいの(ほめてます)のおもいがあふれていて、勅使川原さんの愛とパワーが詰まっていた。
話は逸れるが、最近、「静かな退職」なる言葉を耳にした。Z世代を中心に広まっているそうだが、日本では、40代、50代のミドルシニア世代が「静かな退職」状態になっているという。
再びこのポストが浮かぶ。
人間なんて、もともと、自分勝手だし、めんどくさいし、ややこしいし、傷つきやすいし、たったひとりでは生きていけない弱い存在なのだと思う。無理やりルールで縛ってつくられた秩序はいつか崩壊するし、能力主義や競争を強いたところで、社会経済的価値が誰もが納得するような適切に分配されることはない。
関係性がうまくいかないとしたら、それは、個人の能力不足ではなく、組織の機能不全。競争ではなく、助け合って生きていくことでしか、多様で、多面的な人間がそれぞれに心地よく共に生きていくことはできないのだ。
勅使川原さん、本の出版スピードもすごいが、それに伴い、出版記念イベントも続々と開催されている。
先日は、「『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)刊行記念 勅使川原 真衣×近内悠太トークイベント 「他者と働き、他者とつながるということ。」というイベントにオンラインで参加した。
近内さんがいつものマシンガントークで、司会者くらい取り回しがうまくかったなw 初めて見る、動く勅使川原さんは、イメージ通りの方だった。
そして、お二人の共通点が「野良」ってとこに、ちょっと笑ってしまった。私には論文や専門書はちょっとハードルが高いので、一般書を書いていただけるのはとてもありがたい。
ちなみに近内さんの著書については、少し前に書評ブログを書いている。
そして、8/1は、こちらのイベントがある。
勅使川原真衣×堀越英美
「あなたは職場で傷ついたこと、ありますか?」
『職場で傷つく リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』(大和書房)刊行記念
ケアは、私の探究テーマなので、楽しみだ。
お相手の堀越英美さんの著作についても、少し前に書評ブログを書いている。
能力主義に物申す3冊。重なる内容もあるが、それぞれにテーマが違うので、ぜひ3冊それぞれの角度からまとめて読むことをおススメする。
これまでの3冊は、主に職場にスポットを当てているが、ぜひ、学校現場にはびこる能力(学力)至上主義にも切り込んでほしい。社会が少しでも脱能力主義に動けば、それに伴い学校教育現場も脱能力(学力)至上主義に動いていくだろうとは思うが。すでに「教職研修」に連載を持たれているということなので、いつかまとまった形になってくれることに期待しつつも、くれぐれも無理し過ぎのないように、と切に願う。