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がんばって、大人になって
読み終わったとき、この世にこんな物語があったのかと思い、同時にこの世にこんな物語を書ける人がいるのかと思う本。
それがかがみの孤城である。
私は小中高大と学校に通ってきて、いじめられたことや学校に行けなくなった経験はない。
平々凡々、ネットで「普通の人生」と検索したら、私の人生が紹介されていてもおかしくないような道を歩んできた。
ただ学生時代の苦い思い出といえば、スポーツと恋愛だ。私はこの2つが途方もなく苦手だった。というか今も苦手だ。
小中学校では特にそうだが、スポーツが苦手な男子は「ダサい」とカテゴライズされがちだ。
また恋愛トークが苦手な男子は「つまらない」とカテゴライズされがちだ。
偏見だろうか?いや、少なからず賛同してくれる人はいるはずだ。
そのうえ私は他人の目をとにかく気にする性格だった。苦手なことや失敗しそうなことはぜったいにしない。なぜならかっこ悪いから。
そんな性格だから、いつまで経っても失敗もしない代わりに成功もしない。
それゆえ、気まぐれにスポーツや恋愛に興味を持ったとき、周りとの圧倒的な実力差に驚かされることもたびたびあった。
いわゆるダサくてつまらない私は、今思えばそれなりにからかわれることも多かった。
「いつもそうなんだよ、なんでかわかんないけど、みんな、僕のことは軽く見ていいと思ってるんだよ。」
「僕の恋愛は、僕だからって理由だけでさらして、からかっていいと思ってる。誰も本気にしないし、他のことだってそうだよ!」
だからこそ、このウレシノの言葉は刺さった。
それはもう刺さりすぎてもはや嬉しささえ込み上げてきた。
あの当時の私もこう叫べばよかったのか!!
あの頃の自分は語彙力もなく、モヤモヤ感を言葉にできないでいたが、ウレシノは声を大にして叫んだ。ウレシノ、キミ、国語得意だろ。
「暦くん、まゆ毛めっちゃ太いねw」
「その服着てると、暦くんおっさんみたいw」
「(体育の授業にて)暦くんがいるってことは、このチームは負けるってことだねw」
相手はなんの悪気もなく言ってるのがわかるからこそ、サーッと血の気が引いていくのがわかるこの感覚。
「今自分は嫌なことを言われてるけど、ここで嫌がってるのがバレたら『つまらないヤツ』にカテゴライズされる」
そう思うととりあえず笑顔で「は?知ってるし」とかわけわからない返しをするしかない。
今思えばくだらない話だし、別に私だけが言われてたわけではないのだろう。そのからかいがあったからこそ楽しい雰囲気になったことも多いし、他愛もないおふざけというやつだとわかっている。それに一切の自分磨きをしてこなかった私が、他人からかっこ悪さを指摘されるのは仕方ないことでもあったと思う。
しかしこの当時はそんなふうには考えられなかった。理由は、子供だからの一言に尽きるだろう。
子供のときに味わった、あの苦い苦い感覚。
その何十倍とも言える苦さを、こころたちは味わい続けてきたのかと思うと、爪先からつむじまで余すとこなく血の気が引く思いだ。
いっそのこと私は、8人目の登場キャラクターとしてあのかがみの孤城に行きたい。みんなと話して、遊んで、「なーんだ私と同じような人って意外といるじゃん」と思いたい。
平日の昼間、お母さんと2人、カレオの中のフードコートにいるとき、孤城のメンバーが通りかかったりしないかとこころが期待しているシーンがある。
たった一言、「私の友達なんだ」って言いたい気持ちはすごくわかる。友達という存在がどれだけ誇りか。
中学生のこころからしたら、友達がいることは本当なら当たり前で、友達と呼べる存在がいない自分は劣っているという気持ちを抱いてしまう。
社会人になってみると、友達がいるって実はすごいことなんだなと気づく。当たり前のように友達に会える時間なんて、人生のなかでは本当に短い。
学生だった頃、もっと臆せずに失敗をしていたら…。もっといろんなことに挑戦していたら…。
なんて、本を読みながら自分の人生を振り返っていた。
そういえば、こんなふうに人生を振り返ることなんて今まであっただろうか。子供のころ独特のあの苦い感じを思い出したのも久しぶりだ。そういえばよく遊んでいた彼は元気だろうか。一緒にやってたゲームの話を、今ならお酒でも飲み交わしながら語れるのだろうか。
平々凡々、ネットで「普通の人生」と検索したら出てきそうな私の人生史のなかに、「○○歳のとき、とある本を読んで自分の人生を振り返る」という1文が記載された。これってけっこうすごいことなのでは?
そうなってくると私の人生、意外と平凡ではないのかもしれない。なにせこんな本に出会えたのだ。平凡とするにはあまりにもったいない。
私の人生史にかがみの孤城が刻まれたことを誇りに思う。読めてよかった。みんなに会えてよかった。
辻村深月さんと、彼女が産んだ7人の子供たちに感謝を込めて。