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城山文庫の書棚から086『チョンキンマンションのボスは知っている』小川さやか 春秋社 2019
著者はタンザニアでフィールドワークを行いスワヒリ語を操る文化人類学者。登場人物は香港のチョンキンマンション=重慶大厦に暮らすタンザニア出身の商人たち。彼らのボスと称されるカラマとの交流を通じて、アングラ経済の仕組みを解き明かす。
カラマは決して力強いボスではない。時間にルーズで顧客にはいつも怒られ、若者達からも煙草の吸い過ぎを嗜められている。けれど憎めない愛されキャラで同郷人達の信頼を獲得している。日本人の著者とのツーショット写真までビジネスに活用する強かさも併せ持つ。
彼らの間で貢献の不均衡さ、互酬や信頼がさほど問題にならない背景として「ついで」の論理を指摘する。誰もがついでに便乗してやっているという態度を表明しているので、助けられた側に過度な負い目が発生しない。たくましく生きる彼らの知恵だ。
「私があなたを助ければ、だれかが私を助けてくれる」という原則が香港のタンザニア人社会を紐解くカギを握る。義務や返済をきちんと履行できない者を排除するシェアリング経済とは対極の姿だ。どちらが正しいというものではない。どちらも正解だと思う。