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城山文庫の書棚から037『ゼロからの「資本論」』斎藤幸平 NHK出版新書 2023

『人新世の「資本論」』でマルクスを21世紀に甦らせた斎藤幸平さんが「物質代謝」の観点からより分かりやすくその思想のエッセンスを紐解く入門編。NHK「100分de名著」テキストがベース。

化学・生理学の用語である物質代謝を通して「労働」という行為を重視しながら『資本論』を読み進める。人間が自然との物質代謝を規制し制御する行為が労働であるという。マルクスは労働を深く考察することで資本主義の特殊性に迫った。

本書で斎藤さんは「労働価値説」や「物象化」といったマルクスの鍵概念をわかりやすい喩えを用いて解説する。増大するブルシット・ジョブやコロナ禍でのエッセンシャルワークの重要性など、身近な事例は資本論の理解に見事な補助線を与えている。良質なマルクス入門書だ。

マルクスが晩期に構想した「脱成長コミュニズム」に斎藤さんは共感し、その継承をめざす。『資本論』が未完に終わった為に、彼が描いた「コモンの再生」が十分に理解されず浸透していない。新自由主義経済がもたらした「野蛮状態」を回避するヒントがそこにあり、それこそがコミュニズムの可能性であると言う。若き俊才から当面、目が離せない。