見出し画像

ダブルダイヤモンドで整理するボードゲームデザインのプロセス

ダブルダイヤモンドは、デザイン思考でおなじみの、サービスや製品の開発プロセスです。

ざっくり言うと、アイデアの発散と収束を繰り返し、サービスや製品の完成に至るというモデルで、イギリスの政府系デザイン機関Design Councilが2004年に提唱し、幅広い分野で利用されています。

Design Councilより引用

僕はボードゲームデザインをほぼ我流で始めましたが、改めて振り返るとダブルダイヤモンドに近いところもあるなと思いたち、ボードゲームver.を整理してみることにしました。

それがこちらです。ちなみにボードゲームづくりには色々流派がありますが、僕は基本的にボードゲームはメディアの一種だと思っているので、何か伝えたいテーマがあり、そこから創作が始まると考えています。

全体を見てみると、テーマの発見から始まり、一つ目のダイヤモンドで「どんなゲームをつくるか」を考え、その収束後に二つ目のダイヤモンドで「どうやってゲームをつくるか」を考えて実行し、完成に至ります。

ただ青い矢印が示すように、このプロセスは時には逆行します。予算の都合や、収集した情報やテストプレイの結果、アイデアを捨てるケースがあるからです。もちろんあまり頻繁にはやりたくないですが、明らかにより目的に合致するソリューションが発見できて、スケジュール的に調整が効きそうなら、そちらを選択するのが常となります。

これらを踏まえて、テーマの発見〜ゲームの完成に至るまでの各ステップをざっくりと解説します。

ステップ1:テーマの資料収集

テーマを発見して、これでゲームを作ろうと決めたら、最初にするのはテーマの資料収集です。テーマの発見は、どこかでたまたま聞いたり、マーケットを眺めていたりする時に発生します。あるいはクライアントからお願いされて決まります。

決まったら資料として、それにまつわる最近の本や定番の本を集めたり、ネットで調べたり、人に話を聞いたりします。役に立つかわからなくても、ここで出し惜しみはしない方が経験上いいです。ガンガン発散させます。ここで集めた資料は最後のステップまで役立つからです。

僕が好きなやり方はWikipediaで該当ページのリンクを掘り進んでいくことです。関係するキーワードについても知識を入れていくことで、頭の中でのリンクが発達しやすくなります。ハイパーリンクさまさま。

具体的にいうと、『ペルソナ』のことを調べるなら『真・女神転生』のことも知っておくといいという感じです。

ステップ2:テーマの考察・研究

資料がほどよく集まって、テーマについて人に説明できるくらいになったら、今度はそれを自分なりに解釈してみます。パラパラと集めた情報の中から、特に気になったものや重視すべきだと思うものに集中してさらに考えるステップです。

たとえば何かしらのビジネスをテーマにしたのなら、それがなぜ人に必要とされているのか、とか、どんなイベントが転機になって今に至るのかなど深掘りしてみます。それがきっとテーマの魅力に当たるからです。たくさん見つけられるとグッドです。自分の中のワクワクを見逃さないようにします。

ステップ3:テーマの中の「良さ」の発見

ここから「どんなゲームを作るか」のフェーズが収束に入ります。ステップ2の研究・考察の結果見つけた複数の魅力の中から、1つに絞り込みます。主観的な決めでもひとまずはOK、あるいはよくよく考えてみたら複数あった魅力は一言に集約できることもあるかもしれません。

それが決まったら、友達や家族、自分以外の人にアイデアを話してみます。その良さが自分だけにとっての良さかもしれないからです。それに値打ちがないということではないのですが、ゲームというメディアは誰かに遊んでもらってなんぼなので、他の人の視点を早いうちに入れておいた方が後で大火傷しないですみます。

Twitterでつぶやくこともあります。ゲームじゃありませんが、このnote自体も、ダブルダイヤモンドの画像をTwitterで上げてみたら反応がけっこう良かったので、さらに詳しいまとめも需要ありそうだなと思って書いてます。

ステップ4:コアテーマの設定

他人のフィルターを通ったら、ここでコアテーマを決定します。「テーマ」をジャンルとするなら、そのどこに集中するか、何を言えばプレイヤーにそのテーマの魅力を伝えることにつながるのか?を考えるのです。仮でもいいのでバシッと言葉にしておくと、後で方向性やシステムのA or Bに迷った時に「そのテーマに沿っているか?」という問いを立てて意思決定がしやすくなります。

いわば企業のミッションみたいなものです。例えばGoogle社のミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」で、サービスを始めたりやめたりするときはそれを基準に決めると言われています。

ステップ5:先行ゲームシステムのリサーチ

こうして伝えたいコアテーマが固まったら、それを表現するためのゲームシステムを考える「どうやってゲームをつくるか」のステップに入ります。

よほど天才でないかぎりは、先行ゲームシステムのリサーチから始めるんじゃないでしょうか。少なくとも僕はそうです。無から生まれるアイデアはほぼありませんし、すでに誰かに親しまれているゲームのフレームワークを利用したほうが、これから作るゲームも誰かに親しまれる可能性が高いからです。

ステップ4の途中くらいから、こういうテーマならこういう動作をしてもらうのが良さそうだな〜という仮説が立てるようにしておいて、それに近そうなゲームやシステムを探しています。

具体的なゲームから抽象的なシステムを抽出するのは大変ですが、便利なのはやはり『ゲームメカニクス大全』。ボードゲームに多く見られるシステムが網羅された辞典のような本です。システムが含まれるゲームも“参考文献”として掲載されているので、実タイトルに触れる助けにもなります。

ステップ6:ゲームのプロトタイピング

こうかなと思えるシステムが見つかったらできたら、それをベースにしたプロトタイプづくりです。ステップ5までは頭の中やドキュメント上の作業でしたが、ここからアウトプットに入ります。

理想的なやり方は、紙に手書きするなどして、最低限の動作確認ができるものを実装することです。最近はオンラインでやることも増えたので、画像データを用意して、ユドナリウムなどのツールを使用することも多くなりました。

いずれにせよ、自分以外の他人が動作確認できるものをつくるということです。また次のステップのテストプレイの説明用&検証用にルールブックをこの段階でつくっておきます。ルールブックを書いてみるという行為自体が、プロトタイプの抜け漏れを発見するダブルチェックになるからです。ちなみに、このnoteも公開前に有志の方に読んでいただいてブラッシュアップされています。。

ステップ7:ゲームシステムのテストプレイ

プロトタイプができたら実際に人に試してもらいます。テストプレイは2段階あり、このステップはその第一段階となる「ゲームとして成立しているかのテスト」です。

ゲームアイデアが死ぬのはこのタイミングが一番多いです。慣れてくるとステップ6までひとっ飛びでできちゃうこともあるんですが、いざやってみると「あれ、思ったのと違うな」となります。頭の中で考えたアイデアは外気に触れると予想外に不完全燃焼しがちなのです。テストプレイにお付き合いいただく皆様には、まずその言い訳をしてから始めることが多いです。

テストプレイを受けて、成立していないところは成立するように調整したり、不要な要素を削ったりします。

テストプレイにおける心の持ちようとか位置付けについては、米光さんのnoteが非常に参考になります。

ステップ8:ゲーム全体のブラインドテストプレイ

ゲームシステムのテストが済んで、どうやらこれは楽しいゲームになりそうだぞとわかったら、ゲームの作り手が介入しなくてもゲームが成立するかどうかを検証します。

できるときは箱のモックをつくり、そこに説明書やコンポーネントをすべて収め、入る予定のものが入った箱をテストプレイヤーに渡して、「さぁどうぞ」とお願いします。

自分はメモを取るだけに徹して、なにか聞かれても答えません。テストプレイヤーが理解できたように終わりまでゲームを進めてもらいます。間違った進行になってたときに喋らないのは意外と難しいです。ただ、ここで得られる情報は一番本番に近いので非常に参考になります。

これで改善を繰り返し、プレイヤーが問題なく楽しめるようになったら、ゲームパッケージとして成立しているとようやく一安心。これをもとに仕様を決めて、製造に進みます。

最後にまとめ

以上です。改めてまとめると、下記になります。

1つ目のダイヤモンド:どんなゲームをつくるか
⇨テーマの資料を集めて研究、ゲームのコアになる「良さ」を発見する。
2つ目のダイヤモンド:どうやってゲームをつくるか
⇨テーマを表現するシステムを収集、プロトタイピングして2段階のテストプレイを実施して改善を繰り返す。

実際はここまできれいにステップが分かれていなくて、各ステップは反復横とびを繰り返してちょっとずつ進んでいくような形になります。図での青い矢印はそれが劇的に発生するケースということです。

ちなみにもちろん、これだけではゲームは「完成」しなくて、世に出るためには他にもゲームそのものの製造はもちろん、PRや流通の手配など様々な手続きや業務が必要になります。僕らで全部やることもありますが、代理店さんから依頼を受けて制作するときなどは分担することになります。
仲間が増える方が視点が増えるので、いいものができるような気はしています(ただしゲームデザインの「決め」はデザイナーが責任をもってしますが)。

というわけでボードゲームデザインのダブルダイヤモンドのざっくり解説noteでした。これから作ってみようかな、どうやって作ってるんだろう、と思っていた方の参考になれば幸いです。
あるいは、一緒に作ってくれる人を探していたんだよねという方はご一報ください。

Twitterでもボードゲームの話をよくします。ご興味あればフォローぜひ!


この記事が参加している募集

ナイスプレー!