きみのおめめ 玄関のこづつみ #27
手のひらよりもわずかに大きい、オフホワイトのクッキー缶をもらった。
缶の蓋を開けると、いろいろな形をしたクッキーがきゅっと形を揃えて並ぶ。花びらを模した淡い桃色、切手のかたちにくり抜かれたココア色、小鳥が羽を広げたクリーム色。ふんわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
「わあ、娘ちゃん、これぜーんぶ食べたくなっちゃう」
机に手をついたまま椅子についたステップに立ち上がるので、緩んだ脚がかたかた鳴る。
食べてもいいけど、一枚はかかに食べさせてね、と娘の腰をやんわりと下ろさせる。
「一枚じゃなくて、たくさんいっしょにたべよ」
クッキーは牛乳とがおいしいってととが言ってた、と続けて、食器棚から自分のガラスコップを出す。
牛乳を注いで、一枚のクッキーを手に取る。クローバーのような形をした緑色のクッキー。
娘はクッキー缶の上で指先をゆらゆら揺らし、どれを一番に食べるか吟味していた。
ものをつまむような仕草のまま固まり、うーん、と唸る娘が、
「ととはどれが好きだとおもう?」
という。ととはココアかなあというと、ティッシュを広げてそこへクッキーを置き始めた。
「いーち、にーい、さーん、しーい、ご!」
すべてのココア味のクッキーを並べ、角を集めてきゅっとつつむ。ぎゅっと握った手をしばらく見た後、何か言いたげにこちらを向くので輪ゴムを手渡すと、ぱっと顔が明るくなった。
娘はクッキーを食べて「さくさくだねえ」「おいしいねえ」と顔を綻ばせる。
その間に何度も、ちらちらと玄関を見る。
何重にも輪を通した結果きつめに結ばれた小包を、娘は玄関の脇に置いていた。
「とと、喜んでくれるかなあ」
つかれたときには甘いものって、ほいくえんの先生が言ってたんだよね、と続ける。
そりゃあ喜ぶに決まってるよ、と言いながら、娘の頬についたカラフルなクッキーの粉を、指の背でゆっくりとすくった。