きみのおめめ お祝いのケーキ #23
「かか、あいばくんテレビ出てるよ!」
キッチンで朝食の準備をしていた私に娘が声をかける。
食器棚から水色の皿を3枚出し、昨日買ったパンを乗せたところだった。ミルクパン、ウインナーロール、シナモンデニッシュは、娘と夫と私でそれぞれ選んだ。
ふたつの皿をダイニングへ運びつつ、映画の宣伝かな、と言いながらテレビへ目をやると、第一子誕生のニュースが流れていた。
驚いて声をあげ、娘ちゃん、相葉くん赤ちゃんが産まれたんだって!とソファに座る娘へと駆け寄った。
娘は、はっと眼を開いたあと、
「えー!あいばくんがお父さんになるってこと?!えー!赤ちゃんおめでとうだね〜!」
と言う。そうそう!おめでとうだね、と言う私と一緒に拍手をした後、テレビを見つめすうっと沈黙した。
テレビ画面と娘を交互に見る。流れるニュースの中から自分で言葉を拾いたいのか、次の話題へと移るまで目をそらさず、ただ静かに見入っていた。
しばらくして、
「あいばくん赤ちゃん産まれたならさあ」
と言いソファを立った。
「娘ちゃん抱っこしにいったげようかなあ、娘ちゃん、赤ちゃんじょうずにだっこできるからね」
ほら、こうやって、とお気に入りのぬいぐるみを抱く。すぐに、ふ、ふ、ふ、と笑いだし、くるりと跳ねてまわる。
「なんだかわかんないけど、嬉しい気持ちだよねえ」
そう言って、胸に抱いたうさぎをゆらゆら揺らした。
「あいばくんの赤ちゃん、おとこのこって言ってたよね」
コメンテーターが次々流れる話題で盛り上がる中、娘はダイニングの席へ座り、私が置いたミルクパンを前に言った。
キッチンでコーヒーを淹れつつ、そうみたいだね、と返し、牛乳をこくりこくりとと飲む娘を見る。ぷはー、と息を吐くお決まりのポーズをしたあと、
「娘ちゃんとおんなじお誕生日だったら良かったなあ、と思って」
と言うので、娘の隣に座っていた夫が「それはなかなか難しいことかもね〜」と笑っていた。なんで?と聞く娘に、1年は365日だから、と話しはじめた。うん、うん、と聞いていた娘は話が長かったらしく「うーん、わかんない」と途中で匙を投げていた。夫は少しだけしゅんとした。
朝食を食べていると、夫のウインナーロールのウインナーだけを大きな口でパキリと食べた娘が突然はっとした顔をした。
夫と顔を見合わせ、もごもごと急いで食べようとする娘を落ち着かせる。
やっとのことで口の中のものを飲み込んだ娘が、いいこと思いついちゃったんだけど、と目を輝かせて続ける。
「お祝いだから、今日はケーキ食べようか!」
ねー、と首を傾げてこちらを見る娘のこめかみを笑いながらなでる。額にかかる細い髪の毛が、しゃり、と鳴る。
その横で、3歳のときに娘が初めて描いた相葉くんの似顔絵が目に入る。好きになってすぐ保育園から持ち帰ったそれは、今もまだ娘の席の後ろの壁に貼ってある。
そうだね、買いに行こう、という。返事を聞いた娘は、座ったまま両手を挙げて跳ねた。