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それでも酔っている

K(自分)

ミーティング用のアプリを使った飲み会を私は結構気に入っている。

家だから変に気張らないし、友人内なら余りものをちょこちょこ食べられるし、そこまでお金がかからない。
見栄を張らなければ。

今日もまた、PCからアプリを起動していつも通りに参加する。
やっとゆっくり座れた気がして、気持ちが緩んだのが分かった。

今日は仕事でトラブルがあって、夕方までバタバタしていたのだ。

家に入ると緊張感と疲労感が入れ替わって、ついさっき、手を洗ったら一口だけ飲んでしまった。

画面に映る食べ物や背景には気を使わないけれど、グラスだけは用意するのが私のルールだ。
もらいものの洒落たグラスはこんなご時世になって、やっと使う機会がやってきた。グラスをちゃんと使うためのルールとも言える。

ご飯を食べながら中身のないことを話しているうちに眠気が襲ってきた。
疲れと安心できる時間のせいで気持ちよくなったのだろう。

さっきまでよりも口数は減り、のんびりと聞き役に回った。

一度お皿を下げようと席を立ち、PCの前に戻ってきたときには頭がすっきりとしていた。もう眠くない。

グラスに口をつけると、香ばしい匂いと柔らかなのど越しがあった。

これ烏龍茶だ。

帰ってすぐの一口で、私はとっくに酔っていたみたいだ。

M(ホスト,自分)

だんだんと口調が柔らかくなる、もしくは多少口が悪くなる2人を見ていると微笑ましい。

私の手元には、普通のグラスに透明の液体とかすかな泡。
今日はレモンの香りがしている。

お酒ではなく、炭酸水だ。

20歳を過ぎてからは実際に会っていない私たちは、目の前でお酒を飲む姿を見たことがない。私は全くお酒が飲めない体質だけど、3人でゆるゆる話す時間が好きだから、いつも炭酸やジュースで飲み会に参加している。

2人にはお酒が飲めないことを言っていない。
深い意味はなく、いつ気付くかなと勝手にソフトドリンクのつまみにしているだけ。

「ほんと顔色変わらないよね」

かわいくほっぺだけが赤くなった彼女がそう言う。

「もちろん」

嘘は言っていない。

A(自分)

定期的な飲み会ではじめてアルコールを抜いてみた。
慣れない仕事のストレスから、食べ過ぎが続いて体が重かった。

途中から私だけテンションが違うと嫌だなと思いながらも、実家から送られてきた梅ジュースを水で割るまでにしておく。炭酸を飲む元気もない。

お酒がなくても、気心が知れた人だけの閉じた空間は楽しいみたい。

今日は3人とも酔いすぎていない気がする。
わっと盛り上がるというよりも穏やかでちょっと気だるい時間が流れる。

トイレに行くために画面から離れたとき、ふと思いついて赤い練りチークを濃い目に入れた。
こんなあざとい人いるなーと苦笑がもれる。

私はお酒を飲むと、いつも頬だけが赤くなる。

机に戻ると、そろそろお開きっぽい雰囲気になっている。これくらいのテンションだと明日に響かないはず。

普段ならお酒が入っているせいで深く気にしないけれど、この子すごい。
絶対に顔色を変えない子。

この子も、その子も、何飲んだら今日みたいになるんだろう。

私もそれ飲んでみたい。


#ほろ酔い文学

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