場所は見つけた
その日、私は京都のまちを歩いていた。
まっすぐな道、古さが匂う家や店舗、茶色の看板。
観光しに来たわけではないのに、京都は歩きたくなる。
用事を済ませ、帰るまでに1時間半の自由な時間ができた。
1時間半は、90分。
のんびり歩いても、どこかカフェや喫茶店で一休みしてもいい時間だ。
あそこに行こう。
私は手のひらサイズで光る地図を開けた。
いつ、どうやって見つけたのか、上京区にあるカフェが気になっていた。
和と洋が重なった京都のカフェは、「喫茶店」か「カフェ」か・・・。
「かふぇ」くらいだろうか。
とにかく、抹茶も珈琲も、和菓子も、ケーキもあります。
今いるところから歩いて23分。
はじめての道、直線の道路がありがたい。
5回、道を曲がった。
しかしここは京都、道に面したところに建物の入口があるとは限らない。
マップは目的地に到着したと教えてくれるが、ここはお酒屋さん。
もう一度マップを見ると、目指すカフェの敷地は道と垂直に長い。
なるほど。
私は大きな道に戻り、一つ先の角を曲がった。
家と家の間に差し込んだように、暖簾がかかった門があった。
その奥をのぞくと、橙の光と茶室のような小さな建物。
あった、と素敵な庭に足を踏み入れかけて、私は腕時計を見た。
あと50分しかない。
少し道に迷ったのと、多分無意識にのんびり歩いてしまった。そして、ここから駅までは30分近くかかる。
20分しか、ここにいられない。
見知らぬ地でふわふわしていた自分に気が付き、深く息を吐き出した。
帰ろう。
門には、営業日や電話番号が書かれたカードが置いてあった。
白と黒だけの、センスのいいそれを一枚いただいていく。
私の財布には一枚のカード。
確かにあるのに、どこか現実味がなくて、今にもふっとなくなりそうだ。
例えば、この文字が消えてしまって、ただの厚紙になってしまうとか。
いつか、京都に行きたいな。
いいね、清水寺とか。
そんな会話をしておいて、私は一人あの場所に向かおうか。
他のカフェじゃだめだ。
目の前まで来たのに入れなかったあの気持ちは、幼いときに感じた何かと
似ている。秘密めいた、また行きたい場所。
行かないうちが、幸せかもしれない。