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輪郭をくれた言葉
高校2年生の夏、7月21日は金曜日だった。
きっと、夏休みの初日だった。
補習と部活を終えた夕方は、暑さを許した穏やかな気持ちになってしまう。
多少は落ち着いた暑さと解放感のせいだ。
学校の駐輪場で、あの子とポツリポツリと話す。
同じクラスで、同じ部活で、同じサックスパートの。
自転車の荷台を掴みながら、あの子は新しい夢を話してくれた。
私も自分のそれを握っていた。
「頑張るから、見ていて。」
私とは正反対で、声が大きくて、可愛くて、輪の中心にいる子だ。
根本的な何かが同じで、私とも気が合うみたい。
2人のときに、こうやって大事な話をしてくれる。
2人で話すほどに、それぞれの個性が際立つような気がしていた。
その日も、話を一通り聞いた後に、
『○○がいい人なの、みんな知らないでしょ』
そんな風に、自慢げに。
気が付いたら、あの子も私の自転車に触れていた。
嬉しかった。
私は、声が小さいことが嫌だった。
明るくて元気な子に「大人しい」「真面目」と言われると、何故か反抗したくなった。
そんなコンプレックスのような気持ちを、全部流してくれた。
いわゆる人気者でないし、暗くて我儘な気持ちがずっと心の中にある私。
だから、あの子と私はぴたっと合うのか。
欲深くて欲のない感情は、変な笑顔になった。
2人とも上がったテンションのまま、じゃあねと別れた。
赤が似合う彼女と、緑が似合うと言われる私。
あの子に、あなたはあなたでいい、私は私でいいと言われた。
このままの私で、輪郭が鮮明になった瞬間だった。
あの子が自分のために言ったことだとしても、それは私にも優しい言葉だ。鉄臭い手のひらが愛おしかった。