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エッセイ

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楽しいもの、大事なものを見つけて言葉にするのが好きなんです。 「分かる!」も「へー」も嬉しいです。「へー・・・」も、是非。
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#大学生

ブーメランのような

あなたのままでいい そんな言葉を口にできる人は、案外少ないのではないかと思う。二十数年ではあるが、これまでの人生で滑らかに「それでいい」と言ってくれた人は、ただ一人。 大学生、または大学院生と教員は、親しくなれば何でも話すようになる。私とその教授―M先生は、割と気が合うので、ゼミの後やちょっとした時間にぽつぽつと思っていることを話すことがある。 こんな会話を覚えている。M先生と私=Yとしておこう。 「この一年はどうだった。五点満点で言えば?」 「四点です」 「結構高評価

6月のとある幸せ

大学で研究をしているときは、休憩がてら敷地内を散歩するのが面白い。この大学は比較的緑が多く、今の季節は紫陽花を始め様々な花が咲いていて、日に日に緑が濃くなっていく。 見ていて飽きないのは、正門の傍にある水路だ。緩やかな曲線を描いた水路は、水が流れる様子や音でいつまでも私を放さない。それに加えて、烏や雀や、嘴が黄色い小さな鳥が、水を飲んだり水浴びをしているのだ。 水浴びなんて、鳥でなくてもいつから目にしていないだろう。その光景は美しくて愛らしい。 そして、また頑張ろうかと、

心地よい違和感

卒論の締め切りが近づきつつあるこの頃、大学で小さくも愉快な出来事があった。 ゼミへの参加率が高いのは、私を含めて3人。寒くなったせいで、最近は先生を含めた4人しか集まらないこともしばしば。 4人が一つの大きな机に座るとなると、こちらに2人、向かいに2人のかたちになる。 ふと顔を上げて、私はマスクの下でこっそりと笑った。なぜなら、向かいの学生も同じように笑っていたから。 その様子に気が付いたもう1人の学生とゼミの先生も、一瞬の間を置いて静かに笑った。 私と、向かいの学生

それだけの変化

変な授業を取ってみた。 前期の後半、夏の間の授業の一つだった。 所属する学部の違う学科のその授業で、取れる単位は二単位。 科目の一覧の下から6番目にあった。見つけてしまった。 本格的に暑くなり、ただでさえ大学に行くのが億劫になるのに、知らない場所に一人で入っていくのはもっと憂鬱。 なんて嘘だった。少しの緊張が、暑さや不安と調和してくれたようだ。 つまりは、新鮮な気持ちで、知り合いがいない知り合い同士の部屋のドアを開けた。 文化財について、歴史、建築、地域、いろいろな面か