【第5話】カツオ
そしてもう一つ
カツオは新鮮なものであれば是非、刺身で食べてみてください 。
私はここに来るまで「カツオのタタキ」しか食べたことが無かったので
ここの旅館で「カツオの刺身」と言うメニューに珍しさを憶えていました。
値段が書いていないことにビビりながら
謎
露天風呂から上がった私は
ようこさんが用意してくれた M サイズのパンツを 履いて
糊の効いた浴衣を着て部屋に戻った
するとしばらくして 女将さんが部屋にやってきて
私にこう告げます
「さっき、ようこちゃんが ここの料金のこと 勝手に お話ししていたけれど
素泊まり だと 5000円でいいのよ そこからお食事をされるなら
下の喫茶店で定食メニューでもよろしいし この部屋の座敷で少し豪華に
お料理お出しすることもできますき。どちらでも。」
(何と無欲な、、、。)
と私は風呂上がりで少し疲れもあるので
座敷でもらうことにした
「女将さん それじゃあせっかくなのでカツオのタタキとビールを、、」
と注文していると後ろから
「今日 美味しい鰹が手に入ったんで
タタキなんかより刺身で食べた方がいいぜよ!」
と、肩越し左耳に語りかけてきた。
ようこさんだった。
語りかけてきた その吐息は
何やら 甘い アルコールの匂いとほのかに煙草の匂いがした。
「じゃあ カツオの刺身をください」
と半ば無理やりであったが、
初めてのカツオの刺し身に期待するのでした。
「それでは、お客様 少々お待ちください」
と言って女将と一緒に階段を
バタバタと降りていくのです。
私は先にビールに手を付けながら、
ようこさんがこの店に入ってきた時
「おじさん!、おばさん!」
と言っていた言葉が少々気になっていた。
親戚なのか?
それから 弟さんと言っていた男性
なぜだか一言も会話をしていない
そして船から降ろした発泡スチロールの箱を
厨房の中に持って行ったところを見ると
獲れたての魚をここに卸しているということか、、、?
繊細
気がつけば 夜も更けて昼間の炎天下の
すったもんだ からの解放から
この馬鹿野郎は旅館の腰掛けられる小窓から
商店街をぼんやり眺めていました。
しばらくすると
女将がカツオの刺身を持って テーブルの上に置く。
(うわぁ お見事 !!)
赤身の、、、。
今生きていたであろうという赤身!
これは間違いなく美味しい奴だ!
ただ少し様子がおかしい
おいしそうである赤身のカツオの刺身なのであるが
その身の真ん中に何やら 挟まっているものがあった
私はとっさに女将に
「これは何ですか ?」
と挟まっているものを指して聞いた
続けて女将は
「まあ 食べてごらんなさいな たまり醤油にちょいとつけてどうぞ」
と言うので女将が言う通りにして 食べてみた。
「こ、これはうまい!! 単純に これはうまい!!」
である、形容しがたい 旨味。
挟まっているものが何か気になった。
女将は
「美味しいでしょう」
とドヤ顔
「ようこちゃんが 捌いて お造り作ったのよ」
「え?」
と耳を疑った。
味も確かだがお造りの盛り付けのセンスがまた素晴らしかった
胡瓜の飾り切りに薬味が乗ってミョウガや大根のツマ
(カツオに挟まっているのはにんにくのスライス)
こう言うと失礼極まりないが、
とても人柄がそのまま出ているとは思えなかったからだ。
繊細の一言だ。
何気に カツオの包丁で切った面がその切れ味に応じて
ピカピカに 映えているのだ。
あまりの見事さに手をつけるのがもったいないくらいだ。
私は女将についつい日本酒をお願いした。
するとしばらくして階段を上がってくる音がする
現れたのは ようこさんだった
私はその姿を見て
「ドキッ!!」とした。
防波堤で出会った時の姿と180度変わっていたからだ。
その出で立ちは花柄の割烹着 だった
防波堤で私に差し出してくれた
花柄のタオルのデザインとリンクしているが
私の勝手なイメージが崩壊してしまうほどに
割烹着がようこさんに似合っていた。
ようこさんは私の左側に付き
「 はいどうぞ 」
と盃を私に渡し、お酌してくれた。
私は礼儀として酒を頂く前に
相手の目を見て軽く会釈するのだが
よく見ると笑顔になると左の頬に
エクボの出る日焼けした可愛い女性だ。
くいと盃を傾けて飲み干す。
続けて お酌をしてくれるかと思いきや
洋子さんのエクボが消えた。
「あんた、土佐のルール知らんがか?」
「ん?土佐のルール?」
「都会のサラリーマンはこれだからいかんきぃ!」
さらに 「ん?」
「ご、へ、ん、ぱ、い!」
「ゴ、ヘ、ン、パ、イ?」
「ご返杯もしらんがか?兄さん高知で営業なんて向かんきぃ!(笑)」
目が点になった
【第6話】崩れゆく精神
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?