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夕食をともにする
朝早くから ルリナ がうちにやって来た。
ルリナとのお勉強の日である。
ルリナのおかげで、土日でも私は仕事がある平日と同じように早朝から起きる習慣がついた。
かつては金曜の夜といえば、たいていは明け方まで深酒してしまって、土曜の午前中はベッドから起きれない…という日々もあったが、今は以前よりも規則正しい生活になった気がする。
じつは ルリナがうちに来るのに先立って、前もって母親のマナミと相談しておいたことがあった。
土曜日の夕食について、私はマナミにこんな提案をしたのである。
ルリナには私の家で勉強するついでに、そのまま私の家で夕食をとってもらうのはどうだろう。
ルリナは日頃から1人で夕食をとっているという。
それは母親のマナミが働いているから仕方ないことだし、マナミがいつもきちんと冷蔵庫にお惣菜やお弁当を置いてくれているそうだから、そこに何か問題があると言いたいわけではない。
また、マナミとルリナの親子のルールについて、私がとやかく口出しをしたいわけでもない。
ただ、もしよければ、ルリナが私の家に来るときぐらいは、そのまま私の家でルリナに夕食をとらせるのもいいんじゃないかと思う。
マナミにとっても負担は減るし、他人のことが大嫌いなルリナだって気心が知れた私との食事なら嫌ではないと思う。
この私の提案に対して、マナミがどんな反応をするかは未知数だった。
もしかすると、マナミは私の提案を嫌がるんじゃないかとも考えていた。
なぜなら、マナミとルリナに対して最近の私は少しおせっかいすぎるのかもしれない…と、自分でも自覚していた面もあるからである。
ところが、マナミは意外なほどあっさり承諾してきた。
「ご迷惑でなければ、それでお願いします!」
「ご迷惑でなければ」って、私にとっては迷惑なはずがない。
むしろ、ルリナとの夕食を認めてくれてありがたいと思うくらいだ。
よし、決まりだ。
こうして、週末にはルリナと私は夕食をともにすることになった。
今日の勉強が終わり、いつものようにその後もルリナは私の家でのんびり遊んだりしていて、あっという間に外は暗くなっていた。
ルリナと一緒にいると、時間が倍速で過ぎていくような気がする。
「さてと、俺はちょっと夕食の準備をしてくるね…」
エレクトーンで遊んでいたルリナにそう言うと、ルリナは大きく頷いて、にんまりと私に満面の笑みを向けてきた。
そこまで期待されてしまうと、逆にちょっとプレッシャーになる。
これで私がカップ麺とか用意していたら、ずっこけられるんだろう。
大丈夫だ。レシピはちゃんと考えてあるのだ。
下ごしらえしてあったグラタンを、オーブンで一気に焼く。
その間に同時進行で、薄切りのスモークサーモンと様々な緑黄色野菜を刻んだサラダを混ぜ合わせて、そこにオリーブオイルとゴマドレッシングを垂らして仕上げれば、カルパッチョ風 彩りサラダの出来上がりである。
それから、五穀米も炊いておいた。
この歯ごたえがある五穀米にグラタンを自分でちょっとずつ乗せながら食べると、これまた和風ドリアみたいな感じになって なかなかうまい。
あいかわらずのスピード料理だが、ルリナには好評だった。
どうやら ルリナの味覚は、わりと私と似ているらしい。
「いつも先生は こんなおしゃれな料理つくってるの?」
ルリナがそんな質問をしてきた。
「いや、違うよ。誰かが来たときだけ頑張る…」
私が正直にそう答えてやると、ルリナはケラケラ笑っていた。
もともと私自身は料理が好きなんだと思う。
けれども、日頃の私は冷蔵庫の残りものを適当にフライパンの上で混ぜ合わせて炒めるぐらいの料理しかしない。
名前も無いようなテキトーな食いものばかりだ。
誰かのためならレシピもいろいろ考えるのかもしれないが、自分のための料理には時間と労力をかけなくなる。
男のひとり暮らしなんて、そういうものだ。
もし、私が誰かと一緒に生きていたら、こんな私でも料理に対する情熱や姿勢が少しは違っていたんだろうか。
おいしそうに食べてくれるルリナを眺めながら、そんなことを考えていた。
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