一九四〇年 花蓮港 - 福住遊郭とパインアップルソーダ
花蓮港は清国人が名付けた支那らしい名前の町だが、町に蓮はなく、支那らしさもなく、ただ高砂族に威を示すせいか駅や役所や寺社仏閣やらは軒並みに立派であった。花蓮港に住んでいるのはケタ糞の悪い軍人と御用商人の眷属ばかりで、ほとんどの日本人は吉野という郊外部落に住んでいると云う。またこの辺はあちこちに屏東や台東とは違う種類の高砂族がいるが、花蓮のアミ人はとりわけ素朴な美女が多く、台北や基隆から直通列車を通せばアレ目的に大きく栄えると思う。名物のアンコイモを二個食べる。花蓮港は天気悪く、これはといった名所旧迹もなかったので総じて無聊で、折角なので福住遊郭を冷やかしてみたが人三化七の故に遊ばず、帰りの喫茶店でパインアップルソーダをひと息に飲んでトキワホテル泊。明日は朝早くから大タロコ。バスに乗り遅れるなと自分に言い聞かせるも、乗りたくもなし。