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モータースポーツの舞台裏その1:「言葉を創る」、しゃべりのお仕事

モータースポーツの現場でまず脚光を浴びるのはもちろんレーサー。「モタスポ!Park」が毎回出かけているSUPER GTでは、500馬力を超えるマシンを自在に操り、数時間にわたって接触すれすれのバトルを展開しています。それを支えるメカニックやエンジニアにも注目が集まります。

でも、モータースポーツは本当にたくさんのプロフェッショナル達によって支えられています。ということで、サーキットで頑張る縁の下の力持ちのみなさんを、少し詳しくご紹介していきたいと思います。

一回目は、「しゃべり」のお仕事。サーキットでは、コース上を走るマシンを観るだけでなく、色んな楽しみ方があります。その中でも人気なのが、子供向けの抽選会が行われたり、レースクイーンやドライバーが登場したりするステージイベント。

それをスムーズに、かつ、楽しく進行するカギを握っているのがイベントMCのみなさんです。そこで、ラジオDJから企業イベントの司会や展示会などでの製品プレゼンテーションまで、モータースポーツの現場だけでなく、幅広く「しゃべり」の現場で活躍している渡辺順子さんにお話を聞きました。

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-- 早速ですが、「しゃべり」のお仕事というと司会者やTVのアナウンサーなどが思い浮かぶのですが、渡辺さんは具体的にどんなお仕事をされているのですか?

渡辺順子さん(JW):一番多いのは、いわゆるイベントMC(司会進行)と呼ばれるお仕事です。永年勤続や成績優秀者など企業内の表彰式、自動車販売店でのお客さま向けトークショーといった場で司会進行のお仕事をさせていただいています。また、幕張メッセや東京ビッグサイトなどで行われる展示会では、原稿に基づいた商品説明に加え、開発者の方とのトークショーでお話しを聞き出すような機会も増えています。

-- 今の仕事を始めるきっかけを教えて下さい?

JW:きっかけは、2012年に富士スピードウェイのイメージガール「クレインズ」でした。それ以前は、この業界のことは全く知りませんでした。5歳の時に「洋服のデザイナーになる!」って決めて、学校を卒業した後はアパレル会社に就職して服飾一筋だったんです。だから、他のお仕事は考えたこともありませんでした。

でも実際にファッションデザイナーとして働いて現実を見るうちに、色々と思うトコロが出てきて…。そんな時、友人の紹介でイベントのお仕事をやってみたら、接客など人とのコミュニケーションに面白さを感じたんです。そこから展示会などのコンパニオンやモデルをする様になったんですが、そうした現場で出会ったのがナレーターさんたちでした。1つの商品を、自分の声で、言葉で伝えてお客さんをひきつける。その中に、それぞれに「技」のようなモノが感じられ、その職人気質に憧れて「素敵だな」と思うようになりました。

「クレインズ」はレースクイーンではなくサーキットクイーンという位置づけなので、富士スピードウェイをみなさんに紹介するのがお仕事なんです。単に渡された原稿を読むのではなく、自分で言葉を組み立ててしゃべることが求められます。ちょうど憧れていたお仕事に近いと思い、オーディションに参加したんです。実は、レースが好きとか、レースクイーンになりたい、っていうきっかけじゃなかったんです。

-- 「しゃべり」の仕事の第一歩ですね。クレインズは何年やったんですか?

JW:1年だけです。その後は、SUPER GTでレースクイーンを3年やらせて頂きました。クレインズ継続のお話しは頂いていたんです。でも、モータースポーツを深く知らないでレースを語っている状況に納得できなくなっていました。だから、「モータースポーツをもっと理解したい!」と思い、レースクイーンのオーディションを受けまくりました。「ENEOS GIRLS」の一人としてサーキットに立てたことは感謝しかないです。

1年目は与えられた原稿をそのまま読むだけでしたが、2年目以降は試合の流れやその日のチーム状況に応じて現場で調整。最終的にはフリートークになりました。台本も、「(予選結果やその日の状況を見て)好きなように30秒コメント」とだけ書いてありました…。

簡単ではありませんでしたが、言葉を「創って」伝えるという、すごくやりがいのあるお仕事をさせていただきました。また、サーキット以外でも、チームが関係しているクルマのイベントでトークをしたり、プロの司会者の仕事を間近で見られたり、とても貴重な経験をさせていただきました。

-- 今のお仕事の難しさは何ですか?

JW:このお仕事は、クライアントさんと現場をつなぐ架け橋だと思っています。だから、まずクライアントさんが何を伝えようとしているのかを正確に読み解く力がすごく重要です。それから、そのメッセージが、どうしたらお客さんの記憶に強く残るか。現場それぞれに違う「空気感」を踏まえ、みなさんに興味を持って頂けるよう、常に考えながら仕事をしています。でもまだ、満足したことは一度もありません。そこが難しいと思っています。

-- 一方で、楽しさや、やりがいを感じるのはどんな時ですか?

JW:喜ぶ顔や笑顔が見られる事です!それが、仕事を続ける糧なんだって思います。例えば、サーキットイベントではファンのみなさんが楽しんでくれている様子を直接見ることができます。また、ツイッターで「面白かったよ!」といったコメントを頂けると、やって良かったなーと思います。

SUPER GTのファン向けサイト、「SUPER GT SQUARE」では、ウェブ会員向けにトークショーの動画を配信しています。先月、鈴鹿サーキットで私がMCを務めたトークショーでは、「100リツイートを越えたら特別にYouTubeでも一般公開」という企画があったんですが、すぐに360RTまでいったんです。「もっと見たい」といった反響を頂けると本当に嬉しいです。

-- 「私だからこんな話を引き出せた」、というトークショーをめざしているんですね?

JW:それができたらいいですね!でも、まだ私だからできる仕事が明確に見えていません。「これだったら渡辺さん」、と言われる分野を見つけたいです。

-- ファッションデザイナー時代の経験も、今の仕事に役立っている部分はありますか?

JW:社会人としての経験を積めたのは、大きな財産だと思います。人とかかわりながら仕事をする上で必要なコミュニケーションの大切さやコツは、本当に役に立っています。あとは、チャレンジすることの意義ですね。とにかく「やってみる」ことが、自信につながるのを勉強できました。例えば、デザイン画を1日50枚以上書いたり、慣れない販売の現場に行けと言われたりしたこともありましたが、そのおかげで対応力もついたと思います。

あ、あと、いきなり3種類の衣装を見せられて、「それをプレゼンしなさい」、という様な場面もありました。初めて見る衣装を、自分の作品としてその場でプレゼンするという経験も、その場その場での対応が求められるラジオやトークショーの仕事には役立っていると思います。

-- サーキットでのお仕事も多いと思いますが、モータースポーツの魅力は何ですか?

JW:一言で言うと、部活みたいだなって思ったんです。ドライバーさんがいて、監督がいて、メカニックさんもいて。で、一つのマシンを走らせる事に対しての情熱がすごく詰まっていて。それから、数時間のレースの中に本当にたくさんのドラマがある。それから、応援に全国からサーキットにやってくるファンのみなさん。そうした様々な人たちの情熱に触れて、たくさん感動させてもらいました。だから、そんなモータースポーツの魅力を、多くの人に知って頂ける様、がんばろうと思っています。

-- 今は、モータースポーツの現場で「言葉を創る」職人の仕事ができて理想的な環境なのですね。最後に、渡辺さんの様なキャリアをめざしている後輩たちへ、アドバイスをお願いします

JW:まず、常に好奇心を持つことが大切だと思います。色んな情報が入ってくる現代。ネガティブな面も見えてしまうことがありますが、常に楽しい気持ちで見て欲しいと思います。

それから、「ちょっと無理かも…」と思う様なことも、チャレンジできる環境があるならば勇気をもって飛び込んでください。私も、キャンペーンガールのお仕事を紹介された時に飛び込んでいなかったら今の仕事は無いと思います。(就職して)大人になってから、新しい夢を持てるなんて思っていなかったんです。チャンスはどこにでもあります。それに恵まれた時、臆病になってやらないのはもったいないですよ。あきらめずに頑張りましょう!

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夢は、いつまでもサーキットにいたいという渡辺さん。子どもを産んでも、おばあちゃんになっても、その時その時に適したやり方を見つけて、モータースポーツの魅力を一人でも多くの人に伝えていきたいとのことでした。水曜日の午後8時から9時に「レインボータウンFM 88.5MHz」で放送されている「KIBA BREEZE!!!」のパーソナリティーを隔週で務めている渡辺順子さん。

取材におじゃました日の番組でも、曲の合間のトークではモータースポーツの話題に溢れていました。渡辺さんが「よぼよぼ」になるまで伝え続けたいと言うモータースポーツの魅力。「モタスポ!Park」も、もっと頑張ってお伝えしていきます。

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