見出し画像

結局マグニチュードってなんなのさ?【定義・エネルギー編】

地震でよく「地震の規模を示すマグニチュードは……」という言葉を聞きますが、これは、一つの地震によって発生した地震のエネルギーを数値化したものです。一般的にM3.5やMw7.1、Mj7.9などと表記されます。

一般的に日本ではエネルギーを表す単位としてはWh(ワット時)やJ(ジュール)、cal(カロリー)等を使いますが、マグニチュードはこれらの値とは全く違う性質を持っています。そのため、普通の数字を扱う感覚で考えていると、全く理解できないことも出てきます。

今日はこれらについて細かく見ていきましょう。

※このエントリーはできるだけ中学卒業レベルの理科や数学が理解できている人に対してわかりやすく書こうと心がけていますが、途中の仕事量や仕事率の話は高校物理の範囲なうえ、終盤マグニチュードの算出式上で少し対数を扱う関係上、高校数学の知識も用います。できるだけわかりやすく解説していくつもりですが、数値の定義上やむを得ないことですので、ご了承願います。
※なお質問は受け付けますが、上記の前提で書いていきますので、上記前提部分が理解できていないと思われる質問は残念ですがお答えいたしかねますので、併せてご理解いただければと思います。
※また、時折注釈はつけていきますが、上記前提によりかなり原則論寄り、理論寄り、教科書寄りのざっくり説明になるので、細かい話をしだすと齟齬が出る部分が多々あると思われます。ご容赦ください。

ワット・ワット時・ジュールについて簡単におさらい

マグニチュードがどういう値なのかを説明するためには、まず、ワット、ワット時とジュールとはいったいどんな値なのか、理解しておくことが重要です。
ちなみに、カロリーはジュールと「同次元」の値……簡単に言うと、例えば長さであればm(メートル)とyd(ヤード)、里(り)のように同じものを別の単位で(言い方を変えるとものを測る物差しを変えて) 表しているわけですが、ここで取り上げるとややこしいので、さらっと触れるだけにとどめます。

W(ワット)とは?(電力編)

W(ワット) は「エネルギー」あるいは「仕事率」の単位です。また、「電力」の単位でもあります。
まず、電力のW(ワット) は電流と電圧の積で表すことができます。

$$
Q(電力)[W]=E(電圧)[V] \times I(電流)[A]
$$

このように、例えば1Vの電圧がかかった回路に1Aの電流が流れた場合、1Wの電力となります。今の話は中学校理科の範囲ですので、なんとか頑張ってついてきてください。

さて、1Vの電圧の電圧がかかった回路に1Aの電流が流れた場合、回路に1Ωの抵抗があることになります。これも中学生で習ったオームの法則で導き出せますね。(ここではオームの法則の暗記法の鉄板であるERIを使いましょう)

$$
E[V]=R(抵抗)[Ω] \times I[A]\\
\frac{E[V]}{I[A]}=R[Ω]\\
R[Ω]=\frac{E[V]}{I[A]}\\
条件よりE=1,I=1を代入\\
R[Ω]=\frac{1}{1}\\
よって、\\
R[Ω]=1
$$

ちょっと丁寧に求めすぎた気もしますが、この式に当てはめてみると回路中の抵抗が1[Ω]であることがわかりました。

1[V]の電圧がかかった抵抗が全くない回路(※1)に1[Ω]の抵抗が取り付けられたとします。すると、この回路には1[A]の電流が流れることになります。
ここで、1[Ω]の抵抗は何らかのエネルギーを発します。ここでは仮にすべて熱として放出したと仮定(※2) しましょう。
この時この抵抗から放出する熱エネルギーを電力と同じく、やはり1[W]と定義します。この熱エネルギーは電圧、電流、抵抗が何らかの原因で変化しない限り変わらないので、電流が流れる時間が2倍、3倍になると、当然、エネルギーも2倍、3倍になります。

エネルギーは言い換えると「仕事量」になるのですが、ちょっとこのまま説明するとややこしくなりそうなので次に「仕事量」や「仕事率」について軽く解説をしてみたいと思います。

※1:実際は回路に使われる導線にも抵抗は存在するうえに、抵抗との接続点をどのように上手につなげてもそこで抵抗は発生しますので、超電導でも用いなければ普通はこんなに単純な話にはなりません。回路全体で1[Ω]の抵抗とすることはできますが、話の単純化のためにこのような表現をあえてしていることをお許しください。(本当に細かい話ですが)
※2:これも細かい話をすれば、一般的には熱だけではなく、光など様々なエネルギーとして放出されるわけで、そのトータルエネルギーが、という話になります。これも話の単純化としての表現なのでお許しいただければと思います。

仕事率とは?仕事量とは?

先ほど申し上げた通り、ここで少し仕事量と仕事率の話をしてみます。
例えば、文化祭の準備でA君は1時間に重さも大きさも同じ段ボール3個をB準備室からC実験棟に運んでいます。彼が同じペースで段ボールを運び続けると、3時間後には何個の段ボールがB準備室からC実験棟に運ばれるでしょう。

……答えは9個になりますね。
この、結果「9個運びました」、というのは「仕事量」になります。それを求めるために使った1時間当たりの段ボールを運べる個数、ここでは「1時間に3個」を「仕事率」といいます。
これをちょっと数式にしてみましょう。

$$
P(仕事量)[個]=W(仕事率)[個/時間]\times T[時間] \\
9[個]=3[個/時間] \times 3[時間]
$$

この例では少し一般的な話にしましたが、「仕事率」をもうちょっと広く使えそうな(普遍的な) 言葉に落とし込むと「単位時間あたりにこなすことのできる仕事量」ということになります。
仕事量というのはこの場合、一定の(※3) 仕事率の元で、ある時間仕事(※4) が行われた結果、つまり「仕事の成果」とすることもできますが、物理学用語としては、その際に用いた、あるいは発生させたエネルギーのことも指します。
例えば、時速5kmで歩くことができるD君が4時間かけて歩いた距離20kmも仕事量になりますし、その時に消費したエネルギー(カロリー)も仕事量になります。もう一つ例を挙げると、1分間に1Lの水を10度温めることのできるヒーターをつかって4分間に1Lの水を40度温めた場合は、この40度というのも仕事量ですし、その時に使ったエネルギー(40kcal) も仕事量ということができます。

今後は仕事量という言葉は物理学用語として、エネルギーに対して用いていきます。

※3:もちろん一定ではない仕事率もありますが……。そういった例はここでは使わないうえに、変に話がややこしくなるのでここではあくまでも仕事量が時間に比例するような、仕事率が一定である場合の話のみにとどめておきます。
※4:物理学においては仕事というのはもっと厳密的な定義を持つものですし、例示した中でも具体的に落とし込めば定義にそぐわないものもありますが……それを細かく話し出すときりがないので、ここでは「エネルギーを定義するための物理量」 を分かりやすく表現するための比喩表現的なものととらえてください。また、それを踏まえたうえでさらに熱力学的な表現も加えた全体としてふんわりした表現になってます。

W(ワット)とは?(仕事率編)

さて、高校物理の範囲である仕事量について解説していきましたが、これでようやくWh(ワットアワー)やJ(ジュール)についての話をするための準備が整いました。

そのまえに、まずは仕事率としてのW(ワット)について解説していきます。
先ほどの例では1[W]の電力を消費して発する(熱)エネルギーは1[W]である、としました。これは電力というエネルギー(電力もまたエネルギーなのです)を消費することと、それを使って熱エネルギーを発生させることは等価(例えるのであれば、『鋼の錬金術師』で言う等価交換ですね) であるからです。つまり、言い換えると1[W]の電力というエネルギーを使って1[W]の別の(先ほどの例だと熱の) エネルギーを生み出した、ということになるのです(※4)。使ったものとそれによって生み出されたものを単に「エネルギー」としてだけ見て、同じ単位で表している、ということになります。(電気と熱の違いはありますが)

さて、1[W]のエネルギーという言葉が出ましたが、これは先ほどの「仕事率」を表す言葉なのか、「仕事量」を表す言葉なのか。
結論から言うと、これはこのセクションの冒頭で述べたように「仕事率」を表す言葉になります。つまり、単位時間に生み出すエネルギー(仕事量) を表しているということですね。

この時、流れる電流を2倍にすれば電力というエネルギーは2倍になりますし、この回路にかかっている電圧が半分になれば電力というエネルギーも半分になり、その結果発する熱エネルギーも変わってきます。
つまり、この熱エネルギーで何かを暖めようとしているとき、その熱エネルギーは電力で変わり、熱エネルギーの量が変わってくると、当然同じ時間温めても温まり方(効率) が変わってきます。

つまり、このW(ワット)は、結果的に仕事の効率を表している数字になるので、「仕事率」の単位ということになります。

※5:やはり細かい話になってしまって申し訳ないですが、あくまでも教科書理科(物理)の範囲で話をしていくスタンスですので、エネルギーロスとかそういったものは無視して考えていただけますと助かります。次のWh(ワット時) の解説でも同様です。

Wh(ワット時)とは?

Wh(ワット時)は組み合わせ単位です。カッコ書きで気が付いた方もいるかもしれませんが、求め方はこうなります。

$$
P[Wh]=Q[W] \times T[h(時間)]
$$

ここまで真面目に読んできた方ならピンときたかもしれませんが、この式、先ほど出てきた「仕事量」の計算式と同じではありませんか?
まさしくその通りで、P[Wh]は仕事率Q[W]の仕事をT[h]おこなった時の仕事量であり、電力Q[W]をT[h]消費した時の電力量であり、その電力量を使って発したエネルギーのトータル量ということになります(※6)。

先ほど挙げた例をもう一度引っ張り出してみると、電力が2倍になったり半分になったりしても、同じ時間だけ電圧をかけ続ければ結果生まれる仕事量は2倍になったり、半分になったりします。
逆に電力を2倍にしても時間を半分に、電力を半分にしても時間を2倍かければ、仕事量は変わらないのです。

とりあえず、Wh(ワット時) に関してはこんなものです。次のJ(ジュール) も似たような値になりますが、マグニチュードの計算式に出てくる単位であることもあり、やや大切な説明になります。

※6:無効電力とか考えだすとややこしいので、ここでは直流電源と純粋な抵抗成分だけでとらえてください。

J(ジュール)とは?

このJ(ジュール)については、もう定義から説明しようと思います。ここまで読んでいただけた方にとってはその方が早いでしょう。

1 秒間に 1 ジュールの仕事が行われるときの仕事率が 1 ワット (W) であり、ワット W はジュール J と秒 s から定義される

Wikipedia - ジュールより引用

これを式で表すとこうなります。

$$
P[J]=Q[W] \times T[s(秒)]
$$

……やはり、似たような式を先ほど見かけましたよね?
式自体の再掲はしませんが、Wh(ワット時) は仕事率(電力)と時間の掛け算でした。このJ(ジュール) も同じく仕事率と時間の掛け算です。

つまり、Wh(ワット時) とJ(ジュール) は同じような仕事量の単位なのです。
何が違うか、となりますとWh(ワット時) は1時間単位の仕事量を表すのに対し、J(ジュール) は1秒単位の仕事量を表していることになります。このことから、J(ジュール) はW・s(ワット秒) とも言います。J(ジュール) の方が一般的ですし、簡潔ですので、ここではJ(ジュール) を引き続き使っていこうと思います。

ここからはやや蛇足になりますが、最後にWh(ワット時)とJ(ジュール)の換算式を求めて次に参りましょう。だいぶ遠回しな求め方をしていますが、1時間は3600秒なので1[Wh]は3600[J(W・s)]であることが理解できれば大丈夫です。

次にカロリーについても少し説明しますが、これはマグニチュードの換算式とは関係のない話になりますので、興味のない方は左のメニューから飛ばして「マグニチュードの定義」に進んでください。

$$
ここで,T \tiny h \normalsize[h] と,T \tiny s \normalsize[s] は同じ時間Tを,\\
P \tiny h \normalsize [Wh]とP \tiny s \normalsize [W \cdot s],P \tiny j \normalsize[J]は互いに同じ仕事量Pを \\
それぞれの単位で記述したものとする.\\
P \tiny h \normalsize [Wh]=Q[W]\times T\tiny h \normalsize [h] …(1) \\
P \tiny s \normalsize [W \cdot s]=Q[W]\times T\tiny s \normalsize [s] …(2) \\
定義より1時間は3600秒であるため,\\
T\tiny h \normalsize[h] \times 3600[s]=T\tiny s \normalsize [s] \\
これを(2)式に代入し,\\
P \tiny s \normalsize [W \cdot s]=Q[W]\times T\tiny h \normalsize [h]\times 3600[s]\\
(1)式より\\
P \tiny s \normalsize [W \cdot s]=P \tiny h \normalsize [Wh]\times 3600[s]\\
また、ジュールとワット秒は同値であるため,\\
P \tiny j \normalsize[J]=P \tiny s \normalsize[W\cdot s]\\
よって\\
P \tiny j \normalsize[J]=P \tiny h \normalsize [Wh]\times 3600[s]\\
$$

cal(カロリー)とは?

cal(カロリー) とは一般的に「熱量」の単位とされます。日本では特に食品の持つ熱量エネルギーを表示するために主にkcal(キロカロリー) の形で使われることが多いですが、海外では一般的ではない単位(※7) です。

熱量というのは熱エネルギーの事で、これも結論から言えばJ(ジュール) と同じエネルギー、仕事量の単位になります。
定義は1gの水を1度上げるために必要なエネルギーを1calとしており、水の温度収支を計算するためには非常に便利な単位です。
ただ、水は同じ量(重さ)でも、温度により体積が変わる……というのはご存じかと思われます。例えば、パンパンに水を入れたペットボトルを凍らせると膨らんでしまって、場合によっては破裂してしまいますよね?
そういった、言い換えると温度によって密度が変わる性質のため、実際は1gの水を1度上げるために必要なエネルギーは少しずつですが変わっていきます。

そのため、計算を簡単にするために「熱力学カロリー」というものが採用されており、1cal(カロリー) は4.184J(ジュール) と計算上では定義が固定されています。

ちなみに、cal(カロリー) とつながりが深い単位としてTNT換算グラムがあります。これは、TNTが爆発するときに発するエネルギーを表現したもので、1kcal(キロカロリー) が1TNT換算グラムになります。
実際、TNTが爆発するときに発生するエネルギーは幅があるのですが、おおむねTNT1g(グラム)が爆発するときのエネルギーが1000cal(カロリー)=1kcal(キロカロリー) であるため、そのように表現されています。
通常TNT換算グラムとしては使用しないのですが、さらに大きな単位としてTNT換算キログラム、TNT換算トンなどがあり、それぞれTNT1㎏、1tが爆発するときのエネルギーに相当します。

これは非常に大きいエネルギーを表すのに便利で、マグニチュードとエネルギーの換算でもよく出てくる単位なので、覚えておいて損ではないでしょう。

※7:国際単位系(SI) で定められていない単位(非SI単位)。国際的にエネルギー、仕事、熱量の単位はJ(ジュール)で統一するよう定められており、あくまでも計量法で日本国内における食品の熱量表示などに限って使用を許可されています。
ちなみに海外製品に用いる場合はJ(ジュール) に換算した値を併記することが求められています。
こっからきわめて個人的な愚痴になるのですが、やっぱヤードポンド法っt

マグニチュードの定義

さて、いよいよ本題に入っていきます。これから、対数や指数関数といった高校数学の内容が出てきますが、中学生でも理解できるよう、必要なことだけを簡潔に説明し、かつ、わかりやすい表現にできる限り置き換えて説明していくつもりなので、高校数学はちょっと……という方でも読んでいっていただければ幸いです。

マグニチュードの定義式

さて、いきなりですがマグニチュードの定義式を出していきます。まずは深く考えずに、「こんなものなんだー」くらいに軽く流しておいてください。
Eがエネルギー量(単位はジュール)、Mがマグニチュードです。

$$
\log_{10}{E}=4.8+1.5 \times M
$$

……まぁ、高校数学の数Ⅱを履修していない人にとっては意味わかりませんよね(※8)。とりあえず、ここに出てくるlogというものについてまずは説明していきます。理解されている方はさらに次のセクションに行っていただいて結構です。

※8:普通は掛け算の記号は省略しますが、ここではわかりやすくするためにあえて残しています。非常に今更ですが。ちなみに、対数は今の学習指導要領だと数Ⅱに含まれるようですが、時代によって変わっているかもしれません。なお、筆者は高校のカリキュラムを理解していないのでこの辺とてもあいまいです。

logってなんぞや

logとは……簡単に言うと足し算における+とか、累乗を表すときに$${2^5}$$と底となる数字の右上に小さく乗数を書いたりするような、言ってしまえば数式を表す演算記号のようなものだと思ってもらえれば大丈夫です。
さて、logを中学数学のレベルでも理解できるようにどう説明したらいいのか、という話になってくるわけですが、皆さんは小学校で割り算を学ぶときに次のような掛け算と割り算の関係を目にしたのではないでしょうか?

$$
7 \times \Box = 56\\
56 \div 7 = \Box
$$

この場合、□の中に入る数は8になりますね。割り算を理解するためにこのような虫食い算が使われていますが、これをもっと広く一般的に表現するために、文字式を使って表現してみましょう。

$$
a \times b = c\\
c \div a = b
$$

これで掛け算と割り算の関係を文字式を使って表現できたことになります。
同じように文字式を使って、中学までに習ってきた内容でlogを表現するとこうなります。

$$
a^b=c\\
\log_{a}{c}=b
$$

ここではlogというものを文字と考えず、×や÷と同じ、ただの記号と考えましょう。
この式を簡単な表現で言うと、「aをcにするためには何乗すればいいの?」「bでしょ!」という計算をしていることになります。具体的に見ていきます。(※9)

$$
2^4=16\\
\log_{2}{16}=4\\
10^3=1000\\
\log_{10}{1000}=3\\
$$

ここまでわかれば、先ほどのマグニチュードの定義式も乗数を使った式に置き換えられそうです。

※9:10を底とする対数(常用対数) は文献によって10を省略し、log xのように表記することもありますが、ここでは常に底を省略せずに示します。説明を分かりやすくするためですが、自然対数をよく使う分野にいたこともあり、自分でも混乱してしまうためでもあります。

ジュールとマグニチュードの関係

さて、もう一度マグニチュードの定義式を出してみましょう。
再掲しますが、Eはエネルギー(単位はジュール)、Mはマグニチュードです。

$$
\log_{10}{E}=4.8+1.5 \times M
$$

ここで、先ほどの換算式

$$
a^b=c …(3)\\
\log_{a}{c}=b …(4)
$$

を当てはめて、logを使わない指数の式に置き換えてみます。
まずマグニチュードの定義式を(4)の式のa,b,cに当てはめてみましょう。

$$
a=10\\
b=E\\
c=4.8+1.5 \times M
$$

となります。これを(3)の式に代入するとこうなります。

$$
10^{4.8+1.5 \times M}=E
$$

指数に式があるため、ちょっとわかりにくいと思いますので、ここでは仮に$${4.8+1.5 \times M=m}$$と置いてこうしておきましょう。

$$
10^m=E
$$

なんだかすごいすっきりしましたね。これでもマグニチュードの本質がぶれることはないので、今後はできる限りこの式を使って説明し、必要な時にmからM(マグニチュード)を求めていきます。
まずはわかりやすい例で、エネルギーが1,000,000[J](100[MJ]) の時のマグニチュードを求めてみましょう。エネルギーはE[J] なので、Eに1,000,000を代入します。

$$
10^m=1000000
$$

つまり、10を何乗したら1,000,000になるのかを求めればよいので、$${m=6}$$になります。これを先ほどの$${4.8+1.5 \times M=m}$$に代入してあげればいいのです。

$$
4.8+1.5 \times M=6\\
1.5 \times M=6-4.8\\
1.5 \times M=1.2\\
M=1.2 \div 1.5
M=4 \div 5=0.8
$$

となり、マグニチュードは0.8になることがわかります。
さて、ここから先をお話しする前に、数学的な話からいったん離れて、マグニチュード、すなわち地震の規模とはいったい何なのかについてお話ししていきます。

マグニチュードとは

ここまできて、ふりだしに戻ったかのような小見出しですが、今まで説明してきたのはマグニチュードという値(数字) の定義であり、今から説明するのはマグニチュードで表される「地震の規模」とは何なのかという説明になります。
今後このようなコラムを書いていく際に重要になりそうなこともいくつか入ってくると思うので、さらっとでも目を通しておいて、必要となったら見返しておいてください。

地震そのものの説明をしだすとこのコラムと多分同じくらいの分量の文字をまた読んでいただかなければならなくなるので、古典的な定義ではありますがここでは単に「大地の揺れ」という感じでとらえてください。
地震が起こる原因も色々ありますが、ここではその原因も考えずに「あるところでエネルギーが発生して、それが揺れとして伝わっている」ということだけ考えておけば大丈夫です。

簡単に言うと、マグニチュードとは、地震で発生した大地の揺れのエネルギーの大きさを表したものになります。もっと言うと、一つの地震で発生した大地の揺れのエネルギーの合計をマグニチュードで表しているということです。(ここまで言ってきたことも踏まえて、ちょっと難しい言い方をすれば「地震が発するエネルギーの大きさを対数で表した指標値」ということになります)

つまり、揺れエネルギーだけを表すのであればJ(ジュール)やcal(カロリー)でも大丈夫ということになります。
それをしない理由はあとあとするとして、ここで大事なのはあくまでもマグニチュードで表現しているのはあくまでも「揺れエネルギー」であるということです。今まで例として話してきた熱エネルギーや光エネルギーはマグニチュードには含まれません。

これはどういうことかというと、例えばTNTを使って爆発を起こし、その衝撃で人工地震を発生させたと仮定したとき、TNTの爆発のエネルギーは揺れのエネルギー以外に、光や熱といったエネルギーとしても出て(発散されて) きます。
この時、地震のエネルギーとして意味のあるものは揺れのエネルギーだけですので、揺れとして出てきたエネルギーをマグニチュードで表現するわけです。これは実際の地震でも同じようなことが言えます。(※10)

もちろん、揺れといっても地面だけではなく、例えば空気を揺らした結果として「音」や「衝撃波」といった形で出てくるものもあります。これも「大地の揺れ」、すなわち地震に関係ないのでこれもマグニチュードで算出される値には入ってきません。

あくまでも「地震」の「地震」としてのエネルギーを表す指標(目安) がマグニチュードということだけ理解しておいてください。

※10:あくまでもお遊び的な要素でエネルギーをマグニチュードにそのまま換算するということを私もやっていたりしますが、それはあくまでもそのエネルギーをすべて地震エネルギーに変換した場合の値です。これは先ほど述べたように計算で簡単に求めることができるので、より直感的にマグニチュードを理解するためには役立ちます。結構面白い。

震度とマグニチュードの違い

さて、マグニチュードについて理解をさらに深めるために、震度とマグニチュードの違いを簡単にですが説明していきます。

マグニチュードというのは先ほど説明した通り、「地震で発生したエネルギー」を示したものです。
では、震度とは何でしょうか。マグニチュードは一つの地震に対して一つしか存在しない(※11) のですが、震度というのは同じ地震でも場所によって変わってきます。
これは、震度が「その地震で発生した、ある場所における揺れの強さ」を示したものだからです。(これも難しい表現にすると「地震動の強さを表す尺度」という言葉になります)

同じ震源から発生した一つの地震であっても、場所によって揺れ方が違うため、震度の値は場所によって変わってくるのです。
(マグニチュードと震度の関係は「光度」cd(カンデラ) と「照度」lx(ルクス) の関係によく例えられますが、これは厳密には誤りで、「全光束」lm(ルーメン) と「照度」lx(ルクス) の関係がより近いのではないかな、と補足しておきます)(※12)

※11:ご存じの方はご存じの通り実際は一つの地震に対してモーメントマグニチュードや表面波マグニチュード、実体波マグニチュード、気象庁マグニチュードといったように別々の値が与えられます。が、これはあくまでもマグニチュードの算出方法による計算値のずれであり、もともとのマグニチュードの値が複数あるということではないということに注意してください。
※12:光度はある特定の方向に照射される単位立体角あたりの光の明るさであり、「ある光源が発している光の総量」を表したものではないため。それを表す数値としては「全光束」が一番適しています。

マグニチュードの本質

……さて、最後のセクションになりました。注釈込みではありますが、すでに1万文字を軽く超えているので、ここまで読んでいただけているか非常に不安ではあります。
ここにきて大げさなタイトルですが、簡単に言えば「私が本当に言いたかったこと」であり、「最初や途中で提示した疑問(伏線) の回収」であり、つまりはこの記事のまとめの部分になります。わー。

ここまで来て、いろいろなことを言ってきましたが、マグニチュードについてざっくりまとめるとこんな感じです。

  • マグニチュードとはエネルギーを表す数字である。

  • そのエネルギーとはあるひとつの(特定の) 地震で発生した「大地の揺れ」のエネルギーの総量(合計) である。

  • マグニチュードはJ(ジュール) やcal(カロリー) といった身近な単位で表現されたエネルギー量から変換することが可能である。(逆に言えば地震エネルギーをそれらの値で示すことも可能である)

さて。マグニチュードとはのところで軽く触れていましたし、ここでも言いましたが、地震エネルギーをJ[ジュール]やcal[カロリー]で表現することはできます。
じゃぁ、なぜそれをしないのでしょう。マグニチュードなんてわけのわからないものを持ち出すより、普段使っているエネルギーの単位で表した方が簡単で分かりやすいはずです。じゃぁ、なぜそれをしないのでしょう。大事なことなので二回言いました。

そのヒントが、「マグニチュードの定義式」で出てきたマグニチュードの定義の式であり、「ジュールとマグニチュードの関係」であそこまで簡単にしてしまった式なのです。
ここでおさらいのためにもう一度それらの式を提示しておきます。

$$
\log_{10}{E}=4.8+1.5 \times M\\
10^{4.8+1.5 \times M}=E\\
4.8+1.5 \times M=m \\
とすると,上式は\\
10^m=E\\
と表現できる.
$$

はい。これだけだとちょっと直感的にわかりにくいので、具体的な値を入れて確認してみましょう。
「ジュールとマグニチュードの関係」の中で、1[MJ]=1,000,000[J]を例にとって計算していましたが、その式を再掲します。(ちょっと計算式の一部を省略させてください)

$$
10^m=1000000\\
m=6\\
4.8+1.5 \times M=mより,\\
4.8+1.5 \times M=6\\
1.5 \times M=1.2\\
M=\frac{1.2}{1.5}\\
M=0.8
$$

これで、1[MJ]の地震エネルギーは M 0.8 であることがわかりました。
これを今度は1000倍の1[GJ]=1,000,000,000[J]で計算するとどうなるでしょうか。ほとんど同じ計算になりますが、めんどくさがらずにイチからやってみましょう。この場合、$${m=9}$$となりますので、

$$
10^m=1000000000\\
m=9\\
4.8+1.5 \times M=mより,\\
4.8+1.5 \times M=9\\
1.5 \times M=4.2\\
M=\frac{4.2}{1.5}\\
M=2.8
$$

これで1[GJ]の地震エネルギーは M 2.8 になることがわかりました。
ここで不思議なことに気が付くはずです。エネルギーは1[MJ]から1[GJ]と1000倍になっているにもかかわらず、マグニチュードは M 0.8 から M2.8 と、たったの2しか増えていません。

これが地震のエネルギーをマグニチュードで表現することのメリットで、さらに踏み込んだ表現をすれば対数値を使うメリットになります。
実はこのような数字の表現の仕方を「対数値」というのですが、この言葉は三歩歩いたらもう忘れてもらって大丈夫です。
この対数値というのはこのようにとても広い範囲の数字を表すのに適した表現で、この場合はもとの数字が大きくなれば大きくなるほど、対数値の増え方が鈍くなります。(※13)
これを分かりやすくグラフで表現したものが図1です。

図1・エネルギー[MJ]とマグニチュードの関係(普通のグラフを用いた場合)

図1を見てもらえるとわかりますが、M8.0くらいまでは0のあたりに張り付いていますが、M8.4のあたりから爆発的な増え方をしています。
これを対数グラフというちょっと特殊なグラフで表現してみると図2のようになります。

図2・エネルギー[MJ]とマグニチュードの関係(y軸を対数表示にした場合)

図2のグラフは縦軸の増え方が一様ではなく、数字が大きくなれば大きくなるほど増えるペースがどんどん大きくなるというグラフです。これで見るときれいな直線に見えます。というより、わざわざそう見えるようにしているわけです。

ここで一つ注意したいのはただ大きい値を表現したいのであれば、単位を大きくすればいいだけです。
エネルギーの増え方に注目してください。マグニチュードの値が小さいときはエネルギーが少しずつ増えていき、マグニチュードの値が大きくなればなるほどエネルギーの増え方が大きくなっていくことがわかると思います。このような増え方を指数関数的に増加する……とどこかで表現していることを聞いたことがあるかもしれません。

かいつまんでいえば、マグニチュードは小さい値だと少しのエネルギーの増減でも意味があり、マグニチュードが大きくなればなるほどエネルギーの増減が大きくならないとあまり意味がないため、このような面倒くさい数字を使っているということになるわけです。(ここでの意味がある、意味がない、というのはあくまでも実用上、言ってしまえば防災や研究、平たく言えば地震学という側面での話です)

実際、M1.0とM2.0の地震を比較した時とM5.0とM6.0の地震を比較した時を考えると、後者の比較の方がエネルギーの差は大きくなっていますが、実際に各地の震度として出てくる値を比較してみると(※14)、M1.0で最大の震度は3、M2.0で最大の震度は4となっているのに対し、M5.0で最大の震度は5弱、M6.0で最大の震度は5強です。
エネルギーが大きくなればなるほど、実際に感じる揺れ(震度) が頭打ちしてくる、という表現はおかしいのですが、大体そんな感じになってくるのです。詳しく話すとまた1万字以上の説明が必要になってくるため省きますが、もっと揺らすためにはもっともっと莫大なエネルギーが必要になってくると言い換えることもできます。

最後、少し難しい話になりましたが、冒頭で話した普通の数字の感覚でマグニチュードを考えると全く理解できないことが出てくるといった意味が少し理解できたのではないでしょうか。

ちょっと余談になりますが、ここまでマグニチュードに対して「単位」という言葉を使うことがなかったのですが、これはマグニチュードが対数値であるため、「単位」という表現は適しておらず、あくまでも「指数」という表現が適しているためです。
また、先ほどの計算式からわかるマグニチュードの性質を少しだけ紹介しておきます。

  • マグニチュードが2増えるとエネルギーは1000倍になる。

  • マグニチュードが0.2増えるとエネルギーは約2倍になる。

  • マグニチュードが1増えるとエネルギーは約32倍になる。

以上、長くなりましたがいかがでしたでしょうか。
今後もこのようなコラムをこちらで投稿できればと思いますので、よろしくお願いいたします。

※13:ここではあくまでも底の事をあまり深く考えず、底が10であることを前提に話をしているのでこういう表現になりますが、逆もできます。底を変えることで、いろいろな値のレンジを調整できるので、例えば水素イオン濃度を表す[pH]であったり、音の大きさを表す[dB]なんかに用いられます。
※14:ここでは1919年以降に日本国内で発生した震源の深さが10kmの浅い地震のみを比較対象にしています。参考:気象庁震度データベース


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?