見出し画像

【火の鳥宇宙編】冒頭10ページの衝撃!SF好きならゴリ推しで読むべし!

今回は『火の鳥』宇宙編をお届けいたします。

本作は手塚治虫がSF作家であったことをまざまざと見せつけた
SF超大作ミステリーマンガになっています。

題材は『火の鳥』ですが本編単体でも十分に一本の映画が作れてしまうほどの圧倒的なストーリー展開でSF好きはもちろん
ミステリーが好きな方には必見の内容です。

しかもラストは誰も想像だにできない手塚ワールド全開の
ぶっ飛んだ結末で見るものを圧倒してきます。

だまされたと思って冒頭の数ページだけでも読んでみてください。
次の瞬間から続きが気になってしょうがなくなりますから(笑)

そんな「火の鳥宇宙編」を今回はご紹介いたしますので
最後までお見逃しなきよう。



---------------------------------
まず本作のポイントを3つ絞ってご紹介します。

①ミステリー要素
②斬新なコマ割り
③伏線回収

その他、細かく掘り下げる要素が満載の本作でありますがキリがないのでまずは大枠ではこの3つを抑えておくと本作をよりお楽しみいただけると思います。

①ミステリー要素



まずはあらすじから。

これ聞いたら絶対「え?どうなるの?」って思いますよ。
しっかり聞いておいてくださいね。


舞台は西暦2577年

地球に帰還途中だった宇宙船が隕石の衝突事故により
睡眠カプセルで眠っていた乗組員4名が目を覚まします。

「何が起きたのか」と
交代で起きている操縦室にいる牧村の元に向かうと

彼は操縦席に座ったまま干からびてミイラになっていました。

画像1

何が起きたのか分からない4名は
このままでは止まってしまう壊れた宇宙船を捨て
個人用の脱出ポッドでそれぞれ避難することにします。

しかし個人用の脱出ポッドには半年分の食糧と1年半分の燃料しかなく
ただ宇宙空間に漂い、
救助されるのをひたすら待つしかないという孤独な脱出です
食料と燃料が無くなれば即終了
もう二度と会えないかもしれない仲間たちとの最後の別れ

いよいよ脱出という際に
ミイラになった牧村から

「ボクハコロサレル」

のダイイングメッセージを発見。

誰もいないはずの宇宙船内で牧村は一体
「誰に殺されようとしていたのか?」

謎と不信感が募る中で各自の脱出ポッドがついに発射されます

画像2


発射後も各自のポッドとは交信は可能で
通信を通してそれぞれが犯人探しと
牧村の死んだ原因について交信していきます。

それぞれの言い分が辻褄の合わない矛盾ばかりで
「誰かがウソをついている」という疑念も浮かび
寝そべることしかできない狭いポッドの閉塞感と相まって
各自が異様な精神状態に陥ります。


密室の中での残されたダイイングメッセージ
宇宙という暗黒世界で起きた密室殺人事件…
これだけでも十分ミステリー要素満載なのですが

さらに
なんと4人のポッドの後ろから、もう一台のポッドが後をつけてきます。

え?何?脱出したのは4台のはず?
死んだはずの牧村が生き返ったのか?
はたまた全く別の誰かが乗っているのか?

混乱と恐怖が4人を襲います。

このあと一体脱出した4名はどのような運命を辿るのか?
そして追いかけてきた謎のポッドには誰が乗っているのか?


…というのが本編の冒頭となります。


どうですかめちゃくちゃ面白くないですか?
これまだ冒頭です。
ミステリー要素満載でドキドキが止まりません。

日本にSFというジャンルを築き上げた手塚先生ならではの
SFミステリー作品。

これはいづれの『火の鳥』にもない大きなポイントで
『火の鳥』という題材に関係なく単体でも十分に楽しめるストーリーになっていて『火の鳥』を読んだ事がない方でも十分理解できますし
まさしくストーリーテラー手塚治虫の真骨頂を味わえる作品と言えます。

本当はもちろん全部続けて読んだ方がめちゃくちゃ面白いんですけど
ちょっとだけでもという方はぜひ読んでみてください。


②斬新なコマ割り



これこそ天才手塚治虫の片鱗を見ることができる逸品です。
寝そべることしかできない密室の脱出ポッド内で通信だけの
繋がりを持った4人の会話をどう表現するのか?

本作では圧倒的なコマ割りで観るものを圧倒します。
これは単なるトリッキーなコマ割りだけでなく
それぞれが密室という閉塞感における精神状態をも表すコマ割りで
めちゃくちゃ秀逸なレイアウトになっています。

画像6

しかもそれぞれが独立して読むことができるので時系列問題も解決しているという恐ろしいコマ割り!

天才です。ほんと天才!
マンガという表現媒体を一段も二段も引き上げた天才的な手法。

読みづらいという声もありますが
コレは普通のコマ割りであったならここまで心理的描写、
リアルタイムで起こる
サスペンス要素を楽しむことはできなかったと思います。

めっちゃ狭い空間に閉じ込められて、
誰にも会えず酸素も食料も半年分くらいしかなく
宇宙空間という暗黒空間の中を
ただひたすらに漂っているだけの状況になったら
頭おかしくなりませんか。
それがコマ割りで見事に表現されているんです。

画像3

これは、もう実際のコマ割りを読んで実感してもらうしかないですね。

こういう実験的な手法や新しい表現方法を
いつも手塚先生はチャレンジしていました。
そもそもこれまでの
マンガ文化を縦読みから横読みに変えたのは手塚先生だし
4コマ漫画主流だったものから映画的手法を取り入れ横長のダイナミックなコマ割りも導入しました。
キャラクター主観の「同一化技法」も生み出していますし

とにかく
手塚治虫が現代マンガのプラットフォームをつくっちゃったんですから
コマ割りと言えばもう手塚治虫なんですよね。


このあたりの解説は別記事もありますのでぜひご覧になってみてください。


未だに手塚治虫を超えるコマ割りの漫画家が出てこないことを考えると如何に手塚治虫の表現が凄まじいことであったかが伺えます。漫画の歴史があれから50年以上経っていますがほんと見たことないですね。

そんな手塚先生がさらに新しい表現方法に挑戦しているわけですから
新しいものへのあくなき挑戦というのは凄まじいものがあります。

とにかくこのコマ割りは体験してほしいです。


③伏線回収



「宇宙編」はミステリー要素の種明かしとともに
『火の鳥』全編を通しての伏線も同時に回収されていきます。

牧村はなぜ殺されたのか?
誰に殺されたのか?


この謎の解明が『火の鳥』のほかの編の秘密と密接にかかわっており
これがまた面白い!
牧村ってそんなやつだったの?という事や過去に犯した罪
そして未来永劫引き継がれる惨殺に対する報いが明かされます


そして『火の鳥』定番の醜い鼻デカの猿田
こちらがなぜ醜い鼻のオバケになってしまったのか
本編にてその理由が明かされます。

未来永劫猿田一族もろとも醜い鼻の刑にさせられちゃいますからね
火の鳥の恐ろしさはハンパじゃありません。
永遠に続く罰って怖すぎですやん。

画像7


あと『火の鳥』シリーズを通してのテーマである
永遠の命を求めて火の鳥を追い掛け回す設定が
今回は「死ねない恐怖」になっており今までと逆になっています。

誰しも若返りたいと思うもの。
でも本編では若返ったら、
また歳をとってまた若返るという無限ループ地獄が炸裂
死ねないことがどれほど恐ろしいのか見せつけられます。
(この辺はちょっと未来編でも出てきますけど)

クライマックスでは
死ねなさ過ぎて最後には
みんな植物になる事を望むという爆裂した展開を迎えます。
「お前ら人間が望む不老不死なんてロクなもんじゃねぇぞ」と言わんばかりの火の鳥の「不死」に対しての価値感が怖すぎ。

「…いや火の鳥パイセンこんな植物人間みたいになるんだったら、
不老不死なんていらないんですけど…」

とすら思ってしまいます。

でもそんな都合のいい「不老不死」など与えられる訳もなく
「マジっすか?」っていいたくなるような残酷な不死が与えられます。
これはもはや拷問です(笑)

「死ねない怖さ」、これをまざまざと見せつけた『火の鳥』
この「宇宙編」の凄まじさであります。
もう本当、秦の始皇帝に見せてやりたいですよ「宇宙編」を。

そんなもん望むもんじゃねぇぞって

画像4


まだまだ
最後の『火の鳥』の正体であったり
細かいところ沢山解説したいのですがそれは是非本編を読んで
色々と感じてみてください。

本編は『火の鳥』の中でも非常に短い作品で簡単に読むことができます。
通常、単行本版は「ヤマト編」と一緒になっているのでお得です。
非常に手軽なのでぜひお手にとってみてください。


ただ角川版だけが「生命編」と一緒になっているので
連載順にはなっておりません。
『火の鳥』は連載順に読まなくても問題ないので
これはこれでありかなと思います。
未来という共通した世界観が展開しますので読みやすいのかなと。


というわけで今回は『火の鳥』宇宙編お届けしました。
いかがでしたでしょうか。
『火の鳥』は難しいと思われる方もおられますが
今回ご紹介した「宇宙編」はその中でも比較的読みやすく短い作品ですので手軽にお楽しみいただけるかと思います。
これを機に手塚治虫の最高傑作『火の鳥』の世界に
興味を持っていただけたら幸いです。

ではでは

次回は火の鳥史上最高傑作「鳳凰編」です


いいなと思ったら応援しよう!