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「アドルフに告ぐ」は最高の戦争マンガである。
1983年1月より「週刊文春」にて連載された「アドルフに告ぐ」
手塚治虫の最高傑作とも呼び声高い本作は一線級の戦争マンガでもあることをご存じでしょうか。
ヒトラーが実はユダヤ人だったという奇抜なストーリーに没入して
戦争の悲惨さという問題提起を忘れさせてしまうほどの中毒性がありますが
本作は列記とした戦争マンガです。
手塚先生が自らの戦争の記憶を伝えたいという思いで描かれた作品を手塚先生が残したコメントを振り返りながら作品の本質に迫っていきます。
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「戦争の記録」
僕にとっては(戦争は)歴史じゃなく現実だった。
戦争の語り部が年々減っていくので僕なりに漫画で伝えて、
ケリをつけたかったんですよ。(中略)
僕は戦中派ですから、戦争の記録を、僕なりに残したいという気持ちがありました。戦後も40年以上たちますと戦争のイメージが風化してくるんですよ。僕も、そう長い先まで仕事ができないので、今のうちに描いておこうと思ったんです。
「アドルフに告ぐ」は、ぼくが戦争体験者として第2次世界大戦の記憶を記録しておきたかったためでもありますが、
何よりも、現在の社会不安の根本原因が戦争勃発への不安であり、
それにもかかわらず状況がそちらのほうへ流されていることへの絶望に対する、ぼくのメッセージとして描いてみたかったのです。
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ぼくの作品「アドルフに告ぐ」だけではなく、ほとんどの作品に描かれているテーマにはこの悪夢のような記憶を無意識に描いているものが多いのです。
それはちょうど語り部のように自分の体験を子供たちに語って聞かせたい。
そういう気持ちが動いているのでしょう、
我々が学校で教わる戦争
それは歴史の一端でしかありませんでしたが手塚先生にとって
それは目の前に広がる現実でありました。
その忌まわしい戦争を伝える人間がいなくなりつつある…。
当時の状況を知っている人間が減りつつある…。
そんな中、戦争の本当の姿を語り伝えなくてはとペンを走らせたわけです。
そしてその思いは晩年にまで及び「アドルフに告ぐ」では自らが体験した戦争の記録を作品に残しました。
作中の日本での舞台は手塚先生が少年期を過ごした神戸
「アドルフに告ぐ」のあとがきにはこうあります。
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戦前から戦中の関西、
特に空襲下の関西というのはあまり本に書かれていないんですね。
そこで、戦争中の僕の思い出話でも描きましょうかということになった。
これは掲載誌「週刊文春」編集長との会話の中の一コマです。
その後に編集長からは「徹底的にシリアスな大河ドラマを」との要望が入り
自身の戦争体験を元にした大河ドラマのプロットが出来上がります。
「アドルフに告ぐ」では大人の読み物として耐え得る様、見応えのある作風にするためビジュアル的な悲惨さではなく人間の内面をえぐる心理描写を中心に戦争の悲惨さを描いていることも特徴的です。
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それは人にどんなふうに語って聞かせても聞かせ足りないほど恐ろしい思い出です。なにが恐ろしいといって、自分の死の恐怖を目の当たりに味わったことです。空襲や戦場はどこへ逃げても同じ恐怖にさらされるのです。
そこから逃れる術はありません。
それが地震や津波などの天災ではなく、それを与える側も人間なのだということが特に怖いのです。
もう戦争時代は風化していき、大人が子供に伝える戦争の恐怖は、観念化され、説話化されてしまうのではないか。
虚心坦懐に記録にとどめたいと思って『アドルフに告ぐ』を描きました。
なかでも、全体主義が思想や言論を弾圧して、国家権力による暴力が、正義としてまかり通っていたことを強調しました。
このように戦争の悲劇とは与える側も同じ人間であるという恐ろしさであることを痛烈に描き切っています。
「正義」という名の元に人間が人間を殺めていく世界。
それはまさにこの世のものとは思えない光景だったそうです。
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「正義とは」
人間狩り、大量虐殺、言論の弾圧という国家による暴力がすべて「正義」としてまかり通っていた時代が現実にあったことが、今の若者たちには、遠い昔の歴史ドラマでしかないのかも知れません。
でも女も子供の無残にあっけなく殺されていったのは、ついこの間の厳然たる事実なのです。
正義の名のもとに国家権力によって人々の上に振り下ろされた凶刃をぼくの目の黒いうちに記録しておきたいと願って描いたのが「アドルフに告ぐ」なのです
「正義」とは一体なんなんでしょうか。
手塚先生は「正義」の名のもとに
侵略戦争が正当化されていることを嘆きそれを題材にしています。
物語後半でアドルフ・カウフマンが加入する「黒い九月」とは超過激派のテロ集団であり実際に存在するゲリラ組織です。
ヨルダン首相暗殺をはじめ大使館襲撃や暗殺破壊工作
有名なところでいえば、ミュンヘンオリンピックでイスラエル選手とコーチ、計10名を殺害する世界を震撼させる事件を起こしました。
この事件についてはスピルバーグ監督の『ミュンヘン』という映画でも描かれておりますので知っている方も多いのではないでしょうか。
そんなテロ組織に身を染めたアドルフカウフマンのセリフ
「おれの人生はいったいなんだったんだろう。
あちこちの国で正義というやつにつきあってそして何もかも失った。
肉親も…友情も…おれ自身まで…おれは愚かな人間なんだ
だが愚かな人間がゴマンといるから国は正義を振りかざせるんだろうな」
かつてナチスに追われていたユダヤ人が今ではナチス以上に残虐なことを繰り返し、ナチスだった男がパレスチナ解放のために戦う皮肉
「国」のために戦っているのか
「自分」のために戦っているのか
はたまた「正義」のために戦っているのか
その環境に身を置いていると
自分の姿すら見失ってしまう恐ろしさを表したセリフです…。
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掲げた「正義」に翻弄され多くの人たちの運命が狂っていく。
「戦争」とはいったい何なのか
「正義」とはいったい何なのか
自分なりの「真実」を見つける意味でも
現代史を学ぶ意味は大いにあります。
マンガというフィルターを通して描いた手塚治虫の「戦争」マンガ
日本人としても風化させていけない事実がここにはあります。
マンガの神様「手塚治虫」が晩年に描いた最高傑作「アドルフに告ぐ」
全日本人に是非読んで欲しい一冊です。
最後に
この「アドルフに告ぐ」はブックデザインにもこだわりがありまして
単行本化にあたって発売当初、表紙にはマンガのイラストを使わない異例のデザインでさらには従来のマンガ本の装丁ではなくハードカバーでの装丁というこれまでのマンガではありえない出版方法でした。
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これは一般書のコーナーに置いて欲しいという手塚先生の想いが込められており当時としては誰もが驚いた出版方法でした。
マンガとは子供が読むものという概念を覆し、より多くの人に読んでもらいたいという想いがそこには含まれており発売するやいなやベストセラーとなり大人から子供まで読まれることになりました。TVなどでも特集が組まれるなどマンガの新たな可能性を示した作品となりました。
まだ読まれておられない方は是非この機会にお手に取ってみてください。
それでは最後に
峠草平のセリフでお別れいたします。
最後までご覧くださりありがとうございました。
「正義ってものの正体をすこしばかり考えてくれりゃいいと思いましてね…つまんない望みですが」
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