【映画所感】 BAD LANDS バッド・ランズ ※ネタバレ注意
オレオレ詐欺に代表される特殊詐欺グループの原資をめぐるコンゲーム
我が国で最もディープな街といっても過言ではない、大阪・西成のあいりん地区。清濁ごった煮の街で繰り広げられるフィルム・ノワールが心底熱い。
原作小説は黒川博行のクライムノベル、『勁草』(けいそう)。
原作では男性となっている主人公を、本作『BAD LANDS』ではあえて女性に変更。
安藤サクラ演じる詐欺師(手配師)・橋岡ネリが、大阪の街を疾風怒濤のごとく駆け巡ることで、裏社会の屋台骨がグラつきだす。
性別変更の英断は、血の繋がらない弟・矢代ジョー(山田涼介)との偏愛要素を加味させ、他に例を見ないほど蠱惑(こわく)的なバディムービーを誕生させた。
黒川博行といえば、何といっても『疫病神』シリーズ。一時期は夢中になって読んでいた。
建設コンサルタントの二宮と、昔気質のゴリゴリのヤクザ・桑原との丁々発止のやり取りがたまらない犯罪エンタメ小説。
どぎつい関西弁が飛び交い、小説というよりもシナリオに近い感覚で読み進めることができる稀有な作品群だ。
その意味では、『BAD LANDS』もクセ強すぎの関西弁が、終始ストーリーを支配する。詐欺グループ特有の隠語や符丁の数々は、それだけでオモロいし大いに興味をそそられる。
ちなみにネリは、現金受け渡しの最終判断を現場で下す、「サードコーチャー」と呼ばれている。本塁突入を最前線で指揮する重要な役回り。ランナー(受け子)を生かすも殺すも彼女次第。
ネリの一挙手一投足から目が離せない。
犯罪実行のスリリングな展開は、ネリが危険察知能力と、何ごとにも臨機応変に対応する状況判断能力に長けているということを、否が応でも印象づける。
余計な説明セリフや、冗長な演出など存在しない。
引き合いに出して申し訳ないが、このあいだ観た『リボルバー・リリー』は本作とは真逆のテイストで、2時間超の長尺が正直しんどかった。
同じような上映時間であるのに『BAD LANDS』のほうは、「もっとこの狂気の世界に浸っていたい」と思わせてくれる。
無駄を削ぎ落とす演出とテンポ、リズムがいかに大事なことか教えてくれているようで合点がいく。
付け加えるならば、原田眞人監督特有の反体制・社会派インテリ臭が極力抑えられ、「その分エンタメに全フリしました」的な潔さが、最高の娯楽作品を産み落とした要因のひとつといえるかもしれない。
もちろん、監督の手腕だけではない。役者陣も各々が素晴らしい。主役の姉弟だけでなく、画面の隅の端役にいたるまで、どのキャラクターも立っている。
中でも印象的なのが、元ヤクザで現在はドヤ街のジャンキーとして日々を無為に過ごしている、通称・マンダラ。宇崎竜童演じるこの死に損ないのジジイが、たまらない魅力を発散している。
まかり間違ってフィギュア化などされたら、真っ先にポチッと予約してしまいそうだ。
他にも、賭場の責任者・林田(サリng ROCK)とその舎弟。詐欺グループを追いつめる警察サイドの面々。佐竹刑事(吉原光夫)と同僚たちなど枚挙にいとまがない。
そんな中、原作にはない映画オリジナルのキャスト「月曜日の巫女」の発明は、破壊的イノベーションといえるだろう。
にわかには信じられないかもしれないが、日常ではお目にかかれないような“濃くてアヴァンギャルドな人たち”が西成界隈のそこかしこに存在する。
この一見さんお断りの近寄りがたさと危うさが、西成を西成たらしめている所以なのかもしれない。
筆者のような地元民でも、いまだに身構えてしまう。
“人間の業”を養分にして、西成に巣食う“闇”は、肥大化しつづけるのだ。
最後に、同じく西成が舞台の犯罪映画として、昨年公開の『さがす』(監督・片山慎三)も推しておきたい。
こちらも負けず劣らずの「西成ノワール」の傑作だ。