【映画所感】 ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー ※ネタバレ注意
1996年生まれの阪元裕吾監督。
インディーズ時代から、バイオレンスとアクションに青春を捧げ、しがらみや制約をものともせずに、肉体表現の精度を研ぎ澄ましてきたのだと思う。
これまでの作品を全部観たわけではないが、商業映画以前の『スロータージャップ』や『ハングマンズ・ノット』に内包された狂気や残虐性は、ときに正視できないほどに突き抜けていた。
自分が阪元監督の商業映画で最初に鑑賞したのは、『ある用務員』(2020)だった。
裏社会のボスの一人娘(女子高生)のボディガードが、用務員として学校に潜入しターゲットを守り抜くというストーリー。
敵対する組織から次々と送られてくる刺客(殺し屋)相手に、学校内で壮絶なアクションが繰り広げられる。
その殺し屋軍団の中で、ひときわ異彩を放っていたのが、本作『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』の主演コンビ、ちさと(高石あかり)とまひろ(伊澤彩織)。ちなみに『ある用務員』での役名は、リカとシホ。
彼女たちのアクションスキルと個性が際立っていたがゆえに、スピンオフ的な意味合いでシリーズ1作目の『ベイビーわるきゅーれ』(2020)が作られたのだろう。
キレッキレの殺陣が評判を呼び、異例のロングランとなった1作目から、満を持して放たれる本作の中身は、非正規雇用の殺し屋兄弟VS.ちさと&まひろの正規軍。
前代未聞の変則タッグマッチは、 近接戦闘のお手本がびっしりと詰まっている。
オープニングから気が抜けない。
殺し屋兄弟のゆうり(丞威)とまこと(濱田龍臣)は、“殺し屋協会”から請け負った仕事で反社のアジトを強襲。このシーンの臨場感だけでも、相当なレベルだ。
スクリーンからダイレクトに衝撃が伝わってくる。殴られたら痛いし、絞められたら苦しい。当たり前の感覚のはずなのに新鮮に思えてしまう。
本作でアクション監督を務めた園村健介の手腕は言うまでもない。新しい暴力描写への挑戦は、コンプライアンスの間隙を縫いながら、さらなる進化を遂げた。
ここへ来て『シン・仮面ライダー』のアクションに欠けていたものが見えてくる。
格闘シーンにおいては、“痛み”こそが正義なのだ。
靄は晴れ、「アクション補完計画」は完遂する。
1作目の『ベイビーわるきゅーれ』では、物語の途中から、ちさととまひろは同居を開始する。とくに前半は、ちさと、まひろ、それぞれ独立したエピソードが挿入され、徐々にふたりはリンクしていった。
最終的には、ちさとが招いた災厄に、まひろも一緒に立ち向かい、強固な絆が築かれる。
続編となる『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』は、自ずと同居しているふたりのシーンがメインとなり、対比するようにゆうりとまことの活躍も描かれる。
どこまでもユルい、ちさととまひろのやりとりは、前作よりもコメディ色強めで、下腹に脂肪を溜め込んだおじさんには、少々ついていけない言い回しも含まれる。
とくに、一昨年トピックになった映画『花束みたいな恋をした』のくだり。「菅田将暉」激推しの商店街の世話役(渡辺哲)はクドいほどに、ちさととまひろに絡んでくる。
たしかに笑えるシーンではあるのだが、『花束みたいな恋をした』自体が各方面で散々擦られまくったネタであるだけに、“今さら感”は免れなかった。
それでも、トラとパンダの着ぐるみによる本気の小競り合いなど、セリフ以外に楽しめる要素もふんだんに盛り込まれていて、とにかく微笑ましい。
結論からいえば、ちさととまひろのツーショットさえあれば、大概は許されるのだ。
そして、最終決戦。
まひろを演じる伊澤彩織、スタントパフォーマーとしての身体能力の高さがすべてを凌駕。受け手のゆうり(丞威)も完璧に呼応する。
セミオートマチックの高速マガジン交換には、美しさしか存在しない。
見事な芸当を、社会生活不適合な今どきの女子が、いとも簡単にやってのける。
“ギャップ萌え”の意味を噛みしめながら、誰もが劇場をあとにすることだろう。