自分の子は可愛いという事実〜保有効果〜
このシリーズはわたしが学んだヒトの行動について、行動変容と経済学と絡めて(それを行動経済学という)勉強したことをアウトプットをこのnoteで共有していくものです。
モノを誰かの手に渡った瞬間に発生することがあります。
わたしたちは無意識のうちに、最初に触ったときから、その物により多くの意味や品質、価値を与えてしまうのです。
今回は1970年代初頭に、経済学者のリチャード・H・セイラー氏によって提唱された保有効果について。
保有効果とは
人はすでに自分が保有しているものには、いつでも手に入れられる状態にあるが、まだ保有していない物よりも高い価値を感じること
要は、自分が今持っているものの価値が本人の中では高くなって、なかなか手放したくない、または市場が思う以上に高く評価してしまう傾向のことです。
身近な例で言うと、セカンドハンドのお店に自分のお気に入りの服を売りに行く時、着古しているものの、そこまで価値は落ちていないと思うし、何しろセンスのいい服だから、そこまで安く買い叩かれないだろう、と思って打った経験ありませんか?
しかし、実際の売値はわたしたちが想定しているよりも低く、小銭しかもらえない、ということがあります。
なぜこの保有効果が発生してしまうのか?ということを考えていくと、人は以下の心理状態にあるから、と考えられます。
・損失回避 「持っているものを失うくらいなら、持ち続けたい!」
→わたしたちは何かを所有しているとき、実際の販売価格よりも、それを売ったときの損失を考える傾向が強くなります。損失は利益よりも悪いと認識してしまいます。
・オーナーシップと所属意識 「所有してる自分が好き!」
・現状維持バイアス 「今のままが心地いい」
→人は損失や変化のリスクを取るよりも、同じ状態を維持したいと心理的に思ってしまいます
良くも悪くも、わたしたちはこの保有効果の影響を受けています。
身の回りのどんなところに保有効果が隠れているのかを探っていきましょう。
以下に挙げる例はわたしたちのプロダクトやサービスにも応用可能だと思うので、参考になればうれしいです!
例1 マーケティングでプレゼントは存在しない
🎁無料でプレゼント
Googleは2年間有効の100Gのストレージをユーザーにプレゼントするキャンペーンを行いました。
100Gは多すぎる、という人もいるでしょう。
しかし、15Gだとどうでしょうか?
実際に使っていても、少ないと感じませんか?
15GはGoogle Driveで元々無料で使える範囲です。
もし2年間100Gを使うことに慣れてしまえば、そこから15Gだけの生活に戻ることはできますか?
無料で所有させることでプロダクトへの所有意識が芽生え、保有効果で手放すことに対し、当人が想定している代替物がないと、手放すことは難しいのです。
大体のプレゼントには期間が設けられていて、その期間をすぎると、**損失回避の傾向が上がってしまいます**。
実際にApple TVはApple製品購入者に1年の無料視聴をさせたり、Fitbitでは特定のプロダクトを購入すると、無料で1年間のプレミアム会員になれる特典があります。今それをわたしが体験をしています。
🎮一定時間の無料体験
Huluは2週間無料の視聴期間があるので、試すことにした。
しかし、コンテンツが気に入ったので、解約せずに会員費を払うことにした。
このような無料期間は多くのサービスで利用できます。無料で使ってもらうことで、「使っている自分」と「使っていない自分」を比較した時に、もう後戻りできないと感じてしまいます。無料で観ていることに対する所有権を手放したくないのです。
製品に触れている時間が長ければ長いほど、所有感が高まります。
他の例をあげると、自動車の試乗会や、アップルストアでの製品の体験も一定時間自分のものかのようになり、まるで所有しているような錯覚に陥ります。
💰フリーミアム
ユーザーに使用権を与えますが、フリーミアムは制限があります。例えば
・全ての機能が使えない
・広告が入る
・頻繁に有料会員への誘導ポップが表示される など
有料会員での特権は知っている、使用する期間が長ければ長いほど、有料機能を使いたくなる。
これがフリーミアムの狙い、有料でも保有したくなる保有効果が働きます。
例えば、ヘビーに使用しているNotion。全然無料機能でことは足りていますが、今個人的に有料プランにするか悩んでいます。フリーミアムの恩恵を受けつつも、有料でできることが見えています。
逆にプロダクト・サービス開発側が利用するとなれば、フリーミアム版で適切な機能を提供し、ユーザーが最高の機能を体験できるように提供し、一部の機能だけアップグレードしないと使えない、ということをチラ見せしておくことが大事だと思います。
例2 「あなたは特別なお客様です」と錯覚する
📱アカウント作成
あなたがアカウントを作成したくなる意図は何でしょうか?
「わたしにとって何かメリットがある」からが大多数の回答でしょう。
アカウントを作成したら、自分だけのページになります。つまり外部の人は入れない「自分だけの空間」となります。
さらに、インセンティブやポイント、ログイン毎のポイント追加など、ユーザーにとっての報酬を与えることで、ユーザーを鼓舞し、さらに使用してもらうように促していきます。
実際に最近わたしが体験した例として、求人マッチングサービスのAMBIがあります。サービス内容については割愛しますが、ログインするたびに、サイト内でできるアクションに関するポイントが付与されます。
これはアカウント作成しないと得られないことです。さらなる特別な体験をさせるには次で説明する「パーソナライズ」で。
👫パーソナライズ
アカウントを作ってもらえれば、次はパーソナライズをして、ユーザーの体験を作っていきましょう。
最初から最後までのカスタマージャーニー全体をパーソナライズし、ユーザーには最初からサービスやプロダクトにお世話になっていると感じてもらうことが重要です。
これで「わたしだけの空間」と錯覚してしまいます。
転職サービスのAMBIのマイページは最高です。バロメーターと数字で私のステータスを表示してくれて、この数字をどうにか上げたい、という気持ちにさえもさせてくれます。
アマゾンも購入履歴から、わたしたちにパーソナライズしてくれています。
わたしたちが「これは自分のもの」と保有効果を感じさせるには、プロダクト・サービス提供側がしっかりとわたしたちの属性を把握する、ローカライズする(通貨や言語)、ログインしたら「おかえり」と歓迎のメッセージで迎える、わたしたち一人ひとりに合わせたおすすめを表示することです。
例3 もはやオーナー気分
📺コンテンツを動かす
Amazonプライムの例
新番組の視聴や評価のプロセスにユーザーを参加させる、パイロットシーズンのマーケティングキャンペーンが大成功を収めている。視聴者は、Amazonスタジオにオリジナルコンテンツに対する直接のフィードバックを与えることができ、間接的にAmazonコンテンツの制作に関わることができる。
Amazonプライムのユーザーは、このサービスと、彼らが批評した番組に対して、帰属意識と所有権のようか感覚を持ってしまいます。
さらに、30日間の無料体験に登録しているユーザーも参加できるので、有料会員になる動機付けにもなります。
他の例を挙げると、Nikeやコンバースも顧客にオーナーシップのような感覚を付与しています。
靴の色やデザインを選ぶことができ、作るという行為によって、その商品が最初から自分のものだったように感じられます。自分だけのものになり、捨てがたいものになるのです。
このような形で、ほんの少しでもオーナーシップが付与されると、わたしたちがまるでデザイナーになったかのように興奮し、製品を作っている気持ちになるとのこと。
一度自分が時間をかけてカスタマイズすると、自分のものだと錯覚し、それを履いたライフスタイルと想像して、購入したくなってしまいます。
時間をかけて作ったものが価値があるという錯覚は「イケア効果」に似ていますね。
👚バーチャルでも「わたしのものは、わたしのもの」
試着をして、自分が気に入れば、もうその服を着たあなたのライフスタイルを想像することは用意になります。そして顧客の所有欲を高めて、購買につながります。
さて、コロナウイルスで、なかなか実店舗にいけない顧客に対して、試着の代わりに何をしてもらうのが、購買行動をコンバージョンとしたときにいいのでしょうか?
一つの解決方法としては、バーチャルリアリティ/ビジュアライゼーションによるもの。
バーチャルでプロダクトを疑似体験してもらうことで、実際に商品を購入して使ってもらうより、顧客によっても安価で済み、また提供側も商品を購入してもらったあとの返品のリスクが減ると考えてもいいでしょう。
イケア App「Place」の例
イケアの商品を自身の部屋にフィットするかをアプリ上で確認することができる。
まるで自分の部屋にあるような錯覚をしてしまい、この家具がある生活が目に見える形に想像できてしまいます。
特に、eコマースサイトとして顧客中心の小売を実現するためには、ターゲットとなる顧客に、販売しているものがパーソナライズされている、あるいは自分のものであると感じてもらう必要があります。商品が単なる商品ではなく、「すでにお客様のものです」ということを強調すれば、人間の行動パターンに語りかけることができるでしょう。
✋触覚体験を最大限に活用
Appleのショールームでは、顧客は時間制限なしにAppleのほぼすべての製品に触れられ、使用することができる。
さらに、スタッフは顧客に立ち去ることを強要しないように指示されているそうで、ショールーム自体もオープンな空間でスタッフも親しみやすく、顧客の帰属意識を高める効果があります。
服を例に戻すと、試着室は触覚的な保有効果の産物であるという研究結果があります。誰かが一度でも服を試着すると、すぐに自分のアイデンティティをその服に移し、それを手放す可能性が低くなるそうです。
実際にその服を着た自分のライフスタイルを創造しますよね?
まとめ
自分のものと思ってしまう、だから手放したくない、それが保有効果です。
損失回避「持っているものを失うくらいなら、持ち続けたい!」と、失うよりも、コストを払ってでも持ち続ける方を志向します。
オーナーシップと所属意識「所有してる自分が好き!」「この会員であり続けたい!」これで会員権を手放したり、ステータスを落としたりしません。一度プラチナカードを持ってしまうと、もうランクは下げたくないですよね。
現状維持バイアス「今のままが心地いい」人は損失や変化のリスクを取るよりも、同じ状態を維持したいと心理的に思ってしまいます。
保有効果に陥っていると言い方をすると、わたしたちユーザー、顧客は保有効果を避けようとします。しかし、今陥っている保有効果で「損している」と感じていますか?
実はそうでもなくて、プロダクトやサービスに価値を感じさせられている、次第に価値を感じるようになり、保有効果であってもそれが居心地よくなってしまいます。
それは「パーソナライズ」されていたり、わたしたちに寄り添っているからだと思います。
しっかり、わたしたちの課題や厄介毎、あったらいいなを実現するために、綿密な分析や調査を行った上でプロダクトやサービスは存在します。
では、最後に参照リンクからイギリスの衣服メーカーであるJack Willsの例がよかったので、この例で締めましょう。
Jack Willsはライティングを個人に寄り添う形で提供しています。
商品説明に二人称の現在形を採用しており、「あなたの技術を守ります」「勉強会や朝の通勤時に持っていけますよ」というように、よりパーソナルな表現をしています。
Jack Willsは、ターゲット層の言葉をうまく使っているだけでなく、顧客にこの商品を日常生活にどうやって導入するかを想像させています。