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ナダヴ・ラピド監督『シノニムズ』彷徨う移民男性


<作品情報>

2019年・第69回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で金熊賞を受賞。日本では「フランス映画祭2019横浜」(19年6月20~23日/横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)で上映。

2019年製作/123分/フランス・イスラエル・ドイツ合作
原題:Synonymes

https://eiga.com/movie/90724/

<作品評価>

70点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆

<短評>

吉原
隣の芝は青く見えるとはよく言ったもので、フレンチドリームを夢見てフランスにやってきたが、そこで目にするもの全てが彼の望み通りの姿のわけもなく、当然失望するものも多い。それでも彼はフランス人になろうと奮闘する。
元のアイデンティティを捨てるために、家族とも縁を切ろうとしたり、頑なにヘブライ語を用いずにフランス語を使ったりと(英語を話しているところもあった)、彼の努力と気合はかなりのものだが、理想と現実の乖離に打ちひしがれていく様が、痛々しくて観ていられなかった。
面白いという言葉が合う作品ではないのだが、フランスの移民問題やイスラエルという国の問題など、考えさせられる内容は多い。まず日本で鑑賞すること自体が非常に困難だし、ずっと暗い雰囲気の作品なので、決して人に勧めるような作品ではない。金熊を受賞していなかったら出会うことがなかった可能性大の映画なので、この出会いがあったことに感謝したい。

豚肉丸
シュールで突拍子もない演出とカメラワークで描かれる、イスラエル人としてのアイデンティティを放棄してフランス人として帰化する苦悩。エピソードを積み重ねる形でその苦悩を等身大に描き出す手法がなかなか面白い。
イスラエル人としての保守思想とフランスの思想の擦れ違いが鮮明なものと化し、次第にその擦れ違いが決定的な物になる瞬間が見事。それを象徴するようなラ・マルセイエーズの場面とラストカットは圧倒的と言うしかなく、フランスが抱える移民問題への切り込みとしても現在進行形で繋がるイスラエルという国に蔓延る思想を当事者が描き出したという点でも良かったです。

<おわりに>

 日本では公開されていない本作、今は殊更問題が大きくなっていますね。現状を考える上でも必見の作品だと思います。

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