ジュスティーヌ・トリエ監督『落下の解剖学』作家は夫を殺したか?
<作品情報>
<作品評価>
75点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆
<短評>
上村
いやー、これは過大評価じゃないかなぁ。少なくともパルムドールをとる作品ではないと思います。女優賞だったら納得ですが。
ザンドラ・ヒュラーはよかったです。『ありがとう、トニ・エルドマン』『希望の灯り』など彼女の出演作はどれも素晴らしく、出る作品の選び方も流石です。
クオリティは高いと思います。二時間半ずっと興味を持って見続けられるくらいの強度がある作品なのは間違いないですね。地味ながらサスペンスフルな語り口は興味深いです。
「彼女が夫を殺したのか?」というのは作品を貫くミステリーではありますが、それだけに留まらない深さがあります。人間の持つ不完全さ、揺れ動きを上手く描写していると思います。目が不自由な息子もいいバランスです。真の主役はこの子なんじゃないかというくらい繊細に心の機微が描かれています。
ジュスティーヌ・トリエは作品の出来に波があるタイプな気がします。『ソルフェリーノの戦い』は傑作、『愛欲のセラピー』は駄作という印象で、本作はその中間くらい。セザール賞でも本作が無双していますが、トリエのベストワークかというとそうではない気がします。
出来の良さは間違いないですし、楽しめなかったかというとそんなことはありません。トリエ特有のダイナミズムが出ている一作ではありますが、パルムドールという名に相応しいかと言われると微妙な気がします。ここまでアメリカでも大受けしているのはよく分かりません。
グレーな感情で終わる結末を含めいいと思ったところはたくさんありますが、にしてもここまで席巻するか?というのはまた別の話です。ザンドラ・ヒュラーの演技は賞賛すべきです。そこに異論はありません。トリエの中では中ぐらいの作品ではないかと思います。悪くはないが地味すぎます。
吉原
会話劇の要素が強く、サスペンスを期待していくと面を食らうという前情報を聞いていたので、多少身構えて行ったけど、十分に面白かったです。
映画の進行と共に、新事実が明らかになっていくという法廷もの映画の王道を押さえつつも、最後まで妻が無実かどうかが分からない緊張感を持たせる方法には恐れ入りました。
現時点(2024/3/2)で今年ベスト級に好きな映画だったのですが、1点だけ不満があります。
この映画の特徴は「アリバイを証明する人物が11歳かつ視覚障害を持つ息子のみ」というところだと思いますが、この点に関してはその設定の必要性をあまり感じませんでした。
アリバイを証明する人物が子供な時点でそこそこ不利な状況なので、視覚障害である必要はなかったのではないかと思います。そもそもこの映画の中において息子が目が見えていたら解決する問題は何一つなかったと思いますが…
この一点だけは不満でしたが、それ以外は150分が短く感じるほど、文句なしの傑作でした。何よりも主演のザンドラ・ヒュラーとその息子役のミロ・マシャド・グラネールの演技が素晴らしかったので、何かしらの賞を受賞して欲しいですね。
<おわりに>
今年の映画賞を席巻している作品です。アカデミー賞では何か受賞するのか、気になるあたりですね。
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