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【森は語る#3】 マザーツリーとは?— 樹木の「社会性」

はじめに:森のリーダー「マザーツリー」

森を歩いていると、私たちは木々がただ無造作に生えているように見えます。しかし、実は森の中には「リーダー」となる木が存在し、他の木々を支えていることが科学的に明らかになっています。そのリーダーこそが「マザーツリー(Mother Tree)」と呼ばれる存在です。

この概念は、カナダの森林生態学者スザンヌ・シマード博士によって提唱されました。彼女の研究によれば、森の中の特定の老木が、周囲の若い木々に栄養を送り、病気のリスクを減らし、森全体のバランスを維持しているのです。
前回の記事はこちらから。どうぞご覧ください。



1. マザーツリーとは何か?

マザーツリーとは、森の中で中心的な役割を果たす大型の樹木のことを指します。この木々は、周囲の若木と地下の菌根菌(Mycorrhizal Fungi)を通じてつながり、以下のような働きをしています。

  • 栄養の供給 :光合成で得た炭素や養分を、周囲の若い木々へ送る。

  • 病気の警告 :害虫や病原菌の攻撃を受けると、化学信号を発して他の木々に警告する。

  • 種の維持 :遺伝的に近い若木を識別し、より多くの栄養を供給する。

  • 森林の回復 :森林が破壊された後、新たな木々の成長を助ける。

これらの働きを通じて、マザーツリーは「森の母」として、次世代の樹木を育て、森全体の健全な成長を支えているのです。

2. 地下ネットワークと菌根菌の役割

マザーツリーの力の源は、菌根菌(Mycorrhizal Fungi)と呼ばれる微生物のネットワークです。この菌根菌は、木々の根と共生し、地下を通じて木々同士をつないでいます。

このネットワークは「ウッド・ワイド・ウェブ(Wood Wide Web)」と呼ばれ、インターネットのように情報や栄養を樹木間でやり取りする仕組みです。

  • カーボン(炭素)の共有 :光合成で作られた炭素を、陰に生えている若木へ供給。

  • 水分と栄養の交換 :乾燥時には水分を融通し合い、土壌の栄養を広く循環。

  • 防御シグナルの伝達 :害虫や病気が発生すると、警告信号を発し、周囲の木々が防御酵素を作る。

このように、森林は競争の場ではなく、助け合いのシステムによって成り立っているのです。

3. 人間社会における「親」の役割と類似性

マザーツリーの働きは、まるで人間社会における「親」の役割とよく似ています。

  • 子供を支える :親が子どもに栄養や知識を与えるように、マザーツリーも若木を支援。

  • コミュニティの形成 :親が地域社会を支えるように、マザーツリーも森林全体の安定に貢献。

  • 世代を超えた知恵の伝承 :人間の親が子供に知識を伝えるように、マザーツリーは次世代に栄養とシグナルを遺す。

このような視点から考えると、森林は単なる「資源」ではなく、生命が共存する「社会」として捉えることができます。

4. 伐採とマザーツリーの消失がもたらす影響

森林伐採が進むと、マザーツリーも失われ、以下のような悪影響が出ます。

  • 若木の成長が遅れる :養分を供給する親木がなくなる。

  • 生態系の崩壊 :地下ネットワークが断ち切られ、森林の回復力が低下。

  • 気候変動の加速 :炭素の貯蔵庫としての役割が失われ、大気中のCO2が増加。

持続可能な森林管理のためには、伐採を行う際にもマザーツリーを保護し、森林の再生能力を維持することが求められます。

5. まとめ:マザーツリーから学ぶ「共生」の哲学

マザーツリーは、単なる大きな木ではなく、森林の命を支える存在です。
私たち人間も木に学び、競争だけではなく、助け合いの中で生きる存在であることを思い出す必要がありそうですね。
(マザーツリーのよう、器の大きな人間になりたいものです。)

次回予告

次回は森林の地下ネットワークについて詳しく解説し、菌根菌がどのように森全体をつなぎ、維持しているのかを掘り下げます。

こちらから、どうぞご覧ください。


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