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【植物の知性#3】 マンクーゾ著書 『植物は〈知性〉をもっている』 植物には20の感覚がある?
はじめに
この記事では、イタリアの植物学者 ステファノ・マンクーゾ教授 の著書『植物は〈知性〉をもっている』のはじめに(p.13〜)と第一章(p.19〜)を紹介します。
特に、筆者が面白いと感じたポイントを取り上げ、マンクーゾ教授の主張や問題提起をわかりやすくお伝えしていきます。
本書は200ページほどで、とても読みやすく専門的な知識がなくても楽しめる内容になっています。500ページを超える大作【スザンヌ・シマード博士のマザーツリー】とは違う良さがあり、さらっと読める本です。
前回の記事はこちらから、どうぞご覧ください。
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1. 植物の知性とは何か?(第一章の要点)
1.1 ギリシャ哲学から続く問い
植物に知性があるのか?この問いに答えるには、なんと ギリシャ哲学まで遡る必要がある と、マンクーゾ教授は述べています。
古代ギリシャでは、「植物に魂はあるのか?」という問題について、様々な学派が対立していました。しかし、何世紀にもわたる科学的発見があったにもかかわらず、植物の知性についての問題は今なお解決されていない というのが、マンクーゾ教授の課題提起です。
さらに、学説の土台には 「思い込み」 や 「文化の中に根付いた価値観」 が深く関わっていると指摘します。
1.2 近年の変化と植物の権利
近年、ようやく植物を「知性を持つ生き物」として認める動きが出てきました。その代表例として、2008年にスイスが 「植物の権利」を世界で初めて認めた国 になったことが挙げられます。
また、マンクーゾ教授は「知性とは何か?」という問いに対し、「問題を解決する能力」 であると定義しています。そして、植物がこの定義に十分当てはまることを、著書の第五章で詳しく解説しています。
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2. 植物が軽視されてきた理由(第一章「問題の根っこ」より)
2.1 宗教による影響
マンクーゾ教授は、一神教的な宗教が植物の価値を低く見積もる一因となってきた と指摘します。
旧約聖書の冒頭には、「はじめに緑があった」という記述があるものの、その後 人間が「神の最高の創造物」として登場する 構成になっています。
ここからもわかるように、聖書の世界観は人間中心主義であり、植物はその背景として扱われる存在だった というのがマンクーゾ教授の見解です。
また、イスラム教では、神(アラー)や生き物を描くことが禁止されていますが、植物は例外とされています。これは、植物が「生物ではない」と見なされていた証拠 だと、教授は批判的に述べています。
一方、ユダヤ教では異なる価値観が見られます。例えば、ユダヤ教の教義では 「理由なく木を切ることは禁止」 されており、樹木に感謝を捧げる春の祭日も存在します。
2.2 哲学・科学による影響
宗教だけでなく、哲学や科学もまた、植物の過小評価を助長してきたと教授は指摘します。
アリストテレスやデモクリトスは、植物を「生命のない存在」と見なしつつも、「知的な生物」としての側面も併せ持つと考えました。この 曖昧な見解 が広まり、植物はどっちつかずの扱いを受けるようになりました。
18世紀のリンネは、「植物は眠る」という概念を提唱しました。
ダーウィンは 食虫植物の存在を認め、植物が積極的に環境に適応している ことを示しました。
このように、植物に関する認識は少しずつ進化してきたものの、いまだに「知性を持つ生物」としての評価は十分ではない、というのがマンクーゾ教授の主張です。
2.3 文化的偏見が生んだ「植物の軽視」
第一章の締めくくりとして、マンクーゾ教授は 植物の過小評価は文化によって必然的に生じたもの であり、その結果、科学や日常生活においても植物が軽視され続けていると述べています。
「これまで見てきたように、植物の過小評価は、私たちの文化によって必然的にもたらされた。科学的にも日常生活にも共通する価値観が、植物を生物全体の最下位に追いやっている。人類の共存と未来は植物にかかっているという事実にもかかわらず、植物の世界全体が見くだされているのだ」
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3. まとめ
マンクーゾ教授は、植物の知性についての長年の誤解と過小評価に警鐘を鳴らし、それを見直す必要があると強調しています。
本書では、この第一章を土台にしながら、植物が持つ20の感覚やコミュニケーションなど知性に関して紹介されています。
特に筆者が面白いと感じたのは下記についてです。
植物はどのように問題を解決するのか?
植物が持つ感覚とは?
植物の睡眠とは何か?
本書は200ページほどと比較的短く、学術的すぎる難解な表現もないため、植物に興味がある方にとって読みやすい内容になっていて、おすすめです。
★参考文献
マンクーゾ, ステファノ. 『植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム』 NHK出版, 2015年.
次回の記事はこちらから、どうぞご覧ください。